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異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
09_迷宮都市編

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207/235

207_鉄の防御と三つ首大蛇

「っ、鑑定!」

 

 私は鑑定グラスで目を()らし、その巨大な質量に焦点を合わせた。水飛沫の向こうで、ぬらぬらと青黒く光る大蛇の首が四つ、五つと蠢いている。

 

『アクア・ヒュドラ:A級モンスター。高い再生能力を持ち、口から高圧の水流を吐き出す』

 

「アクア・ヒュドラ……! A級上位の魔物です!」

 

「ちっ、ダンジョンのヌシが飯の匂いにつられたか。駄犬、来い!」

 

 ミニベロスは三つの頭を同時に縦に振り、私の前に立ちはだかって威嚇の声を上げた。ビョルンさんが足輪を外し、本来の大きな三つ首の魔獣(ケルベロス)の姿へと戻る。


「グルァァァッ!」


 ケルベロスは咆哮を上げながら、アクア・ヒュドラの一つの頭に食らいつく。鋭い爪でヒュドラの大きな鱗を引っ掻き、大きな金属音を立てた。 


 三つ首の獣と三つ首の蛇が絡み合い、激しい水飛沫を上げる。岩にぶつかる音が響き、アクア・ヒュドラがケルベロスの身体にガブリと噛み付いた。


「……っ!」


 私はケルベロスが傷つく姿を見ていられなくて、両手で目を覆う。


「駄犬、戻ってこい!」


 ビョルンさんが駆け寄り、ケルベロスに噛み付いた首に剣を突き立てた。アクア・ヒュドラは空気の漏れる音で威嚇して、ケルベロスから離れる。怪我を負ったケルベロスに駆け寄り、私は彼らの首を撫でた。


「ルナ!」 

 

 アクア・ヒュドラの一つの頭が、獲物を定めたように激しく鎌首をもたげ、信じられない速度でこちらへと突進してきた。その巨大な顎が、岩陰の私を引き裂こうと迫る。ビョルンさんが私の名前を呼ぶが、間に合わない。

 

「させるかぁあっ!!」

 

 凄まじい金属音とともに、突進の軌道が強引にねじ曲げられた。


「ユウさん!」


「ルナさん、下がっててください!」


 彼は重厚な大盾を地面に深く突き立て、全身の体重を乗せて大蛇の牙を真っ向から弾き返していた。

 

「ぐ、うおおおおおッ!」

 

 鎧を軋ませながらも、ユウさんは一歩も後ろへ引かない。ユウさんの咆哮に応えるように、ヒュドラの生き残った三つの頭が同時に大きく口を開け、胸元を青白く発光させた。

 

 まともに喰らえば、大盾ごと身体を粉砕されかねない一撃。しかしそれを受け止めた彼の大盾が、黄金の光を放ち始める。それはまさに、私がユニークスキルを発動した時と同じ光だった。

 

「これ以上の侵入は、断固として拒絶する……! 発動せよ、『ファイアウォール』!!」

 

ガシャアアアアアン!!!

 

 洞窟内に、まるで巨大な鋼鉄の建造物が閉まるような、重厚な駆動音が鳴り響いた。ユウさんの大盾を中心に展開されたのは、幾重にも組み合わさった光のハニカム構造。強固な『防火扉』のような防壁が、私たちと魔物の間を完全に分断したのだ。

 

 ヒュドラの放った凶悪な三条の水流ブレスが、その光の防火扉へと真正面から激突する。激しい水飛沫と衝撃波が周囲の岩肌を砕くが、ユウさんの防壁はヒビ一つ入らない。

 

「ここまでの力を隠していたとはな」

 

 さすがのビョルンさんも、その圧倒的な防御力に目を見張っている。水流は光の壁にぶつかった瞬間にすべて霧散し、ユウさんの足元から後ろへは、水一滴すら通さない。

 

「はは……これくらいは、させてもらわないと!」

 

 ユウさんは大盾を支えながら、不敵に笑ってみせた。

 

「敵の攻撃は完全にブロックしました! 今です、カウンターを!」

 

「言われずとも」

 

 ビョルンさんがふっと口角を上げる。防火扉の隙間から、風のようにすり抜けて跳躍した。


「『風よ、切り裂け』!」

 

 ビョルンさんが両手で構えた剣を振り下ろすと、洞窟全体を震わせるほどの巨大な竜巻が巻き起こった。それはヒュドラの巨体を容赦なく巻き込み、すべての首と巨大な胴体を、文字通り一瞬でズタズタの細切れに粉砕していった。


「うわ、うわわわっ!?」

 

 ボタボタとヒュドラだった肉塊が泉へと降ってきて、私は思わず悲鳴をあげた。静寂が、再び神秘的な泉の周りへと戻ってくる。

 

「はぁ、はぁ……やった、のか……?」

 

 ユウさんが【ファイアウォール】を解除すると、光の防火扉が粒子となって消えていむた。それと同時に張り詰めていた緊張が切れたのか、ユウさんはその場にガクッと膝をつく。

 

「ユウさん!」

 

 私は急いで駆け寄り、彼の肩を支えた。

 

「大丈夫ですか!?」


 私の言葉に頷くユウさん。


「あんなに頼もしい壁、見たことありませんよ。本当にすごかったです!」

 

「はい、でも、ちょっと腰が抜けちゃったみたいで……情けないな」

 

「グルゥ」

 

 ケルベロスもユウさんのを称えるように、彼の頬を三つの頭で代わる代わるペロペロと舐め回している。完全に仲間として認めた証拠だ。

 

「大した度胸だ」

 

 ビョルンさんが剣についた血を払いながら、歩み寄ってきた。ボサボサの髪の間から覗くライムグリーンの瞳は優しくユウさんを見つめている。

 

「あのヒュドラの一撃を、真っ向受け止めるとはな。並の冒険者でも装備を投げ出して逃げ出すところだ。今後も励めよ」

 

「商会長……! ありがとうございます! 俺、役に立ちます!」

 

 褒められたユウさんは嬉しそうに笑い、礼儀正しく頭を下げた。

 

「さ、これで本当に障害はなくなりましたね! ってことで、アクア・ヒュドラの素材を頂いちゃいましょう!」


「はい!」


 私の陽気な声に答えるように、ユウさんも拳をあげる。私たちの脳天気な様子にビョルンさんは呆れるように肩を竦めた。


 地下のジメジメした暗闇の中、私たちの笑い声が優しく響く。不当な扱いに傷ついていた異世界人の盾持ち(タンク)は、今、この場所で最高の居場所を見つけたのだ。


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