102 / 僕と少年
12歳のとき、父が家を出て行った。
両親が離婚してしばらくして、学校の朝の会で、先生から紹介があった。
「今日から宮崎さんの苗字が武田に変わります。みなさん、よろしくお願いします」
と。
先生は両親の離婚については触れなかったが、親同士の交流で漏れたのだろう、僕の苗字が変わることになった原因は、瞬く間に生徒に広まった。
それからというもの、「宮崎さん、あ、ごめん、武田さんだった」というふうにわざと間違える奴がではじめたり、廊下を歩いていて「離婚」という言葉とともに指さされることが多くなった。
元々、何を言うにも言葉足らずで友人の少なかった僕は、ますます寡黙になり、その数を減らしていった。
ある日の放課後、教室で鞄にノートや教科書を入れていると、クラスのリーダー格の男子がわざわざ僕の前の席に座ってこちらを向いて、「り・こ・ん?ねぇ、宮崎の両親、離婚したんだっけ。あ、ごめん、武田君だったね、きみ」とからかってきた。
僕は言い返そうとしたけれど、一体何を言っていいのかわからず、ただ唇を震わせ、拳を握りしめて相手を見返していた。
するとその子は「こっち見てんじゃねーよ。なぁ」と、後ろにいた取り巻き連中と一緒になってにやにや笑い始めた。
僕はたまらなくなって、「やめてよ」と小さく言った。
その子は、「はぁ?」と大きな声で言ってきた。
僕はこわくなって、とにかくこの場を去ろうと、鞄を背負って席を立った。
廊下に出ようとしたとき、「逃げんじゃねーよ!」と、大きな声が背後から聞こえた。
僕は悔しくて、悔しくて、泣きながら家に帰った。
「それが、僕の一番苦しかったときの思い出だ」
四十五になった僕は、目の前の少年につとめてやわらかな笑顔を向ける。
「ふぅん」
目の前の少年は、表向きは関心がなさそうに僕の言葉に耳を傾けている。
「僕がよくなかったのは、両親が離婚したからって、しょぼくれてしまったことなんだ。しょぼくれて、油断して、その隙をつかれていじめにあった」
僕は少年の目を見つめる。
「もちろん、いじめる方が悪いんだけどね。でも、いじめっ子ってやつは弱い奴を狙う。だから新しい学校では、堂々としていること。見栄を張ると逆に弱そうに見えるから、そこはあくまで自然体でな」
「ふうん」
少年の目が大きく開き、きらりと光ったのが分かった。
僕は彼の背中を、二、三度、小さく叩いて笑った。




