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異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
09_迷宮都市編

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215/235

215_新たな契約、新たな目的

「はい、ユウさん! そっちの薬草の束を綺麗に揃えて、こっちの木箱に詰めてください!」

 

「了解です、ルナさん! ……あ、これ、ちょっと葉っぱが傷んでるのがありますけど、どうしますか?」

 

「それは弾いて、乾燥させてからポーションの試作用に回しちゃいましょう。ブランシュさんは、そっちの帳簿の数字を順番に読み上げてもらえますか?」

 

「はい、ルナ様。ええと、次は『ヒュドラの鱗、五枚で金貨三枚』です」

 

 あの凄惨な密売現場から命からがら撤退して、数日。

 私たちは迷宮都市の市場に露店を構え、めまぐるしい忙しさの中にいた。


 ボロボロになっていたユウさんとブランシュさんだったけれど、幸いなことにビョルンさんの回復魔法と、拠点で数日間しっかり休養をとったおかげで、今ではこうして元気に動けるまでになっていた。そして現在、二人は幸運草(クローバー)商会の職員として、私の商品管理や帳簿付けをせっせと手伝ってくれている。

 

「ふぅ……。お二人とも、慣れない商売の手伝いなのに手際が良くて助かります。特にブランシュさん、数字に強くてびっくりしちゃいました」

 

「これくらい、当然の務めですわ。私のような世間知らずを救ってくださり、その上、あのような温かいお食事までお恵みいただいたのですから」

 

 ブランシュさんは()()の髪を丁寧に後ろで結び、アメジストの瞳をキリッとさせてペンを動かしている。さすがは元王族の末裔というべきか、基礎的な教養が恐ろしく高い。

 

「俺も、契約を破って夜逃げなんてバカなことをしたのに、あそこで見捨てずに助けてもらって……本当に感謝してもしきれません。幸運草(クローバー)商会の不利益になるようなことは、もう絶対にしません!」

 

 ユウさんも、今大盾の代わりに荷物運び用の背負子を背負い、神妙な顔で頭を下げた。



 

 あの一件の後、私たちは膝を突き合わせてこれからの話を徹底的に話し合った。夜が明けるまで、たくさん、本当にたくさん話し合った。

 

 ブランシュさんの話によると、現在のクリスタニア一帯はマキシマ卿の命令で厳重な経済統制が敷かれている。ギルドの一般通行証だけでは、怪しまれて検問で徹底的に荷物を調べられ、ブランシュさんは見つかってしまってしまうだろう。


 今は彼らの目を欺くためにも、ブランシュさんは特徴的なプラチナブロンドを魔法で茶色に染めている。とはいえ、魔法も完全ではないので用心に越したことはない。

 

 マキシマ卿の私兵が唯一、まともな臨検もせずに通さざるを得ないのは、王国から特権的な交易権を与えられた高ランクの商会だけ。つまり、私たちがクリスタニアへ向かうには、まずはこの迷宮都市で実績を上げて、幸運草(クローバー)商会の「商会ランク」を引き上げなければならない。


 ビョルンさんは商会ランクのことを完全に失念していたらしい。まったく、商売のことになるとすぐ適当になるんだから。

 

 それもこれも私の目的のため。最大の目的は、ビョルンさんの呪いを解くことだ。

 

「……はぁ」

 

 露店の隅の特等席で、気だるげに長い足を机の上に放り出している男が一人。


「お行儀が悪いですよ、ビョルンさん」 


 彼はいつも通り、心底めんどくさそうに果実水をすすっている。けれど、ボサボサの髪の間から覗くエルフの耳は、あの日以来、力なく横にペタリと寝たままだ。

 

 あの黒鉄の『巨人衛兵』と奴隷の鎖を見た瞬間、まともに戦えなくなるほどの異常事態に陥ってしまったビョルンさん。私は彼の呪いを解きたい、彼の口から真実を聞きたいのだ。


