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異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
VS 魅了の魔女 ハル編

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50/120

50_炎上プロジェクト(物理的に)

第50話です。

皆様のおかげで、50話を達成することが出来ました。本当にありがとうございます。これからも二人の旅を温かく見守っていただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします

 くつくつ、ふつふつ、ぱちぱち。


 薬を煮詰める鍋と焚き火が小さく音を立てている。傍らの椅子に座って、その心地よい音に目を閉じた。

 ほどよく薄暗く、暖かい。


 その空間に気が緩んで、いつの間にか眠ってしまったらしい。何かに包まれている感覚に目を覚ますと、私の体は黒いマントに包まれていた。その古びてほつれたマントの持ち主は言わずもがな、ビョルンさんだ。相変わらず鍋をじっと見つめ、時折掻き混ぜている後ろ姿に声を掛ける。


「穴、空いてますね」


「そうか」


「修繕しておきますね」


「好きにしろ」


「はい」


 なんというぶっきらぼうな返事。しかし律儀に返事を返してくれるということは、ぞんざいに扱われているわけではない。それがなんだか嬉しかった。


 たしか棚に裁縫道具が置いてあったような気がして、マントを畳んで立ち上がった。裁縫箱の蓋を開けて、几帳面に並べられた針と糸を取り出した。


「ここをこうして……」


 マントを膝の上に広げてほつれた部分に針を刺す。穴を塞ぐように糸が行ったり、来たりを繰り返して、最後にキュッと縛って完成だ。しかし他にもほつれがあるのが気になって、穴以外にも修繕をしようと針を入れる。


 その時、鍋の中から眩い光が溢れ出した。


「……!」


 ビョルンさんが、あからさまに息を詰めた気配がした。そして手元に置いていた小瓶を取り出し、沸騰する鍋の液体を掬って手早く流し込んだ。


「もしかして!」


「……完成だ」


 彼は額の汗を拭いながらそう言った。ビョルンさんの手に握られたのは、透明な液体が入った小瓶。しかし近寄って、よく目を凝らしてみると、水の中で何かが細やかな煌めいているのが見えた。それはまさしく妙薬の名に恥じぬ輝きで、思わず目を細める。


「本当に、お疲れ様でした」


「俺の仕事を果たしただけだ」  


「それでも、すごいです。こんなに美しいものを作り出してしまうなんて」


 ビョルンさんの手の中にある小瓶を眺めながら、本心を告げる。ビョルンさんは落ち着かなげに耳を揺らして、そっぽを向いた。しかし一瞬、なにかに気がついたように目を見開いて固まる。そして。  


「ルナ」


 急に名前を呼ばれて、ドキリとしてしまう。


「ビョルン、さん?」


 ビョルンさんが私の肩を乱暴に引き寄せて、耳元で囁く。彼の呼吸が鼓膜を揺らして、少しくすぐったい。だがそんな悠長な感想は、彼の一言で霧散した。


「先程から外に気配がする。ギルドの者ではない」


 ビョルンさんのライムグリーンの瞳は鋭く光り、入口の扉を睨みつけていた。まさかあのドアの向こうにいるっていうの?


「誰なんでしょう……?」


「俺の傍を離れるな」


「っ、はい」


 私の肩を掴んだビョルンさんの手に力が籠り、さらに引き寄せられる。ビリビリとした緊張感が走る中、とうとう入口の扉が小さな音を立てて開いた。


「……!!」 


 彼らは全身黒ずくめの装束で、顔は布で隠されている。手にしているのは炎の灯った松明と、鈍く光る短剣。


 彼らが友好的でないと理解していても、思わず足がすくんでしまう。その気配を察したビョルンさんは私を背に庇うように立ち、剣を抜いて構えた。


「ち、近づかないで!」


 この作業場は魔法を使うには狭すぎる。私は手近にあった空き瓶を拾って、刺客に投げつける。もちろん、大きな弧を描くだけで当たるはずもなく。


 扉は刺客の背後にひとつだけ、私たちの背後には大鍋と暖炉の火が音を立てて燃えている。


 どうしよう。


 相手は凶器を持った侵入者、きっと人の命を奪うことも厭わないだろうという確信があった。言葉も交わさず、迷いなく命を刈り取りに来るその目に、背筋が凍った。


「……」


 ビョルンさんは何も言わず、ほんの一瞬だけ視線を私から手元に移した。


 彼の言わんとしていることを理解してすぐさま小瓶を受け取る。これを取り落とせば、エリザベスさんとの『商談』は破談になってしまう。それだけは絶対に避けなければ。


「今だ、走れ!」


 ビョルンさんは私の背中に庇い、刺客に向かって剣を振りかざした。


 ギィン!


「ひっ……!」


 鉄と鉄が交わる激しい音がして、思わず悲鳴が漏れた。1人の刺客が私に気付いて背中を掴まれる。襟に締め付けられて呼吸が一瞬止まる。が、歩みを止めるわけがない。


「離して!」


「うぐッ!?」


 思い切り腕をあげて振りほどくと、刺客の顎に肘がクリーンヒットしてしまった。ジィンと肘が痺れるし、相手はそのまま白目を向いてぶっ倒れるし! 最悪!


「いいから行け!」


「は、はいっ!」


 パニックで固まってしまった私を、もう1人の刺客と鍔迫り合っているビョルンさんが怒鳴りつける。弾かれたように再度足を踏み出して、出口に走る。


「クソ!」


 追い詰められた刺客は、松明を玄関近くに置いていた大量の古紙や木材が積まれた棚に投げつけた。


 ボォッ!


 火は瞬く間に燃え上がり、壁を這い上がるように広がる。焦げ臭い匂いと黒い煙が上がって目の前が霞んだ。その中でも、ビョルンさんの声だけはハッキリと聞こえる。


「行け!」


 ビョルンさんの声を背中に迷わず出口に走った。体当たりするように扉を押し開けて、外の草むらに転がり出る。煙を吸った喉が痛くて、ゲホゴホと咳き込んだ。握りしめた小瓶に傷がついていないことを確認して、どっと疲れる。だけどまだ終わってない。


 ふと、もうひとつの人影に気付いたのだ。


「まだいたの!?」


 刺客は先程のふたりよりも大柄で、大きな剣を持っている。その目は怪しくギラついていて、こちらを食らうような恐ろしさを感じた。


「薬を寄越せ。そうすれば命は助けてやる」


「お断りします!」


 考える間もなく返事をする。


 しまった、つい言っちゃった!


 ジリジリと近づいてくる刺客、背後には巻き上がりはじめた炎の熱を感じるのでこれ以上後ろには下がれない。というか、倉庫内に残されたビョルンさんは無事だろうか。


 まさか、あのまま炎に巻かれてしまったんじゃ……?


「……!」


 ビョルンさんのことに気を取られていたら、すぐ目の前にやってきた刺客は静かに私を見つめて、剣を突き出してくる。その剣先は鋭くて、刺さってしまえばきっと命を落とすだろう。


 もちろん剣は怖い。


 でも、この薬を手放しちゃダメだ。ビョルンさんが全力で作った大切な薬、ビョルンさんや商人ギルドの人達を救うための薬なのだから。だから私は、覚悟を決めて守るように薬を胸元に抱きしめる。


 怖くて、足が震えるし、目の前だって滲む。それでも私は、その場から動けなかった。


「そうか」


 私の覚悟を受け取った刺客は静かにそう言って、剣を喉元に当てた。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

次回も引き続きよろしくお願いいたします

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※次回更新は2月12日18時です

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