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『キリトリセカイ』Vol.02(101~200)  作者: 百字八重のブログ


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15/25

115 / サブと詩集


まだ五月だというのに三十度を超える日が続いている。


たまらず、綾子は昨晩、ついにクーラーをつけた。

元々汗をかきづらい体質で、体の内に熱がこもる綾子である。

夜は二十五度を記録していたが、クーラーの温度設定を二十四度にして、思う存分その心地よさに酔いしれた。


ふと、両親が生きていた頃に、同じことをして怒られた記憶が蘇る。

あれはまだ、確か、私が四十代前半であったか。

実家暮らしだった綾子が自分の部屋でクーラーを入れていると、母が「切りなさい!まだ早いわよ!」と怒鳴り込んできたのだった。


普通に汗をかくことができて、真夏でもクーラーをつけたがらない母のことを、その点においてのみではあったが、綾子は心底嫌っていた。

母は、元看護士であった。

元看護士であれば、私の体質に対して想像力を働かせてくれでもいいだろうに、と、綾子はそのたびに思うのだった。


父が死に、母が死に、独身だった綾子はそのまま一人暮らしをすることとなった。

そんな綾子も、もう高齢者と呼ばれる年代に突入した。

「おいで、サブ」

今では愛犬のサブと二人暮らしである。

綾子は愛犬を抱きかかえると、くん、とそのおなかのにおいをかいだ。


「生きものの、においがするのよね、あなた」


綾子はそう言って、二回、三回とサブのおなかに顔をうずめる。


生きているということ

いま、いきているということ――


そんな詩があったな、なんて思い出す。


綾子はサブを床におろすと壁にそびえたつ本棚へと向かった。

そこには、今までの人生でちびちびと買い集めてきた沢山の本が並んでいる。

その中から、さきほどの詩の書かれた一冊を取り出す。


「おいで、サブ。読んであげる」


風通しのよい、日の当たる場所に椅子を持っていき、そこに深々と腰掛け、綾子は本を開く。


「生きているということ

今、生きているということ――」


足元のサブは、綾子の声に耳をそばだてて、いつまでもいつまでも尻尾を振っているのだった。







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