75_なにはともあれ朝日は昇る
朝、小鳥の音で目が覚める。見覚えのある天井、ふかふかのベッドと滑らかな毛布。
「あ、やば。眼鏡かけっぱにしてた! ……うぶっ!?」
しかし手を顔に当てると、ベチンと直撃した。
「いつの間に外したんだろ?」
自分で外した覚えが全くないけれど、無意識のうちに外していたんだろうか。
「ビョルンさんがそんなことするわけないしな」
あの不器用な偏屈家が、そんな優しさを見せるわけないし。
大きく伸びをして名残惜しいベッドに別れを告げ、身支度を整えるためにベッドサイドに置いた眼鏡を掛けた。自分が置いたにしては、几帳面かつ丁寧に置かれていたことに気が付かないまま。
身支度を整えてからギルドの食堂に下りると、朝から熱気と活気に満ちていた。人々の話し声や笑い声、調理場から響く調理の音、そして朝の清々しい空気と、それを凌駕する火の通った加工肉と卵の香り。慌ただしい朝だが、それらは平穏そのもので、昨日の大仕事がまるで夢だったのではないかと錯覚してしまうほどだ。
「ルナちゃん、おっはよう!」
「おはようございます、ポーシャさん」
調理場からポーシャさんがニコニコと可愛らしい笑顔で顔を出した。ギルドの食堂は格安で食事ができるのが大変ありがたい。
「お金はビョルンさんから貰ってるよ。はい、今日の朝ごはん『ルーンデール・ブレックファースト』だよ!たくさん食べて、たくさんお仕事しようね!」
さすが商人ギルドのハーフリング。朝からとても働き者だ。私が大きな銀皿を受け取ると、パタパタと慌ただしく他の客のところに駆けていった。
「おはようございます、ビョルンさん」
「……ん」
ビョルンさんはいつもの食堂の隅で、ちまちまと豆を口に運んでいた。銀皿の中身は大して減っていない。
「お待たせしてすみません」
「待ってなどいない」
ぶっきらぼうにそう言って、彼はふいと目を逸らした。しかし、彼の傍らに置かれたお茶はとっくに冷えきっているようで、彼がどれほどの時間をこの場所で過ごしたかを示していた。
「素直じゃない人」
思わず呟くと、ビョルンさんの眉間に濃いシワが寄った。しかしすぐにからかうような目で、こちらを見る。
「ならお前は、ペラペラとよく喋るエルフの方が好みか?」
今日は冗談を言えるくらい機嫌がいいらしい。大仕事の後だから、口も軽いのだろう。
「いいえ? 私は不器用で無愛想で口下手でもいいですよ。仕事さえしてくれるなら」
私は行儀悪くテーブルに肘をついて、ビョルンさんの顔を覗き込む。
「まぁ、もう少し可愛げがあれば、仕事も楽しくなりそうですが」
「言ってろ」
ビョルンさんは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。しかしその耳は少し機嫌良さそうに上がっている。本当に素直じゃない人だ。
「冷めないうちに食え」
「そうですね。いただきます!」




