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異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
05_異世界の旅路編

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93/251

93_ぎっくり腰にはご注意を

 連日の野宿は、現代日本人にはなかなかに堪える。


 私は川の近くに立てた小さな野営地で目を覚ました。硬い地面の上に横たえた身体が、ミシリと変な音を立てたが気付かないフリをした。


「おはようございます、ビョルンさん」


「ん」


 火の番をしていたビョルンさんは、私が起きたことに気がつくと鼻を鳴らして返事をした。いつもの、彼なりのおはようの挨拶だ。


「お水、汲んできますね」


 顔を洗って朝食用の水を汲んでこよう。

 私は立ち上がって火の近くに置いていた桶を取り、河原に向かった。朝の清々しい空気に、水と草の香りが混じっていて心地よい。流れの遅い河原の水は澄んでいて、手に触れるとひんやりと冷たかった。 


 私は手早く顔を洗ってから、桶に水をたっぷりと汲み上げる。そして何気なくそれを持ち上げた。はず、だった。




「芋虫の真似事でもしているのか」


 なかなか戻ってこない私を心配したのか、様子を見に来てくれたビョルンさん。しかし行動とは裏腹に冷たい目で私を見下ろしていた。 


「こ、これが……遊んでる、ように……見えます、か……!?」


 河原に這いつくばって、地を這うような声で凄む。するとビョルンさんにしては珍しく、狼狽えるように後ずさった。私の顔が相当怖かったのだろうか。


「遊んでいるわけでないのなら、なんだ」


「……し」


「は?」


「腰、が……」


 腰から這い上がってくる激痛に脂汗を浮かべながら、私は声を絞り出した。ズキズキ、ジンジンなんて表現とは程遠い。激痛。この一言に限る。 


「痛めただ(・)け(・)か」


「だけ、じゃない……っ!」


 いわゆるこれはぎっくり腰と言うやつで。野宿続きの身体で、不用意に重いものを持ち上げた弊害だろう。みっともなく地面に這いつくばっている自分の姿に泣きたくなる。


「はぁ……軟弱者め」


「それがぎっくり腰の相棒にかける言葉ですか。鬼、悪魔、ケチエルフ」  


 しくしくと泣きながら蹲っていると、ビョルンさんは深いため息をついて近づいてきた。肩肘をついて、私の脇に手を差し込む。嫌な予感がして息を吸うと同時に、乱雑に持ち上げられた。その瞬間、落雷が落ちるような悲鳴をあげた。


「痛い痛い痛い! もっと優しく運んでぇっ!」 


「やかましい」


 キーン! と、エルフの長い耳の近くで叫ぶ。申し訳ないとは思うけど、私だって余裕が無い。あとで美味しい朝ごはん作ってあげるから、許して欲しい。 


「回復魔法をかける。動くな」


「早く! 早くしてください、死んじゃう!」


「やかましい」


 あまりの激痛に、羞恥心も忘れてビョルンさんの首にしがみついた。うっとうしそうなビョルンさんだが、さすがに負傷したビジネスパートナーを取り落とす無慈悲さはない。小さく呪文を唱えると、私の腰に手を当てて回復魔法をかけてくれた。


「死ぬかと、思っ……マジで、ヤバかった……」


 涙目になりながら、ビョルンさんにぐったりと体を預けて呟く。回復魔法のおかげで激痛は鈍痛に変わり、徐々に痛みは引いていく。しかし、まだ動くのは怖くてビョルンさんにしがみついたままだ。


「おい、もう完治した。離れろ」


「ま、待ってください……まだ、ちょっと余韻が……」


「くだらん」   


 口ではそう言いつつも、しっかりと抱え直してくれるあたりビョルンさんはとても優しい人だと思う。ビジネスパートナーが慈悲深い人でよかった。本当に。


「ん……?」


 そこで、ふと疑問が浮かぶ。回復魔法をかけるだけならば。


「抱き上げる必要、なかったのでは?」


 ビョルンさんは答える前に、ぱっと手を離した。この異世界にも、地球と同じ重力が存在する。そのため当然、支えを失った私の体は地面に落っこちるわけだが。


「痛ぁーッ!」   


 ドスン! と尻もちをついた私に一瞥すらせず、ビョルンさんはさっさと水を汲み始めた。先程よりは軽いけれど、それでも勢いよく打ち付けた腰はそれなりに痛い。


「なんなんですか、もう!」


 私は大声で文句を言うが、ビョルンさんは耳を下げたままこちらを振り向きもしない。乱暴に水を掬って、桶を小脇に抱えた。そして川の底を見つめながら、消え入りそうな声で言う。


「……ただ、少し動揺した。それだけだ」


 その言葉を最後に、ビョルンさんは背を向けてずんずんと野営地に戻って言ってしまった。


 つまり、不器用な彼の言葉から察するに、痛みに悶え苦しむ私を見て動揺してしまったということか。なかなか帰ってこない相棒が、芋虫みたいに地面に這いつくばって泣いていたら……たしかに心配するかも。


「そうならそうって言ってください! なにも、落とすことないじゃないですかっ!」   


 私は立ち上がりながら、ビョルンさんの後ろ姿に声を投げかける。彼の耳は私の声を拾うように、ひょこんと跳ねた。もちろん、彼は何も答えないけれど、その大きな背中には居た堪れなさが滲んでいた。


 本当に素直じゃない人。私はどうしようもなく胸がくすぐったくなって、彼を追いかけるように獣道を走っていった。 

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