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『キリトリセカイ』Vol.02(101~200)  作者: 百字八重のブログ


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17/26

117 / 帰り道


今日も職場で経理の米沢さんに詰められた。


「前も言ったと思うけどさあ」「なんで分からないんだろうね」「学習能力がないんじゃないの」

などなど、米沢さんは性格と言葉が異様にきつい。

私の米沢語録は毎日のように更新されていく。

帰宅途中はその語録が頭の中で嫌でも繰り返されるため、自然と足取りは重く、背中は丸くなってしまう。

自分でも仕事がうまくできたと思える日でも、米沢さんに何か一言言われるだけで、その日はブルーになってしまう。

死ね!米沢!

私は心の中で叫びながら、道端の小石を思い切り蹴りあげる。

小石はころころと転がってゆき、そのまま側溝へと落ちていった。

なんでもないことだったが、なぜだかそのことが余計に気持ちを暗くさせた。


帰る途中で気分を変えようと本屋に寄った。

漫画、小説、新書、自己啓発と本棚を巡り、最後にビジネスの棚へとやってきた。

「職場での人間関係に悩んでいる人へ」

自然と、そんなタイトルの本に手が伸びる。

しかしそこには、「他人を変えるより自分を変えなさい」といったことがつらつらと長文で並べられているだけであった。

なんであの米沢のために私が変わらなければならないのだ。

そんな労力を割く気は一切ない。

今だって、あいつのために相当、嫌な気持ちにさせられているのだ。

そんな思いがこみあげてきて、私は手に持っていた本を閉じ、そのまま本屋をあとにした。


コンビニに寄り、スイーツコーナーへと向かう。

五月も下旬となり、そこには目にも鮮やかな、いかにもおいしそうな色とりどりのパッケージに包まれたお菓子が並んでいる。

それだけで気分は上がる。

私は「若鮎(求肥)」という和菓子を選んで、ついでに軽いお酒も一緒にレジへと向かった。

ここのコンビニの店員さんは、みんないつも笑顔で気持ちよく対応してくれるから好きだ。

家までの帰り道、大好きなものを数えてみる。

家族との電話、恋人とのデート、道端に咲く花、仕事帰りに買うコンビニのスイーツ、月に一度のヘアサロン、半身浴、映画鑑賞、満点の星空――。


見上げると、夜空にまんまるに太った月がぽっかりと浮かんでいた。

私はおおきくため息をつく。

とりあえず、米沢さんに何も言われなくなるまで、今の職でもうちょっと頑張るか。

仕事は好きなのだし。

そうひとりごち、きらきらするスイーツと酒の入ったビニール袋を楽しみに、私は鍵穴に家の鍵を差し込んでまわした。







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