111 / ママの予定
ゴールデンウィーク最終日、私は朝5時に起きた。
仕事の日は6時に起きるので、いつもより1時間、早い。
寝ている夫を起こさないようベッドから這い出ると、まずはキッチンへ向かう。
ぼんやりとした意識のまま、電気ポットに水を入れる。
ジジジという小さくて低い電子音が、静かなキッチンに響く。
待っている間、洗い物のかごに入っていたマイカップを引っ張り出し、戸棚から出したインスタントコーヒーを適当にいれる。
さらさらと、コーヒーの瓶から、茶色い粉がカップの中へと流れ落ちるのを見る。
カチと鳴って、お湯が沸いた合図がする。
よいしょと電気ポットを片手で持ち上げる。
目が覚めていたらなんてことはないのに、朝のゆるんだ筋肉では、電気ポットひとつ持ち上げるのでもひどく重く感じられる。
こぽこぽ、と、お湯をカップに注ぐ。
たちまちカップの中で粉とお湯が混ざり合い、あたりにかぐわしい香りがたちこめる。
家の前を走ってゆくランナーの足音が聞こえる。
キッチンの片隅に置いてある丸椅子に腰かけ、ひとくち、あちちとコーヒーをいただく。
ひどく、穏やかな朝である。
さて、何をしよう。
休みの日なので、家族は9時くらいに起きてくるだろう。
現在、5時30分。
スマホのメモ帳アプリで新規のページを作成する。
「9時までにすること」と題して、思いつくことを打ち込んでゆく。
まずは朝食、その次に洗濯、掃除。
結局いつものルーティンを真っ先に思いつく。
それでも、だいぶ時間が余りそう。
さて、何をしよう。
私はしばらく考えて、「散歩」と打ちこんだ。
それから、「ストレッチ」「座禅を組む」こんなところだろうか。
そうそう、読みかけの「小説を読む」。
と、その時、リビングのドアが開いた。
顔を出したのは、小学6年生になったばかりの息子の昌磨だった。
「あれ?ママ何してんの」
「いや、早く起きちゃて」
「ぼくも」
そう言って、昌磨はキッチンまでやってくる。
「何飲んでんの」
「コーヒー。インスタントのやつ」
「ぼくも」
「だーめ。水か牛乳にしておきなさい」
「じゃあ牛乳」
「自分で出しなさい」
言われて昌磨は座っている私の前を通り過ぎて冷蔵庫へと向かう。
「昌磨、これから一緒に散歩いかない?」
牛乳ひげをつくりながら昌磨が「行く!」と目を輝かせる。
朝かあら元気いっぱいだなぁ。
息子のそんな姿に目を細めながら、他の予定はこなせないな、と私は頭の中でメモ帳の項目を淡々と消していった




