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異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
07_漁業都市(ポルタ・サレ)編

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175/246

175_積み重なる問題

 私が最高顧問?


 思ってもなかった打診に、思考が止まった。


「お前以外に、ギルドの頭をまとめられるやつはいないと思うが?」


 オブライエンさんがまっすぐ、鋭い目で私を見る。


「私は……」


 視線を下げて、自分の手を見た。


 何を迷っている、星宮瑠奈。私の目的は、元の世界に帰ることだ。ビョルンさんの借金を返す代わりに、元の世界に戻る方法を探す。そのためにルーンデールを出て、ここまで来たんじゃないか。


 でも、ポルタ・サレで稼いだお金では、まだまだ借金返済には遠く及ばない。今、ここでギルドの最高顧問を引き付けた方が効率的にお金を稼げる。とはいえ、ひとつの場所に留まって、果たして元の世界に変える方法を見つけられるかどうか。


「……少し、考える時間をいただけますか」


「ま、いきなりこんなことを言われたって困るよな」


「休憩を挟みましょう」


 私の頼りない返答にオブライエンさんは頷いて、エリザベスさんは気を使って時間を作ってくれた。私は一礼をして、逃げるように応接室を後にする。ビョルンさんの方は見ていなかった。




 ポルタ・サレの商人ギルドには、静かな中庭があるらしい。緑色に生い茂った芝生と、色とりどりの花が花壇に植えられている。花の香りと青臭い芝生の匂いを胸いっぱいに吸い込んで、芝生に座り込んだ。 


「ルナ」


 後ろから名前を呼ばれる。振り返るとそこにはビョルンさんが立っていて、そよ風に髪を揺らしていた。私を心配して、追いかけてきてくれたんだろうか。


「大丈夫ですよ。ただ、少し驚いちゃって」


 私は笑顔を向けながら、足元の草に指を絡めた。


「でも、お金を稼げるんならアリかなぁとも思ったんです」


「だが、お前の目的は果たせないだろう」


 ビョルンさんは静かに言って、私の隣に座り込む。そして静かに、まっすぐ私の顔を見た。その目は太陽の穏やかな光を反射して、優しさを感じさせる。


「俺のことは、気にしなくていい」


「え?」


「元より俺の問題だ。お前には関係ない」


 突き放すような言葉のくせに、その声はとても穏やかだった。ビョルンさんは私の顔をのぞきこみ、ぽすんと頭に手を置いた。


「お前は自由だ、ルナ」     


 言い聞かせるような言葉に、私の胸がつきりと痛む。ビョルンさんは私のためを思って言葉を紡いでくれている。でも今は、出会った頃のようなわがままさが恋しい。だって、契約は私たちを繋ぐ唯一の糸だから。


「ねぇ、ビョルンさん」


「なんだ」


「どうして、あんなにたくさんの借金があるんですか」


 言ってしまった。ずっと胸につっかえていた。


 これまで見てきたビョルンさんの姿と、多額の借金がどうしても結びつかないのだ。彼はお金に頓着(とんちゃく)がなくて、杜撰(ずさん)な管理で困った時もあるけれど、ギャンブルに手を染める人じゃない。悪事に自ら首を突っ込むほど無謀でもない。なにか大きな理由があるんじゃないか。そんな疑問が、ついに溢れてしまった。


 ビョルンさんはガシガシと頭をかいて、気まずそうに顔を背ける。そして蚊の鳴くような声で、言葉を紡いだ。


「……話していなくて、悪かった」


 素直な謝罪の言葉に、私は首を横に振る。


「話しにくいことは、誰だってありますよ」


「ただ、今は全てを話すことができない。お前に非がある訳ではないんだ」


 静かに視線を落とすビョルンさんは、どこか苦しげな顔をしていた。話したいのに話せない。その理由があるのだろうか。 


「勇者様と関係があるから、ですか?」


 私の言葉に、ビョルンさんは勢いよく顔を上げた。ライムグリーンの目を丸めて、警戒するように息を飲む。


「なぜ、それを」


「熱が出ていた時、ビョルンさんが私に言ったんです。マオのところには行くなって」


「……そうか」


 ビョルンさんは大きく息を吐き、空を仰いだ。そしてどこか決心したように目を細め、口を開いた。しかしその喉から紡がれたのは言葉ではなく、真っ黒な液体。それがビョルンさんの血だと気付いたときには、ビョルンさんは苦しげに胸を押えていた。


「ビョルンさんっ!?」


「話そうとすれば、こうなる。そういう()()だ」


「呪い……?」


 どうしてビョルンさんが、そんな呪いを受けなければならなかったんだろう。いったいこの人は何を抱えているんだろう。 


勇者(マオ)に、嵌められたんだ」


「え……?」


「俺の負債を、アニタが肩代わりした。俺は彼女に借りを返すために、行商人として商いをするようになった。……とはいえ、商才はなかったがな」


 自嘲気味な笑みを浮かべて、ビョルンさんは首を振った。そして私を安心させるように、頭に手を乗せる。その手は普段よりも熱くて、彼の身体に異常が起きていることは明白だった。 


「呪いを解くことは出来ないんですか」


 ビョルンさんは首を横に振る。 


「呪いは魔法とは違う。浄化魔法でも不可能だ。専門の聖職者の力が必要だと言われた」


「なら、解呪できる人を探しましょう」


「王都にしかいない」


 諦めを含んだ声で淡々と告げた。王都には呪いをかけた張本人であるマオがいる。つまり王都での解呪は不可能ということだ。私の力だけでは、どうしようもできない壁。それがたまらなくもどかしい。


「お前は、元の世界に帰ることだけを考えろ」


 突然告げられた契約破棄。それがビョルンさんの拒絶ではなく、後押しであることはわかってる。でも、私はビョルンさんの傍にいたい。


「契約不履行なんて、許しません」


 私はビョルンさんの手を包み込むように握って、彼の顔を覗き込んだ。ライムグリーンの瞳が動揺に揺れる。


「最初から、最高顧問のお話は断るつもりだったんです。お金は別の形で返せばいい。呪いを解く方法だって、きっと見つかるはずです」


 私は一呼吸置いて、ビョルンさんを見つめた。緊張で身体が強ばる。思いを言葉にするのは、こんなにも難しいことだったっけ。


「私は、ビョルンさんと旅がしたい」


 今の私にとって、大切なのはビョルンさんの傍にいることだ。元の世界に戻りたいという気持ちは変わらない。だけど、できる限りビョルンさんと共に歩みたいという気持ちがあった。


「後悔するなよ」


 ビョルンさんはふっと口角を緩めて、私の額に自分の額を合わせる。小麦畑のような髪が頬に当たってくすぐったい。


 問題は山積みだ。元の世界に変える方法、負債の返済、そしてビョルンさんの呪い。全部をひとりで抱え込むことは難しい。でも、私にはビョルンさんがいる。


「ビョルンさんだって。途中で投げ出すなんて、許しませんから」


 私はビョルンさんの額にゴツンと頭突きをして、いたずらっぽく笑ってみせた。

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