85_もうひとつの異世界人召喚儀式
『は……? なにここ?』
目が覚めたら、そこは夜の教会だった。青いステンドグラスから差し込む月明かりが、冷たく聖堂内を照らしている。
外国の教会みたいだけど、なんか微妙に雰囲気が違う。テーマパークみたいなチープな感じは一切ない。
私、さっき大学からの帰りのバスに乗って、それで……?
『あぁ、私の女神よ!!』
目の前で這いつくばっていた男が急に立ち上がって、私の腕をつかもうとした。キモくて反射的に距離を取った。そこで初めて、自分の足元に赤い魔法陣があることに気がついた。
『え、キモ。なんなのよ!?』
だけど男はすぐに立ち直って、ニコリと微笑んで見せた。二十後半くらいの外国人。金髪と青い目をした、ミュージカルみたいなキラキラした服を着た、王子様風の男の人だ。
……まぁ、顔は悪くない。言動はちょっとキモイけど。
『どうか拒まないでくれ。君は私の運命。異世界から選ばれた、私の女神だ』
異世界?
よくわかんないけど、ここは日本じゃないってことはわかった。スマホつかないし。最悪。別に家が好きなわけじゃないけど、帰れないのはマジでダルい。しかもこのイケメンは私に喋らせるつもりがないのか、すごく一方的に捲し立ててくるのでかなりウザい。
私は爪を弄りながら、話半分にその男の話を聞いた。
『私は君の為ならば、なんでも全てを差し出そう! 金も、権力も、この命すら捧げよう! だから、私のそばにいておくれ』
うわ、なにそれ。重。キモい。鳥肌が立つくらい、生理的にムリ。
でも、この感じじゃすぐに帰らせてくれそうもないし。面倒くさくて舌打ちが出ちゃった。
『マジで、なんでもいいの?』
『もちろんだ。何が欲しい? 言ってごらん』
優しい言葉と王子様みたいな態度に少し考えてみる。確かに金は持ってそうな身なり。怪しい宗教勧誘とか誘拐ではなさそう。
じゃあ、言うだけ言ってみるか。
『豪華な服と靴、おいしいご飯、お姫さまみたいな部屋……ぜんぶちょうだい?』
『あぁ、いいとも。すぐに手配させよう』
笑われるから言わないけど、実は昔からプリンセスに憧れてたのよね。まぁ、これが夢なのかなんなのかよく分かんないし、今はわがまま放題しちゃおうかな。
どうせ、このイケメンがどうなろうと私には関係ないもんね。
『聞かせておくれ、愛しい人。君の名前は?』
搾り取れるところまで、搾り取ってやるわ。よくわかんないことに私を巻き込んだこと、後悔しないでよね。
私は可愛い笑顔を作って、男ににっこりと微笑んだ。
『私の名前は……ハルよ、旦那様』




