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異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
03_商業都市(ルーンデール)編

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24/250

24_冒険者パーティにご注目!

 翌日。やっぱり売れ行きは芳(かんば)しくない。客はまばらで、店頭を覗(のぞ)くだけで購入には至らない。でも昨日よりも、少し興味を持ってくれる人が増えた気がする。


「そろそろ店じまいしましょうか」

 

 日が傾くと多くの露店は店仕舞(みせじま)いを始める。私たちも片付けを始めようかと重い腰を上げた。その時、背後から高い声が聞こえた。

 

「あ、ねぇ。あそこ!」


 振り向くとそこには、首からルーン文字を刻んだペンダントを下げた若い女性と、黒いローブにフードを被った女性がこちらに近づいてきていた。


「どうしたの、リーナ?」 


「何のお菓子だろう? おいしそう」


「とってもきれいなお菓子ねぇ」 


 この二人の強い好奇心を活かさない手はない。ビジネスチャンスは一瞬だ。すかさず、ガラス皿に盛ったオレンジ色のキャンディを差し出した。


「いらっしゃいませ! こちらは魔力回復のポーションキャンディです。ご試食いかがですか?」


「これがポーション?」


 キョトンとして、首をかしげたローブの女性。もう片方のペンダントの女性が思い出したように顔をあげる。


「冒険者ギルドの張り紙にあった、新しいポーション屋?」


 昨日来てくれたグリオンさんが、冒険者ギルドに貼り紙をしてくれたんだ。早速インフルエンサー効果を得られて、興奮が抑えきれない。

 とはいえ、その内心を表に出さないのがプロというもので。


「はい。我々は昨日から店を出したばかりのポーション屋です。うちのポーションは甘くておいしいですよ。どうぞ召し上がってください」


「甘いんですって。よかったわねぇ、リーナ」


「うん、ありがと」


 リーナと呼ばれたペンダントを下げた女性は、笑顔で一つ手に取って口に放り込んだ。そして、目を丸くして歓声(かんせい)を上げた。


「これ、美味しい……!ポーションなのに苦くない。それにすぐ魔力が戻ってくる感じがする……!」


内心ガッツポーズをして、リーナさんに微笑むと彼女は恥ずかしそうにはにかんだ。可愛らしいお嬢さんだなぁ。 


「シンシアも食べた方がいい」


「あらそう? お姉さん、おひとつ頂けるかしら」


「はい!」


 シンシアと呼ばれたローブの女性は、リーナさんの素直な反応を見て、嬉しそうに笑った。こちらが差し出したキャンディを優雅(ゆうが)に手に取り、微笑みかける。


「まぁ……! たしかに甘くて美味しいわ。使っているのは『夕日の果実(オレンジ)』?」


「はい。原材料は『夕日の果実(オレンジ)』の果汁と森林の樹蜜のみ、不純物はなにひとつございません」 


「見た目も美しくて、それに調合も完璧。あなた、どちらの錬金術師なの?」


「私はただの販売員です。こちらのポーションの作成はすべて、彼、ビョルンさんが担当しております」


 ポーションの効果を褒めて貰えたのが誇らしくて、露店の後ろに立つビョルンさんを示した。


「エルフが商売をしているなんて珍しいわね。珍しいものは好きよ」 


 シンシアさんはビョルンさんに向かって挨拶するように微笑んだ。相変わらず無愛想(ぶあいそ)なビョルンさんだが、シンシアさんを一瞥(いちべつ)すると少しだけ頭を下げた。へぇ、珍しいこともあるものだ。


「恐れ入りますが、お二方は冒険者の方でいらっしゃいますか?」


「えぇ、そうよ。私は魔術師のシンシア。リーナは召喚士として冒険者パーティで旅をしているの」


 やっぱり、と予想が当たったことに安堵する。押し売りは好かないけれど、これはビジネス上のお客様へのご提案。この人達なら、真摯(しんし)に向き合えばきっとわかってくれるに違いない。 


「色々なところを旅して回る方には、こちらのポーションもおすすめしております。『疲労回復ポーション』をキャンディにしたものでして、とても摂取(せっしゅ)しやすくなっております」


「あら素敵。これなら毎日あの苦いポーションを飲まなくても済むってことね?」


「うん。あれはおいしくない…」


「じゃあ、このキャンディをいくつか頂いて帰りましょ。ちょうど切らしていたところなのよ」


「ありがとうございます!」


 シンシアさんたちは『魔力回復ポーションキャンディ』と『疲労回復ポーションキャンディ』をそれぞれ2瓶ずつ買ってくれた。


 これだけでも銀貨五枚の売上! やった!


