84_星が繋いだ縁(えにし)
賑やかな音楽が流れ始め、広場の中央では町娘たちが手を取り合って踊り始めた。笑い声、肉を焼く煙、そして夜風に乗って漂うハーブの爽やかな香り。それらを肌で感じながら、私はレイドさんたちパーティーとエールを飲み交わした。
しかし冒険者ギルドの冒険者は多忙だ。話もそこそこに仕事があるからと、四人は別れの挨拶をしてくれた。すごく寂しいけれど、彼らは旅する冒険者。きっとまたどこかで会えるだろう。
「またね、ルナさん」
「ビョルン君にもよろしくね」
別れ際、シンシアさんはいたずらっぽく微笑んで、私の鼻をツンと突いて去っていった。
「そういえばビョルンさん……ビョルンさん!?」
隣を見ると、首まで真っ赤にしたビョルンさんが樽の上に座ってこっくりこっくりと船を漕いでいた。いつの間にか、酒が回っていたようだ。
「ちょ、さっきから静かだと思ったら! まさかエール一杯で酔っぱらっちゃったんですか?」
よく見れば、彼の端正な顔は耳の先まで真っ赤に染まっている。ライムグリーンの瞳はとろんと濁り、自慢の長い髪も少し乱れていた。
「ビョルンさんが、ここまでアルコールに弱いなんて」
「俺は……よわく、ない……」
「はいはい。弱い人ほどそう言うんです」
普段の鉄面皮はどこへやら、酔ったビョルンさんは驚くほど素直というか、ただの面倒くさい酔っ払いと化していた。
「ほら、もうギルドに戻りましょう。寝るならちゃんとベッドで寝てください」
「いらない」
「いらなくない」
ビョルンさんの手を引こうとして、その大きな手を掴む。だが、びくともしない。
全然動かない! 何より重い!
「自分で歩いてください……よっ!?」
引っ張っていた腕がスルッと抜けて、身体がふらついた。
視界がひっくり返って、地面にすっ転ぶことを覚悟した。しかし覚悟していた痛みはいつまで経ってもこないし、なにか温かいものに包まれていることに気がつく。
「えっ、わぁ……!?」
顔を上げると、ビョルンさんの顔が目の前にあった。
さらりと流れる前髪の隙間から覗く長いまつ毛、整った顔立ちが真横にあって、自然と心臓が跳ねてしまう。けど、私を抱きとめてくれた腕は力強くて、そろそろ口から内臓が飛び出そう。転ばないようにしてくれたのはありがたいけれど、この状況は大変困る。
「ビョルンさん、はなして」
じゃないと私、潰れちゃう。
しかしビョルンさんはじっとライムグリーンの目で見つめるだけ。必死に訴えるけれど、ビョルンさんは私の肩に腕を回したまま、とろんとしたライムグリーンの瞳でじっと私を見つめてくる。至近距離すぎる整った顔立ちに、こっちの心臓がうるさくてたまらない。
「星……」
「へ?」
「星が、あるな」
そう言って、彼は普段よりも熱を持った指先で、私の左目尻にある泣きぼくろをそっとなぞった。
「あの日も、そうだった」
「あの日?」
「お前が、落ちてきた日……」
心臓がドキリと跳ねる。もしかしたら、ビョルンさんは私がこの世界に召喚された瞬間を見たのではないか。何か知っているんじゃないか。そんな期待が顔を出して、はやる気持ちで彼の次の言葉を待つ。
「俺は……あの、森で……」
「……で?」
ぐっと近づけられる腕。私はビョルンさんの腕に囲われて、彼は私の肩口に顔を埋めた。わずかな鼻息がくすぐったい。
「ビョルンさん?」
返事がない。
「ウソでしょ」
寝た。寝やがったこいつ。
あの気高く冷徹なエルフの魔術師が、私の肩に頭を預けて幸せそうに寝息を立てている。
「ね、寝ないでください、ビョルンさん! 今! 一番大事なとこ! ねぇ!」
身体を揺らしてみるが、この憎たらしい酔っ払いエルフは完全に寝落ちてしまって起きる気配がない。しかも困ったことに、私を囲う腕もそのまま放置されている。
つまり今、私たちは……そう、仲良く抱擁しているような格好なのだ!
こんなところを誰かに見られでもしたら、一大事になること間違いない。一刻も早く離れたい。しかしそういう時に限って、タイミングが重なるものだ。
「おや、随分と熱烈だねぇ?」
最悪だ—ッ!!
ジョッキを片手に持ったアニタさんは、私たちの姿を見てガハハと豪快に笑った。その笑い声に気がついたのか、エリザベスさんやクレイモアさんがこちらを振り返る。彼らはみんな、私たちに優しい眼差しを向けた。
「仲が良いのは結構なこった」
「ご、誤解ですーーッ!!」
私の叫びも虚しく夜風にかき消され、ルーンデールの宴は賑やかに更けていった。




