120 / 交わらぬ会話
俺は小石を拾い上げると、そのまま道路のむこうへ、ぽーんと投げた。
道の向こうでは、今度、新しくできるホテルの工事が行われている。
そのホテルのIT部門で働くことになっている俺は、今日、システムの打ち合わせで現場近くの貸会議室に呼ばれていた。
昼休憩、一目おがんでおこうと現場に足を運んでみたら、自分と同じ、肌の浅黒い外国人が働いていた。
現場主任に身元をあかした上で尋ねてみると、そのほとんどが、俺と同じ国の男たちであることが判明した。
日本人から見たら、俺も彼らも同じ「外国人」なんだろうな。
そんなことを、思う。
けれど、俺と彼らとの間には、決して成立しない会話がある。
俺は恵まれている、と思う。
あいつらは、恵まれていない、と思う。
けれど、同じ空気を吸って、生きている。
俺と彼らとの差は、単なる学歴の差だろうか。
それともほかに何かあるのだろうか。
後日、そんなことを彼女に相談したら、日本人でも同じことを思うだろうと言っていた。
スーパーでバイトをしている彼女は、完全に「現場」側なのだけれど、それでも彼女は誇りをもって仕事をしている、仕事は楽しいと言っていた。
そこは、俺、あまり理解できないな、と思う。
絶対、同じ時間を捧げるなら、お金が稼げる方がいいじゃないか。
彼女は嘘をついているのか?
率直に彼女に尋ねてみると、「現場の人間でも十分に普通の暮らしが出来ている日本が、恵まれているのかもね」という答えが返ってきた。
俺の国では現場の人間は底辺だ。
若いうちに体力を吸い取られた挙句、皆がりがりにやせ細って死んでゆく。
生活がかかっていなければ、誰もやりたがらない過酷な仕事だ。
「ねぇ、なんで俺とつきあおうと思ったの?」
俺は彼女に聞いてみた。
「そりゃあ、ちゃんとした仕事をしてるからじゃない」
彼女はこともなげに言う。
「矛盾してるよ」
俺の言葉を受けてきょとんとする彼女の目を見つめ返し、俺は静かにキスをした。




