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異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
04_VS 魅了の魔女 ハル編

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48_ビジネスパートナーの栄養管理も仕事のうち

「あ、あの、アニタさん、こちらは一体?」


 店主から裏帳簿を受け取り、店を出た私とアニタさん。しかし私の腕の中には大きく上等な箱が鎮座していた。その中身は言わずもがな、先程まで試着室で着ていた、あの金貨百枚分のドレスだ。


「今回の仕事の報酬さ」


「はいッ!?」


 素っ頓狂な声を上げて、箱を取り落としてしまうのを必死で耐える。


 今、アニタさんはなんて言った!?


「う、受け取れません! こんな上等なもの!」


「そのドレスは必要経費としてギルドから下ろしてあげるよ。その代わり、きっちり『商談』を成功させておいで」


 アニタさんは優しく笑うと、またしてもヨシヨシと頭を撫でてくれた。


「『商談』?」


「ビョルンの薬が完成したら、それなりの舞台ってもんが必要になるだろ?それをバジルが用意する算段になってるんだ」


 バジルさんというと、ギルドの食堂で商談を手伝った人の良い紳士のことだ。


「あいつの商会も領主には手酷くやられちまったからね。しっぺ返しの機会を狙ってたんだよ」 


「でも、舞台を用意するっていうのは一体……?」


「領主夫妻を招いて舞踏会を開く。あんたはこのドレスを着て、ハルの悪事を暴露させてやるんだよ」


 あまりにも重すぎる役回りに、私は背筋が冷えた。しかしアニタさんから私への信頼と期待の証。今、私がするべきことはアニタさんの期待に応えることだ。


「はい、必ず成功させます……!!」


 優しい魔法使いからドレスを貰ったシンデレラはきっとこんな気分だったのだろう。王子様を堕とすという使命を胸に、魔法の靴を履いて、カボチャの馬車に乗り込んだに違いない。


「さて、明日はとうとう本番だよ。明日の朝あたしの部屋に来な。着付けてやるからね」


 アニタさんはドレスの箱を奪い取ると、頭を優しく撫でてギルドの方へと戻って行った。



 兎にも角にも、今回の作戦の要はビョルンさんの『水鏡の妙薬』だ。彼のサポートをするのが私の残された仕事。今一度自分に喝をいれて、ビョルンさんがいる作業場に走った。


「ビョルンさん、ただいま戻り……」


 作業場の扉を開けて、鍋を見下ろすビョルンさんのあまりの気迫に思わず息が止まる。薄暗い作業場で、淡く緑色に光る鍋を掻き混ぜる姿は昔呼んだ絵本の魔法使いそのもので。しかも悪者のほう。


 ビョルンさんなので怖くないのだが、それでもあまりにも真剣な姿にこちらも背筋を正してしまうのは自然なことだろう。


「帰ったか」


「は、はい。戻りました」


「首尾は」


「滞りなく」


「そうか」


 短く、最低限な会話を交わすが、その間もビョルンさんの視線はずっと鍋の中を見つめている。きっと一瞬でも油断ならない状況なのだろう。


 しかし、だ。


 窓の外は日が傾き始めて、先程通りかかった調理場は夕飯の匂いが漂っていた。つまり食事の時間が迫っているということだ。


「……あの」


「なんだ」


「あと、どれくらいで終わりますか」


「明日の明け方には完成させる」


 予想していたけれど、やはり作成には時間がかかる薬なんだ。きっとビョルンさんは朝までこの作業にかかりきりになる。しかし彼の横顔はどこか疲れが出ていて、額に汗が滲んでいる。


 今、私ができるのは彼をフォローすること。すなわちエネルギー補給のサポートだ。


「……あの」


「なんだ」


「ご飯、食べられますか」


 返事はない。そんなことを考えている暇は無いのだろうか。たしかに、重大プロジェクトに追われている最中は食事なんて取れないか。


 しかし予想に反して、私が引き下がろうとすると、ぶっきらぼうな声が聞こえた。


「腰を落ち着ける時間はない。手軽に食べられる物なら、可能だ」


 正直なところ、予想外な答えだった。絶対に『不要だ』と断られると思っていたから。きっとこれは、彼なりの譲歩の形。これを見逃す訳にはいかない。


「わかりました。すぐに準備してきますね!」


 すぐさま市場に走って、必要な材料を見繕う。幸いなことに、閉店間際の時間ということもあって安くオマケして貰えた。


 調理場に戻って、一通り食材を並べる。作業中の片手間に、しかも栄養があって温かいものといえば。


「腸詰肉とパン、酢漬けのキャベツ、そしてトマトを3つ、玉ねぎとニンニク、マスタードの粉末……ハーブと調理場を少々」


『アレ』を作ろう、とニヤニヤしていると、調理場のハーフリング、ポーシャさんが顔を出した。


「ねぇルナちゃん、今日は何を作るの?」


 彼女は好奇心旺盛で、私の故郷、特に料理について熱心に聞いてくれる。グリオンさんもそうだったけれど、食事に関して好奇心旺盛で研究熱心なのは種族の特徴なのかもしれない。


「ビョルンさんが、作業の片手間に食べられるものを作るんですよ」


「わっ! じゃあ、また美味しいの作るんだ。見てていい?」


「もちろんです!」


 私はポーシャさんに対してにこやかな笑顔を向けて、調理の準備に取り掛かったのだった。

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