表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
09_迷宮都市編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
210/234

210_温玉のせって、なんか特別感あるよね

「ひゃああああああ!?」


 前略。私とビョルンさんは、卵を抱えてダンジョンの中を爆走していた。


 休憩所からさほど離れていないところに、ハーピーの巣はあった。ビョルンさんは気配で察していたのだろう。その岩棚に巣があり、大きくて青い卵をひとつ、無事に手に入れることができた。の、だが。


 運悪く、親鳥が戻ってきてしまったのだ。

 

 ハーピーとは、巨大な猛禽類の身体を持った魔物だった。そこまではいい。問題は、その首から上が、生々しい『人間の女性の生首』にそっくりなことだった。そのおぞましい魔物が、鳴き声をあげ、爪をむきだして追いかけてくる。

 

「鳥じゃなくて、人間!? いや、鳥!? 顔が怖すぎるんですけど!?」

 

「言っただろう、ハーピーだと。上半身は女、下半身は鳥の魔物だ」

 

「聞いてません! もっと可愛い感じの、ちょっと大きめの雷鳥的な魔物想像してました!」


「魔物に可愛らしさを求めるな」

 

 走りながら私が叫んだ瞬間、一羽のハーピーが大きく口を開けた。

 

ギギャァァァァッッ!!!

 

「……!?」

 

 脳を直接かきむしられるような、凄まじい奇声が岩壁に反響する。まるで黒板に爪を立てた時に出る音みたいな、不快な不協和音だ。耳の奥がキーンと痛くなり、立っていられなくなるほどの精神攻撃。私は思わず耳を塞いでその場にうずくまった。

 

「ルナ!」

 

 ビョルンさんは剣を引き抜くと、私を背中に庇うように前に出た。エルフの鋭い耳はこういう音波に弱そうなのに、彼は眉ひとつ動かさない。ビョルンさんの精神力の強さゆえだろうか。

 

ギシャァァッ!

 

 侵入者を排除するため、上空から三羽のハーピーが一斉に急降下してきた。

 人間離れした鋭い肉食鳥の爪が、ビョルンさんの顔面めがけて突き出される。しかし、ビョルンさんの動きの方が遥かに早かった。

 

「『風よ、吹き荒べ』!」

 

 短い詠唱とともに剣を真横に一閃すると、大きな竜巻がたちのぼり、襲いかかったハーピーたちをまとめて叩き落とした。ドサドサと地面に落ちた彼女たちは、気絶したように動かなくなる。

 

「無事か」


「は、はい! 卵は無事です!」


 私の返答に、不満そうなビョルンさん。


「ええと、私も無事です。お陰様で」


 少し照れくさいので、視線を下げて頷いてみせる。するとビョルンさんの耳がひょこんとあがり、機嫌良さそうに揺れた。

  

「群れが本格的に怒り出す前に、ずらかるぞ」

 

 上空を見上げると、仲間をやられた無数のハーピーたちが、顔を真っ赤にして髪を振り乱し、今にも総攻撃を仕掛けてきそうな雰囲気だ。怖すぎる。夜に見たら絶対にうなされる。

 

「捕まってろ」


「へ、わぁあっ!?」

  

 ビョルンさんは私をひょいと抱えあげると、風のように走り出した。

 背後から数十羽のハーピーによる、鼓膜が破れそうな大合唱の奇声が追いかけてくる。私たちは脱兎のごとく通路を走り抜け、ハーピーの生息地を後にしたのだった。




「ってことがあって、遅くなりました」


 安全地帯に戻り、ケルベロスとユウさんのところに戻る。ボロボロになった私とビョルンさんを見て、ゆうさんは驚いたように目を丸めた。


「お疲れ様でした。食料調達に行ってたなんて思いませんでしたよ」


「ダンジョンでは、栄養のあるご飯を食べて欲しいですからね。それに……」


 言葉を区切って、まだ気を失っている女性を見る。ケルベロスが守るように三つの頭をもたげ、足の下で匿ってくれていた。


「辛いことがあった時は、美味しいものを食べたくなるじゃないですか」

 

「そうですね。俺、なにか手伝いましょうか?」


「ちょうど良かった。アクア・ヒュドラのお肉を切るのを手伝ってください!」


「了解!」


 私とユウさんは顔を見合せて笑い合うと、手際よく夕食の準備を始めた。私が持参した大きめの鍋を火にかける。休憩所の一角に、じわじわと温かい熱気が広がり始めた。

 

 そして次に取り出したのは、アクア・ヒュドラの霜降り肉。上級魔物の肉だけあって、白く美しいサシが入っている。ユウさんはナイフで、贅沢に少し厚めにスライスしていく。ナイフの切れ味もさることながら、肉の脂がちょうどよく、すうっと刃が通る。

