↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
04_VS 魅了の魔女 ハル編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/251

51_燃えカスの底意地

「伏せろ、ルナ!」


 ビョルンさんの大きな声とともに、真横を業火(ごうか)の球が吹っ飛んできた。あれっと思う間に刺客の頭はチリチリに燃え尽きてしまって、またしても白目を剥いてぶっ倒れてしまった。しかも今回は泡まで吹いてる。


「ビョルンさん!」


「無事か」


「はい!」


 あ、ちがう。無事か聞いたのは私じゃなくて。


「妙薬(みょうやく)は無事です!」


「そうか」


 火が上がる倉庫から出てきたビョルンさんは、駆け寄ってきて追い討ちとばかりに刺客の頭をブーツで踏みつけた。メショ、と骨が軋む音がしたけど気づかなかったことにする。


 炎に包まれた倉庫はごうごうと燃えさかり、真っ赤な木の柱が倒れそうになる。その時、ビョルンさんは手をかざして呪文を唱えた。


「『水よ、沸き上がれ』」


 空中に大きな水の流れを生み出して、小屋の炎を鎮めていく。少しずつ、しかし確実に小さくなっていく炎を見ながら、私はその場にしゃがみこんでしまった。


「は、はぁ……」


 いつの間にか、刺客は逃げ去っていた。残されたのは煤まみれのビョルンさんと、腰を抜かしてひっくり返った私だけ。先程まで炎に照らされていた裏庭はひっそりと暗く、静けさを取り戻した。


 黒焦げになった作業場の倉庫を見下ろすビョルンさん。その背中にかける言葉が見つからない。この場所は、たった一つのビョルンさんの居城(きょじょう)だった。それなのにこんなことになるなんて思ってもみなかったのだ。


 ビョルンさんが静かにこちらに向かって歩いてくる。そして大きなため息をついて、私の背中に引火した火を消した。


「わぁっ!? 燃えてたんですか!?」


「それぐらい気づけ」 


「す、すみません」


 暫(しば)し、沈黙。沈黙が痛くて、煤まみれになった倉庫を見つめる。


「刺客を送り込んできたということは、領主もこちらの動きに勘づいたか」


「昼間、宝飾店でゼルマンをぶっ飛ばしたからかもしれません」


 ビョルンさんが片眉をあげた。そういえば、詳細は話していなかったな。


「以前の徴税係のことか?」


「はい。ハルとの取引の証拠を握っていたんです。ただその時に、一悶着(ひともんちゃく)してしまって」


 ビョルンさんは座り込んだ私に目線を合わせるようにしゃがみ、静かにこちらの目を見つめる。


「何もされていないな?」


「怪我をするようなことは、なにも」


「そうか」


「むしろ私が怪我をさせました。あまりにもしつこかったので、ビンタを少々」


「ふっ……そうか。役人にビンタか」


 ふっと彼の口元が緩む。その声は穏やかで、安堵の色が滲(にじ)んでいた。そしてゆっくりと立ち上がり、まじまじと焼けた倉庫を見つめる。そして少し思案した後、静かに口を開いた。


「今更我々の動きに勘づいたところで、もう遅い。妙薬(みょうやく)を飲ませるタイミングさえ作れば、こちらの勝ちだ」


「そうですね」


 私は頷(うなず)きながらも、視線を落とす。ビョルンさんは淡々としながら言葉を続けた。その淡々さが、今はなんだか心地よい。


「目的達成のため、多少の損失は織り込み済みだ。今は計画のことだけを考えろ」


「……はい」


「この借りは必ず返す」


「はい。絶対に返してやりましょう……!」


 肩を落とした私の隣に立ち、ビョルンさんは腕を組む。


「それよりも。これをアニタにどう説明したものか」


「まさか、こんなことになるなんて……」


 自分の声はなんとも頼りなくて、情けなかった。ビョルンさんはこちらを一瞥(いちべつ)することもなく話を続ける。


「これまで小火(ボヤ)を起こしたことは、ある……何度か」


「え?」


 私が顔をあげると、ビョルンさんは気まずそうにそっぽを向いた。多分、嘘は付いていないと思う。ただの直感だけど。


「行商人を始めたばかりの頃だ。これまで何度アニタを怒らせたか、数はわからん」


 ビョルンさんがよく喋る。わざとらしいくらいに軽い声音で、しかし淡々と。


 もしかして……私を元気づけようとしてるのかな?


 そう感じてもう一度ビョルンさんの顔を覗(のぞ)き込む。すると目が合ったと同時にふいと逸らされ、どこかバツが悪そうに耳を下げた。やっぱり、ビョルンさんは私を気遣(きづか)ってくれているのだ。


「……私も。祖母を怒らせた回数なんて覚えてないです」


「手のかかる子供だったようだな」


「そりゃもう。しょっちゅう喧嘩して、その度に祖父が仲裁してくれていたんですよね」


 昔を思い出して、その懐かしさに少し笑ってしまった。


「今回は、二人でアニタさんに怒られましょ。ロッドさんが仲裁してくれるかは、分かりませんけれど」


「ふ……そうだな。ロッドからも説教を食らうかもしれん」


「その時は、まぁ、しかたないですね」


 冷たい風が吹いて、私とビョルンさんの髪を揺らす。その隙間から見えた彼の瞳は、少し優しい色をしていた。そしてビョルンさんは私のすぐ近くまで歩み寄り、助け起こすために手を差し出した。


「明日は大仕事だ、抜かるなよ」


「ビョルンさんこそ、疲れたからってサボっちゃダメですからね」


 ビョルンさんの煤(すす)けた大きな手を取って、二人して笑いあう。夜明けの淡い光が、私たちをやわらかく照らしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
魔法使いの数とか常駐具合でも違いそうですね。街の規模とかによっては強力な水使いがいなくて、とか。でも生活用水とか考えると寒村とかでなければお金で一人は契約すればいいのかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。