「ねぇレイド、ドゥーガン。そんなところで突っ立ってないで、荷物持ちをしてちょうだいよ。か弱い私とリーナに全部持たせる気?」


 シンシアさんは露店を遠巻きに見ていた鎧を着た男性と、大きな斧を持ったドワーフの男性を振り返った。シンシアさんたちのお仲間だろうか。


「はいはい。シンシア、今度は何を買ったんだい」


「ポーションキャンディですって。とっても美味しいのよ」  


「へぇ、それはまた珍しいものを買ったんだね」


「でしょう? これでもう、回復の度にお小言を言われなくても済むわ」


 レイドと呼ばれた男性は、苦笑しながらシンシアさんの荷物を軽々と持ち上げた。きっとシンシアさんやリーナさんのショッピングに付き合ってあげているのだろうな、と微笑ましい気持ちになる。 


 しかしそんな和やかな空気を打ち破ったのは、戦士のドワーフだった。彼は、ビョルンさんを睨みつけて、即座に不快感を露(あら)わにした。


「エルフが作ったものなど、信用できるか」


 彼の低い声が響き、その場の空気が凍りつく。


「ちょ、ちょっとドゥーガン。急に何を言い出すんだい。失礼じゃないか」


 慌(あわ)ててレイドさんが止めに入るけれど、ドゥーガンさんは険しい顔のままビョルンさんを睨みつける。 


「まして口にするなど言語道断! おぬしら、そのように品もなく騒ぐなど、恥を知れ!」


 プツッと、頭の中で何かが切れる音が聞こえた。それは、昨日ゼルマンに尊厳(そんげん)を踏みにじられた時は、自分が耐えればよかっただけだった。けれどこれはビョルンさんへの明らかな誹謗(ひぼう)中傷(ちゅうしょう)。


 なぜ、どうして。ビョルンさんがそんな目にあわなければならないの。


「でしたら、お買い求め頂かなくて結構です」


 気がついた時には、私はドゥーガンさんに冷たく言い放っていた。 


「は?」


「お客様には、商品を選ぶ権利があります。ですが、我々商人にもお客様を選ぶ権利がございます」


「商人のくせに、商品が売れなくても良いと言うか」


 一歩踏み込んで、少し低いところにあるドワーフの目を真っ直ぐと見据(みす)える。そして一呼吸、腹まで空気を含んで吠えてみせた。


「うちの従業員に対して、根も葉もない偏見をお持ちの方に対して、お売りするものは! 何一つ! ございません!!」


 私の様子に慌(あわ)てたビョルンさんは、宥めるように私の肩に手を置いた。


「ルナ、俺のことなら構うな」


「いいえ!」


 振り向いて、ビョルンさんの顔を真っ直ぐ見た。彼の顔は戸惑い、そして諦めの色を含んでいる。そんな悲しい顔をさせてしまっているのに、許せるはずがないじゃない。 


「ビョルンさんは、私のビジネスパートナーです。それに、このポーションの製作者はあなたです。お客様だからといって、こんな暴言は見過ごせません!」


「客を追い返す必要はない」


 言葉が上手く出てこなくて、首を横に振って訴えた。 


 駄々(だだ)っ子のように困らせていることはわかっている。けれどこれだけは絶対に譲れなかった。 


「ビョルンさんの価値を理解できない人から、お金を貰ったって嬉しくありませんよ…!」


 ギョッとしたようにビョルンさんが目を丸める。


「……おい、泣くな」


「う、ズビッ、泣いてないです!」


「あぁ、クソ。なんなんだ……」


 ビョルンさんは苛立った様に頭をガシガシとかき混ぜると、袖口(そでぐち)で乱暴に私の目を拭った。


「ふぎゃ!」


「泣くなと言っている」


「痛ッ!? ちょ、ビョルンさん痛い」 


 ゴシゴシと乱暴に拭われて目が痛い。そんな文句を聞いてもらえる訳もなく、ビョルンさんはただ乱暴に私の涙を拭いてくれた。


 そんな様子を見て心動かされたのか、シンシアさんはひときわ大きな声を上げる。


「ちょっと、ひっどぉい! 女の子を泣かせるなんて!」


 シンシアさんはドゥーガンさんに対して非難の声を上げて、リーナさんも私の肩を抱いて擁護(ようご)する。


「そういう偏見(へんけん)は良くないって、いつも言ってる。お姉さんが可哀想」


「リーナの言う通りだわ。いつもあなたの偏屈(へんくつ)に付き合わされる、こっちの身にもなってちょうだい」


「なんだとっ!?」


 困ったようにオロオロとしていたレイドさんは、私の様子を見て意を決したようにドゥーガンさんに向き直った。 


「ドゥーガン、今のは君が悪いよ」


「レイド、おぬしまで何を言うか!」


「君がさっき口にしたのは、決して言ってはいけないことだ。いつも偏見は良くないって言ってるだろう?君だって、いわれもない中傷(ちゅうしょう)を受ける辛さは知ってるはずだよ」