 

「うわ、柔らかいな。高級和牛みたいだ」


「サシがいい感じですよね。きっと美味しいですよ」

 

 ユウさんが信じられないものを見るような目で、肉塊を見つめている。


「こっちでは何を食べてたんですか?」


 ユウさんの顔が曇る。


「魔物肉はあまり食べなかったんですよ。売った方が金になるからって」


 たしかに、それはそうだよなと納得する。


「それにこっちのご飯はなんだか味気なくて。ルナさんたちに会うまで、食べる楽しみなんて忘れてましたよ」


「そうだったんですね……」


 ユウさんはこの世界でかなり苦労したのだろう。その大きな手のタコや傷が、その苦労を物語っているようだった。だからこそ、私はユウさんに楽しい思い出を作ってほしい。

 

「ねぇ、ユウさん。これを見てください!」

 

 私がカバンから取り出したのは、さっき命がけで獲ってきたハーピーの卵だ。私の手に余るほどの大きな卵、それは青くツヤツヤで、なかなかの重さがある。

 

「ご安心ください。卵はちゃんと浄化済みです。食べてもお腹は壊さないし、呪われることもないそうです」


「呪い……は、怖いけど。大丈夫そうなら良かったです。それをどうするんですか? さすがに生食はできないですよね」


「ビョルンさん曰く、さすがに日は通した方がいいって言ってました。だから温泉卵にして鍋に乗せようと思ったんです」

 

「温泉卵」


 ユウさんの目がキラリと輝く。わかる、温玉のせってなんか特別感あるよね。

 

「実はヒュドラを倒したあの泉の奥、実はちょうどいい湯加減の熱泉が湧き出てたんです。戻る前に、あそこにしばらく卵を浸けておいたんですよ」


 ふふん、と得意げに鼻を鳴らしてみる。

 

「生食できないのなら、ちょっとした工夫をすればいい。名付けて『地底温泉卵』!」


「おぉー!」


 私が卵を掲げると、ユウさんがぱちぱちと拍手をしてくれた。ビョルンさんだったら絶対に得られない反応に、私は気分が上がる。これなら料理にも身が入るというというものだ。

 

「まずはタレ作りから!」


 タクさんにいただいた貴重な醤油に、白酒、臨時の隠し味としてマントラップ・フラワーの蜜をたっぷりと混ぜ合わせる。特製の『割りした』だ。

 

 熱したフライパンにヒュドラの脂身を滑らせ、まずは肉だけを数枚、ジューッと焼き上げる。香ばしい肉の香りが立ち上ったところで、泣き虫球根と野草を投入。具材に満遍なく火が通ったのを確認して、割りしたを回し入れた。

 

ジュ……ジュワァァッ!!!

 

 甘辛い醤油の焦げるいい匂いが、ジメジメした休憩所の空気を一瞬で支配する。ケルベロスの鼻がひくひくと動いて、私の背中に擦り付けてきた。


「わわ、ちょっと待ってね。あなたたちにはタレがついてないお肉をあげるから」


「きゅうん」


 ぷすぷすと切なげに鼻を鳴らす三つの頭を撫でて、最後の仕上げに取り掛かる。

 

「よし、ユウさんには大役をお願いしましょう。そこにこの卵を割ってみてください」


「えっ、俺でいいんですか」


「もちろん!殻が硬いので気をつけて」


 オイシイトコロは今回は譲ってあげよう。

 大役を任されたユウさんはごくりと喉を鳴らし、神妙な顔で頷いた。


「い、いきます!」

 

 ユウさんが言われた通りに青い殻をコンコンと叩き、器の上でパカッと割る。

 中からとろんと飛び出してきたのは、白身がうっすらと白濁し、黄身が絶妙な半熟状態になった、完璧な温泉卵だった。しかも通常の卵の五倍はある大きさで、大きな鍋の上でも主役級の存在感を放っている。

 

「うわあぁ……! いい火加減ですね!」


「ほんとですね! 完璧!」


 喜びのあまり私とユウさんはハイタッチをした。彼の笑顔は最初に会った時に比べて、とても明るかった。


「さてさて、そろそろいいかな……って、わぁ!」

 

 ビョルンさんを呼ぼうとして振り返る。しかし彼の名前を呼ぶ前に、すぐ後ろに立っていた。


「腹が減った」


 素直すぎる言葉に吹き出しそうになりながら、私は鍋を指さす。ダンジョン攻略中だって、ご馳走を食べたって許されるはず。だから、わたしはじしんまんまんにこたえた。


「今完成したところです。『異世界風スキヤキ・地底温泉玉子のせ』!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