『ブランシュさんのドワーフの家族を助け出す。その約束は絶対に守ります。でも、そのためにはまず、私たちの最大戦力を元に戻さなきゃいけません』


 私は交渉の日の晩、ブランシュさんにはっきりと告げた。事実、ビョルンさんの力なしでは、私がいくら知略をこらしたとしても貴族の陰謀を暴くのは無理だ。 


『ビョルンさんのの呪いを解く手伝いをすること。それが、次の作戦へ進むための第一条件です』

 

 私が提示したその新しい契約条件を、ユウさんとブランシュさんは覚悟を決めて受け入れてくれた。二人の瞳には、あの夜の絶望はもうない。ビョルンさんの呪いを解くためにクリスタニアに向かう。その為にも「商会ランクを上げる」という明確なロードマップが私たちの中で出来上がったのだ。

 

「……」

 

 ビョルンさんが気まずそうに視線を逸らし、ふんと鼻を鳴らす。

 

「私は優秀な腹心ですから。ビョルンさんが戦えない間は、私が代わりに頭を働かせて、ユウさんとブランシュさんが手足となって稼いで頂きます」

 

 私の言葉に、ビョルンさんは一瞬だけ驚いたように目を見開いた。

 やがて、彼は観念したようにクックッと喉で笑うと、机から足を下ろして立ち上がり、私の頭をいつものようにくしゃくしゃと撫で回した。その耳が、ほんの少しだけ、嬉しそうに上を向く。

 

「お前が()()()商人だということは、嫌というほど思い知らされる」


「まぁ、その為にもあなたにはポーション作りを頑張って頂かなければならなのですが」


 私がじとりと見上げると、ビョルンさんは肩を竦めた。


「エリクサーの話か? あれは魔術都市(セレスティウム)の魔術師しか生成できない」


「別に同じものを作らなくたっていいんです。我々が作りたいのはコスパ重視の安価で、しかし効果の高いものです」


 ビョルンさんは顎髭を触りながら、思案を巡らせる。


「できないことは、ない。幸いなことに今は人数も多い。ダンジョンでの採集も負担は少なくなるだろう」


「じゃあ!」


「だが肝心のレシピがない」


 肩透かしを食らってしまって、がっくりと項垂れる。今、この迷宮(ダンジョン)都市では毎日目まぐるしいまでに迷宮(ダンジョン)が現れては消えていく。冒険者もまた同じだ。彼らの生命を握るのは、やはり道中のサポートアイテムの有無。


「レシピの場所は?」


「そういう問題じゃない。この世に未だ生まれていないもを生成できないんだ」


 ビョルンさんは腕を組んでしばらく黙り込む。しかしふと何かを思いついたように顔を上げた。


「……なら」


「え?」


「本の虫の魔女。彼女なら手がかりになる資料を持っているかもしれん。魔女が薬を作っていたのは、この島に王族が入ってくる前の手巻きごとだがな」


 新たな情報に私のアンテナがピーン! と、反応する。


「魔女の迷宮にいけばいい。だが……」


 ビョルンさんは眉間に皺を寄せて、私をまっすぐに見た。その目には心配の色が浮かんでいる。


「魔女は狡猾だ。心の隙を突いて、惑わせる。それでも行くか 」


 彼の言葉には心配と優しさが込められていた。ビョルンさんのためでもあるのだから、余計にいたたまれないのだろう。彼の気持ちは最もだ。しかし私は鳥籠で守られるだけの鳥じゃない。


「私も、ユウさんもブランシュさんも。魔女には負けません。きっと乗り越えられるはずですよ」


 それは祈りにも似た言葉だった。しかしユウさんとブランシュさんのことは信じたい。だから私は、肯定的な言葉を返す。


「……わかった。では明日の朝出発だ。小僧と小娘にも教えてやれ」


「はい。ありがとうございます、ビョルンさん!」

 

 私は笑うと、ユウさんとブランシュさんのところに手を振りながら走った。ビョルンさんが目を細めて私の後ろ姿を見ていたことになんか、ちっとも気づいていなかった。

 


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