 レイドさんが堂々と言いきったことで、ドゥーガンさんはこれ以上何も言えなくなったようだ。彼らが統率の取れた冒険者パーティーであることがよくわかる光景に、状況も忘れて感心してしまった。


「ごめんなさいねぇ、お嬢さん。うちのドワーフさんが意地悪なこと言って。お詫(わ)びにこちらの商品、全部買い取らせてくださるかしら?」 


「シンシア。独り占めは良くない。きっとみんなも欲しがる」 


「うーん……それもそうね、リーナ。じゃあ半分の在庫をいただける? 私たちもすぐに遠征に出るから必要だわ。ね、いいでしょ、レイド」


「あぁ、構わないよ」


「え、ですが、あの……ご気分を害されたのでは?」


「いいや! 無礼な行いをしたのはこちらの方だ。本当に申し訳ない!」


 レイドさんは深く頭を下げて、真摯(しんし)に謝罪してくれた。少し頼りなさげな青年だと思ったけれど、きっと心根は真面目で優しい人なのだろう。


「種族間の偏見(へんけん)は未だに根強いけれど、私はそういうの嫌いなの。私だってエルフだしね」


 そう言ってシンシアさんはフードを下ろすと、その艶やかな白い肌と長く尖った耳を見せてくれた。私はシンシアさんの容姿だけでなく、凛(りん)とした、それでいて包み込むような優しさに心を打たれた。


 なんてきれいな方なんだろうと、思わず見惚(みほ)れてしまった。


「人間族はみんなそういうの疎(うと)くって、あなたみたいに怒ってくれる人は貴重なの。だから私、とっても嬉かったわ」 


 シンシアさんはドゥーガンさんに目配(めくば)せし、私に問いかけた。


「彼も悪い人じゃないのよ。頭が石みたいに硬いだけ。許してくれるかしら?」


「お言葉は大変ありがたいのですが……それを決めるのは私ではなく、彼なので」


 ビョルンさんは私の言葉に、少し驚いたように目を見張る。しかしすぐにドゥーガンさんを冷たい視線で見つめた後、ため息をついた。


「商品の真価(しんか)を理解するのなら、それでいい」


 相変わらず無愛想!

 その言い方だと語弊(ごへい)を招きかねない! 


「え、えっと! この人も素直じゃないのでわかりにくいんですけど、気にしていないってことだと思います!」


「そうか、良かった。どうもありがとうございます」


 レイドさんは心から安堵したように、再び頭を下げてくれた。ドゥーガンさんは終始バツの悪そうな顔をしていたが、シンシアさんとリーナさんの追撃に晒されていた。


「とにかく。このポーションキャンディはあなたのお財布から出してもらうからね、ドゥーガン」


 シンシアさんは容赦ない。


「あなたもポーションの恩恵(おんけい)を受ける。だからちゃんとお詫(わ)びしなきゃダメ」


 リーナさんも可愛らしい顔で厳しく言い放つ。


「シンシア達の魔法は僕らを助けるために使うんだから、投資(とうし)は避けられないよ」


 そしてトドメにレイドさんにまでそう言われて、とうとうドゥーガンさんは根負けし、渋々頷いた。


「ぐぬ……あいわかった」


 そういう訳で、疲労回復と魔力回復のポーションキャンディは在庫の半数、およそ銀貨二十枚の売上げを叩き出したのだった。

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― 新着の感想 ―
やはりここでもドワーフとエルフの因縁ありそれゆえに差別意識がある……それを外の人間だからこそぶち壊せる可能性があるルナさんに期待が止まらないです!
ルナがOLの社畜能力を大きく活かしているのがいいですよね。ビョルンのビジネスパートナーとして、利益や負債についてすぐ考えがいくのはさすがです笑。ルナがはっきりとビョルンの味方するのも、サポートするのも…
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