↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
04_VS 魅了の魔女 ハル編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
72/246

72_ただいま、我が家

「なっ、な、なな、なんじゃこりゃああーッ!!」


 馬車が商人ギルドに着いたのは日付が変わる少し前だった。私たちが扉を開けるなり、中央カウンターで待っていたアニタさんの絶叫が響き渡る。


「あ、アニタさん、もう夜なのでお静かに……」


「出来るわけないだろ!? ルナ、あんたどうしたんだいその格好!? まさか血じゃないだろうね!?」


 アニタさんの言う通り、たしかに今の私たちはひどい格好だった。私のドレスはワインで汚れ、(すそ)は切り刻まれてボロボロ。ビョルンさんの髪は大きく乱れ、服は煤まみれだ。魔法が解けたシンデレラでもこんなに酷い格好ではあるまい。


「血ではありませんから、ご安心ください。えぇと、作戦の変更がありまして、そのぅ」


「ビョルン! あんたが付いてて、なんでこんなことになったんだい」


「……」


 苦虫を噛み潰したような顔で、耳を下げるビョルンさん。それを鬼のような形相(ぎょうそう)をしたアニタさんが見下ろしている。アニタさんとビョルンさんの間に割って入って、アニタさんを落ち着かせるように手を握った。


「むしろビョルンさんに助けてもらったんです。ビョルンさんのおかげで、ハルに勝つことができたんですよ」


 私の言葉にようやく、アニタさんは殺気を収めて大きく息を吐いた。


「そうかい。なら、いいけどね」


 ビョルンさんはアニタさんの視線から逃れるように、ふいっと顔を逸らす。そして居心地悪そうに耳を上下している。


「ご苦労さま。疲れたろう、お腹すいたかい?」


「小娘は腹を空かせてるだろうな」


 私とビョルンさんの肩を叩いて、ようやくアニタさんが笑顔を見せてくれた。その笑顔にようやくギルドに帰ってきた気がして、足の力が抜けてしまった。 


「お腹すいたぁ……」


「じゃ、なにか軽く飲めるスープを用意してあげるよ。その前に風呂に入っといで。ポーシャ、起きてるかい!」


 アニタさんの大きな声と騒ぎを聞きつけたロッドさんやポーシャさん、その他商人ギルドの面々が駆けつけて、その場は大騒ぎになってしまった。ビョルンさんは煩わしそうに首を振っているが、そんなのは構わずギルドの皆から構われ倒したのだった。


「全く、騒々しい奴らだ」


「でもようやく、帰ってきたって感じですね」


 私の言葉に、ビョルンさんは目を伏せて静かに頷く。


「まぁ……今日くらいは、悪くないだろう」


「出ました。ビョルンさんの『悪くない』!」


「茶化すな。鬱陶しい」


 そう言うビョルンさんの口角が、ほんの少しだけ上がっていることに、私は気がついていた。素直じゃないんだから、という言葉は胸の内にしまっておいた。


「ルナ」


 ビョルンさんが私の名前を呼ぶ。


「どうしました、ビョルンさん?」

 

 私は普段通りに名前を呼び返す。ビョルンさんはなにか言いたげに視線を彷徨(さまよ)わせでいたけれど、結局それが言葉になることはなかった。


「ビョルンさんってば」


 私は焦れてもう一度、彼の名前を呼んでみる。ビョルンさんの耳がひょこんとあがり、わかりやすくひょこひょ揺れていた。帰りの馬車でもずっと、私の様子を伺っている気配はしたけれど、ビョルンさんはなにも話そうとはしない。


 きっと、自分の失態を気にしているんだろう。矜持(プライド)の高いエルフにとって、この失態はかなり(こた)えたのかも。

 

「大丈夫ですよ」


 言葉を求めるつもりはない。ビョルンさんは言葉よりも、視線や所作が雄弁だ。今だって、私の背中を支える腕を離そうとしないのだから。


「……ん」


 まだ不安げな顔をしているけれど、ポーシャさん達ハーフリングがタオルを持ってきてくれたところで、ビョルンさんは私から離れていった。彼は誰にも声をかけることなく、騒がしい人混みをかき分けていく。


「あ、ビョルンさん……!」


「着替えてくるだけだ。お前は休め」


 ぶっきらぼうに言って、ビョルンさんはスタスタと立ち去ってしまった。アニタさんはそんなビョルンさんの後ろ姿を静かに見送り、私の方に向き直る。


「さて、ルナ。疲れたろ。あんたは治療と風呂だよ、ルナ」


 大きな手で撫でられて、私はひとつ頷いた。

 まずは体力の回復をしよう。そしてまた、ビョルンさんに元気な顔を見せられるように。


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。