28_『ザマァ展開』は一日にしてならず
第28話です。今回はこれからどうするか?の作戦会議回です。社畜の世界はどこまでも世知辛い。チートスキル主人公に憧れるルナなのでした。
28_『ザマァ展開』は一日にしてならず
ダァン!
アニタさんの大きな手が、アニタさんの執務机を叩いた。フーッと獣のような息を吐いて、一言。
「どういうことか説明しておくれ」
「えぇと……ですから、そのぅ」
いつもは優しくて慈愛に満ちたアニタさんが、鬼の形相で私を見下ろしている。このまま頭からばっくり食べられてしまうのではなかろうか。
そう思いながらソファに座りながら縮こまっている私を見て、ビョルンさんは
『ほらみたことか』
とでも言わんばかりにこちらに視線を寄越して、どっかりとソファに座っている。彼はこの取引には反対していたが、私が押し切ったのだ。
「あんた、自分が何言ってるのか分かってんのかい?あんたを殺しかけた人間を信用出来るわけないだろう!?」
それはそう。
「しかも毒なんて姑息な真似を使うような女だ。何企んでるか分かったもんじゃないよ」
それもそう。
反論しようにも助けていただいた以上、何も言えない。でも、これだけは伝えたい。この取引には大きなリターンがあるということを。
「だけどこのまま、領主夫妻の横暴に耐えるのも現実的じゃありません。いつか必ず破産してしまいますよ。そうなってからじゃ遅いんです…!」
アニタさんもそれは承知していたようで、眉間の皺を濃くしながら答えた。
「たしかに民衆からすれば、エリザベス様が統治者として戻ってこられるということは大変有難い話ではあるんだがね。ただ……」
声が一段と低くなって、背筋が冷える。
「失敗すれば牢屋送り。悪くすれば絞首刑だよ」
ハイリスク、ハイリターンな取引ということだ。
そんな危険にアニタさんを巻き込むことはできない。下手したら商人ギルドの存続すら危うくなりかねないからだ。
「やっぱりこの取引は辞退するべきか…いや、でも……」
このまま放っておけば、この街に待っている結末は2つ。1つは搾取され続けて民衆は飢えていく。もう1つは暴動が起きて多くの血が流れる。
…まるでフランス革命さながらの未来を辿るのは目に見えている。この美しい街でそんな血なまぐさいことは起こって欲しくない。
ラノベやゲームではこういう障壁をどうしていたんだっけ?あまりに話がポンポン進みすぎて、印象に残っていないな。
…なんか、私の時だけハードモードじゃない?なんで?皆やっぱりチートスキルかなにか持ってるもんなの?皆なんでああも簡単に『ザマァ展開』できるわけ?
途方にくれていると、小柄なドワーフの男性が執務室に飛び込んできた。
「アニタ、緊急だ」
「なんだい、ロッド」
ロッドさんは私とビョルンさんに会釈して、アニタさんに丸めた羊皮紙を手渡した。アニタさんは眼鏡をかけてその文字を追い、そしてまた大きな声を上げた。
「なんだって!?」
「ど、どうしたんですか?」
アニタさんは疲れきったようにどっかりと椅子に座り込み、代わりにロッドさんがおしえてくれた。
「明日、領主様ご夫妻がこの街に視察に来るんだそうだ。急な話で下の奴らも大騒ぎだよ」
「えぇっ!?」
領主夫妻ということは、ハルもこの街に来るということ。突然の出来事にビョルンさんも目を丸めている。
「悪いけどルナ、話は後にさせておくれ。今は準備しなくちゃならないことが山積みだからね」
「はい、もちろんです」
慌てた様子で出ていったアニタさんとは反対に、ロッドさんはとても落ち着いていた。彼は白髪混じりの口髭を整えながらこちらを見上げて問いかけた。
「ふむ、君とは初めて会うかね。たしか、ルカだったか」
「ルナと申します、ロッドさん。先日からこちらでお世話になっております」
「おぉ、ルナか!まさかワシが留守の間にこんなに愛い娘がギルドに入ってくれているなんてな。ようこそ我らが商人ギルドへ」
