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異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
04_VS 魅了の魔女 ハル編

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69_満身創痍のフィナーレ

 ハルの魔力が霧散し、参加者たちが正気を取り戻し始めた頃。多数の軍靴が大理石の床を叩きながら近づいてくる。そして重い扉が勢いよく開かれて、ようやく憲兵隊が突入してきた。 


「ルーンデール伯爵夫妻を、税の虚偽申告及び暴動の罪により拘束する!」   


 憲兵隊長の高らかな声が響き渡った。憲兵隊は手際良くハルや伯爵を拘束し、エリザベスさんやクレイモアさん、その他参加者たちを保護するために動き始めた。その光景はやっと事態が落ち着いたことを示していて、身体から力が抜けた。


「痛……ッ!」


 気が緩んだ瞬間、破片が刺さった左足がズキズキと痛みはじめる。異変に気付いたビョルンさんが私の足元に膝を突いた。


 もしかして回復魔法を掛けてくれる?と期待した瞬間、容赦なく破片を足から引き抜いた。


「ひっ……!」


 痛みに悲鳴を上げるよりも早く、ビョルンさんは自身のスカーフを引き抜いて傷口に巻いてくれた。血で汚れてしまったスカーフの値段を考えると失神しそうだから、今はやめておく。


「ギルドに戻ったら治療魔法をかけてやる。それまで辛抱しろ」


「せめて、抜く前に一言言ってくださいよ」


「身構えていない方が痛みを感じ難い」


「へぇ、そうなんだ。……じゃなくてぇ!! 魔力枯渇してるなら早く言ってください!」


「問題ない」


「問題ありますぅ!」


 平然を装っているけれど、回復魔法を出し渋るということは先程の一戦でかなり消耗してしまったということだ。ちゃんと自己主張してくれなきゃ困る!


「騒ぐな、喧しい」


「誰のせいだと思ってるんですか。大体、なぁにが『エルフには魔法が効かない』ですか!?」


 図星を突かれて黙り込むビョルンさん。


「ハルに対して油断したんですよね? その結果、私、すっごく大変だったんですけど!」


 彼は決まり悪そうに耳を下げ、視線を足下に落とす。


「すっごく、すっごく怖かったんですからね!!」


 そう、怖かった。ビョルンさんがビョルンさんでなくなってしまって、私を殺そうと向かってきた時。どうしようもない恐怖が込み上がってきた。


 何よりも、優しいビョルンさんが見たこともないくらいに冷たい殺意を向けてきたことが、魅了魔法のせいだと分かっていてもどうしても悲しかった。


 しかしその時の私は、どうにか状況をひっくり返そうと必死で恐怖や悲しみから目を背けていたのだ。それてもまだ、あの時の恐怖は消えない。


 ビョルンさんが剣を振り下ろす直前、まだ割れていない未開封のワインボトルを見つけたのは幸運だった。


 決死の覚悟でワインボトルを盆の後ろに隠して、わざと剣を受けた。命をかけた大博打。ワインボトルを割り、ドレスとコルセットを裂いただけだったのは運が良かっただけだ。


 あの時の恐怖は今でも指先に残っている。

 でも、もう少し剣があと数センチ深くまで届いていたら。


 私は今、ここにはいなかった。剣は心臓に届いて、私は本物の血を撒き散らして床に転がっていただろう。想像するだけで、膝の震えが止まらなくなる。


「……悪かった」 


 まっすぐ立っていられない私を支えるように、ビョルンさんが私の肩に手を添える。ビョルンさんの温かい手に触れていると恐怖や哀しみなどの負の感情がゆっくりと解けていく。だから私は俯いて唇を噛み締めた。場違いな弱音を吐き出してしまわないように。


「悪いと思ってるなら……死ぬ気で金貨二百枚稼いでください」


「は?」


 思ってもいなかった言葉に、ビョルンさんは拍子抜けした声をあげる。


「慰謝料を請求します。ドレス代弁償と私への迷惑料で百枚ずつ」


「いや、流石に金貨二百は……」


「アニタさんが買ってくれたドレスだったのに。私、すごく気に入ってたのに」


「う……わかった、わかったから泣くな。金貨二百枚、必ず稼ぐと約束する」


 渋い顔をしながら、ビョルンさんは私の顔を覗き込む。


「……本当に?」


「あぁ、本当だ」


 どうやらビョルンさんは、私が俯いているのを泣いているからだと解釈していたらしい。


 しかし私は今、ビョルンさんの誤解を解いてあげるつもりはない。そう、なぜなら私はビョルンさんに怒っているから!


「よし! 言質取りましたからね、ビョルンさん!」


 急に元気になった私を見て、ビョルンさんは顔をあげる。そしてその耳の先端がみるみるうちに赤くなっていった。


 ふふん、いい気味だ!


「お前、まさか」


「騙される方が悪い、でしたっけ?」


「この、小娘……!」


「撤回は受け付けてませんからね」


 拳を震わせるビョルンさんに、ベーッと舌を見せつけてやった。今回は本当に大変だったんだから、慰謝料請求も妥当だろう。悔しそうに歪んだライムグリーンに瞳を見て、気分は随分と晴れやかだった。

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