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異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
04_VS 魅了の魔女 ハル編

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40/246

40_煩わしいものほど捨てにくい

「……クソ!」


 取りこぼした小さなてのひら。絶対に離してはならなかったのに、取りこぼしてしまった。


 ルナが飲み込まれた湖の水面には、巨大なナマズが咆哮(ほうこう)を上げて蓄電している。あれを放たれてしまえば、まず水の中にいる生物は助からないだろう。

 

 こんなところで、小娘を失うわけにはいかない。アニタからの叱責を恐れているのではなく、あくまで自分の目的達成のためだ。


「同族の魔女、小娘(ルナ)を頼む」


「えぇっ!? ちょっと、どこに行くの!?」


「問題の根本解決だ」


 まずはあの雷撃を食い止めなければならない。雷撃の為に、口元のひげから大気中の魔力を吸収していると見た。それならばまず、供給源を絶たなければならない。


「『風よ、切り裂け』」


 風の剣を作り出して、二本の長いひげを切り落とす。痛みからか巨大ナマズは更にけたたましく吠えて、地面を大きく揺らす。


「……?」


 身体の(しん)から、熱の塊のようなエネルギーが湧き上がってくるのを感じた。それは数時間前に摂取した携帯食の、素朴な米とソルトフィッシュの力だろう。


『こうした方が美味しいし、効率的でしょう?』


 ルナが笑いながら差し出したそれは、冷えていたはずなのに何故か温かく感じた。  


 普段ならば乾燥した携帯食で満足していたのに、あの「米の塊」は、生きるための根源的なエネルギーを与えてくれたのだ。


「……(わずら)わしい」


 あぁ、そうだ。煩わしい。

 誰かとの繋がりなんて、仲間なんて、(わずら)わしいだけだ。ましてあの小娘はビジネスパートナー、互いの利益だけ結ばれただけの関係。


 なにを戸惑(とまど)う、なぜ心を乱される。


 仲間としての情など、もう二度と抱え込まないと誓った。傷つくのは結局己なのだからと、臆病(おくびょう)な自分はこれ以上余計なものを抱え込まないようにしよう。そう思っていたのに。


「……クソ!」

 

 苛立ちはコントロールを(にぶ)らせる。今はただ目的達成のために最前の方法を取るべきだ。


「あいつ、雷がダメなら地面を割るつもりよ!」


「させるか」


 同族の魔女、シンシアの叫びを聞いて次の手に移行(いこう)する。 


「『風よ、土よ、我が声に応えん』」


 指先一本一本の魔力に神経を集中させ、空気中の魔力を編んで風を呼び起こす。そしてその風で地面の岩を持ち上げ、それらを一つ一つ丁寧に制御して、頭上に巨大な竜巻を作り上げた。


「エルフのお兄さん、お姉さんは助けたよ!」


「よくやった」


 召喚士が呼び出した水の巨人が、湖の中からルナを(すく)いあげていた。彼女の召喚術は相当のものだ。ルナを任せても問題はあるまい。


 ぐったりとしたルナの姿を見て、胸が騒ぐ。まさか死んだのではあるまいな、と。

 しかしその薄い胸がわずかに上下しているのを見て、そのささくれだった心は徐々(じょじょ)に落ち着いていった。


「全員、距離を取れ!」


 叫ぶと同時に、右手を空に突き上げた。

 全身から膨大(ぼうだい)な魔力が噴き出し、竜巻の威力(いりょく)が増す。渦の間から稲妻が光、バチバチと摩擦で大きな音を立てる。


「己以上の電撃を浴びても、まだ息をしていられるか?」


 モンスターごときが人語を解せるわけがない。だが、独り言でも言っていなければ、膨大(ぼうだい)な魔力放出で意識が飛びそうだった。


 魔力に(ともな)い体力が激しく削られていくのを感じる。これは、エルフ族の魔力と体力を代償に強引に融合させる古代の秘術だ。もっとも、以前であればこの程度の魔物に手こずることなどなかった。


 これを使うのは、何年ぶりか。


『お前の魔法はすごいな』

 そう言ったのは、いったい誰だったか。

 思い出す必要もない、些末(さまつ)な記憶の断片だ。今はただ、この場を乗り切ることだけに集中しろ。 


「『()ぜろ』」 


 魔法で作り出した竜巻は、湖全体を縦に断ち切るようにキングナマズの頭上を貫いた。まるで彗星(すいせい)が落ちたかのような激しい光が周囲を包む。竜巻が通過した場所の湖水は、熱と圧力で一瞬にして蒸発し、巨大な白煙が最下層を覆い尽くした。


——ドッシャァァン!!


 強大な風圧と雷撃を同時に受けたキングナマズは、その巨体を内側から弾けるように破壊され、そのまま湖底に撃沈(げきちん)した。動かなくなった獲物を目の前に、動けるものはその場には誰もいなかった。

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