ロッドさんはにこやかに笑い、私の手を握った。昨日出会ったドゥーガンさんとは対照的にとてもフレンドリーな方のようだ。同じドワーフとはいってもやはり性格に個人差はあるようだ。もしくは商人はバジルさんのように人懐こい人が多いのかもしれない。
「あの、領主様が視察にいらっしゃるということは初めてなんですか?」
「領主様は何度か訪れたことはあるんだが、今の奥様になってからは初めてだ。なんでも新しい奥様はあまり民衆には姿を見せないと噂でな」
「そうなんですね」
これまで姿を表さなかったのになぜ急に、しかもエリザベスさんを幽閉しているこの街を訪れようと思ったのだろう。
「もうすぐ領主様と奥様の結婚記念日なのだそうだ。視察も兼ねてご旅行なさっておるんだろう。景気が良くて羨ましいことだ」
ロッドさんは忌々しげにそう言った。わぁ、なかなかに辛辣。穏やかな人ほど毒を吐いた時の攻撃力は高い。
「とはいえ我々は領主様に守られている身。領主様をお出迎えするために市場での催しを行わなければならん。街の飾り付けと、露店のメニューを考えねばな」
「露店を出店するんですか?」
「その露店商はギルドメンバーからの立候補制だ。君も興味があるのなら、アイディアを出してくれよ」
ロッドさんは冷たい表情から一転して、にっこりと穏やかに笑う。その目線は私ではなくビョルンさんに向いていた。
「君には大いに期待しているんだ。これまで誰もビョルン君を支えてあげられなかった、アニタでさえもな。だから、よろしく頼む」
「こちらこそです。ビョルンさんはビジネスパートナーなので!」
私の返答にロッドさんは満足したように笑い、執務室を後にした。
「ビョルンさん、これはチャンスですよ」
「なんだと?」
「この機会に、ハルのステータスを鑑定して、彼女のユニークスキルを暴くんです」
グッ!と拳を握りしめてビョルンさんに宣言する。だが彼は渋い顔で、私の拳を押し戻した。
「意気込むのはいいが、お前の鑑定能力では不可能だ」
「えっ、できないんですか」
「人間のステータス鑑定が出来るのはスキルランクA以上の者だけだ。お前のステータスはCランクだ」
「ゲッ、そうだった…私のステータスは一般市民A!」
自分の低ステータスを思い出して、がっくりと肩を落とした。異世界人補正とかでなんとかしてくれてもいいじゃんね。
「だが」
ビョルンさんはヒラリと手をかざすと、私の額に手をかざした。何も起こらない。けれどビョルンさんの瞳が淡く光っていることから、何かしらが起きているのだと予測する。
「俺なら鑑定可能だ」
「ほ、本当ですか!?」
「バレれば即刻牢屋送りだろうがな」
またしても不穏なワードに体が固くなる。
「この世界、すぐ牢屋送りにしすぎでは?罰金でも良くないです?」
「罰金を払える資金もないだろう」
「うッ…それはそう。じゃあダメか…」
ビョルンさんを危険に晒す訳にはいかない。彼は善良な人だ、牢屋送りになんてさせられるわけがない。
エリザベスさんと取引するにあたって、ハルのユニークスキルが分かれば大きなカードになると思ったのに。
しかし予想外なことに、食い下がったのはビョルンさんの方だった。
「俺ならば暗唱なしで鑑定できる。だが、ハル本人の気を引く必要がある」
それは、つまり。
「私の出番ですね!!」
私がハルの気を引いている間に、ビョルンさんがこっそりハルを鑑定するということ。
これぞチームプレー!これぞチームワーク!
中央の時計を見ると、今は昼過ぎで、パレードは明日の昼。今から作業しても間に合う、いや、間に合わせる!
「ビョルンさん、手伝って欲しいことがあります」
「了解した」
前々から思い描いていたアイディアを今こそ生かすときだ。ビョルンさんに笑いかけると、彼は少し困ったように耳を下げて、承諾の返事をしてくれた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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※次回更新は1月28日18時です




