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異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
07_漁業都市(ポルタ・サレ)編

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174/246

174_騒ぎのあとは円卓にて

「回復したようでなによりですわ」


 ビョルンさんが目覚めた翌日。エリザベスさんが優しく微笑みながら、私とビョルンさんに席につくように促してくれた。


 私はビョルンさんから少し距離を取って椅子に腰掛ける。昨日近づきすぎてしまった、そのお詫びもかねて。しかしビョルンさんはそんな気遣いも無下にするように、いつもの距離感でどっかりと座り込んだ。


「揃いましたわね」


 ここは商人ギルドの応接室。豪奢な調度品と、落ち着いた木目の柱が特徴的な広い部屋だ。そこには大きな円卓があり、これまで私が出会ってきた人々が各々の席に座っている。


 エリザベスさんとクレイモアさんはもちろんのこと、釣り人ギルドマスターのバルデーニさん、商人ギルドマスター、市民を取りまとめていたオブライエンさん、オーク族代表のユフィリアさん。


 そんな権威のある面々の中に、私とビョルンさん、そしてタクさんが挟まれるように席についていた。


「あの、我々が出席しても(よろ)しいのでしょうか……?」


 恐る恐るたずねるタクさんの言葉に、エリザベスさんは頷いた。


「あなた方はこの街の英雄ですもの。この街の今後を決める席にあなた方を招かずして、誰を座らせるというのです?」


 エリザベスさんの言葉に、オブライエンさんは不満げに眉を寄せた。そして乱暴に机を叩いて、エリザベスさんに吠えた。


「他領の貴族が、この街を仕切るってのか?」


 オブライエンさんの口調は荒いが、指摘は最もだ。この国では貴族領と自治領がある。このポルタ・サレは市民による自治が認められた自治領だ。それなのに隣の貴族が首を突っ込んでくるのは、快い気がしないだろう。


「お気持ちは分かりますわ。ですから、わたくしはあくまで仲介役に(てっ)するとお約束いたします」


 エリザベスさんがずっと目を細めて、オブライエンさんを見る。  


「まさか自治領の元代表が、地下に潜っていたとは思いませんでしたわ」


私は驚いてオブライエンさんを見た。頼もしい人だとは思っていたけれど、まさか彼にそんな経歴があったなんて。


「商会の野郎共のせいだ」


「そうでしょうね。ここ数年のポルタ・サレの代表は『白銀の錨(プラチナアンカー)』商会長でしたから」


 エリザベスさんの言葉ではたと気付く。そういえば、『白銀の錨(プラチナ・アンカー)』の商会長の席は空席だった。私が首を傾げていると、クレイモアさんが補足してくれる。


「『白銀の錨(プラチナ・アンカー)』商会長こそ、あなたがたが捕らえた商人ですよ」


「えっ!?」


 私とビョルンさんは顔を見合わせた。


「アール……いえ、彼の本名はアーノルド。五年前に亡くなった元商会長に成り代わり、商会を治めていたようです」


「成り代わった?」


「元商会長の側近だった彼は、元商会長の死を隠して本人に成り代わったようです。本来、商会長は表舞台に顔を出さない、正体不明の人物でしたから」


 明かされた事実に、私は納得している自分に気がつく。アールの緻密な計画と手際の良さは一介の商人だとは考えにくい。セレスティウムとの繋がりを考えれば、商会長という席がよく似合う。


 ただ、私はいまだにこれが現実なのかとも思っていた。初めてアールに会った時の手のひらの温度を覚えている。震えていて、冷たくて。そしてこちらに(すが)るような手と、柔らかな笑顔。それが全て偽りだと信じられなかったのだ。


「ルナ」


 ビョルンさんが私の名前を呼んでくれる。その声は低く落ち着いていて、私への心配が(にじ)んでいた。


「大丈夫ですよ、ビョルンさん」


 私はビョルンさんの方を向いて、しっかりと頷いた。ビョルンさんに心配をかけてどうする。


「話を続けてください」


 私の様子に満足したのか、エリザベスさんはその場の面々に言った。


「目下の問題は、空席となったポルタ・サレの代表者の座と、『白銀の錨(プラチナ・アンカー)』の始末です」


 エリザベスさんの言葉が落とされた瞬間、応接室の空気がピリッと張り詰めた。そして最初に口を開いたのは、商人ギルドのギルドマスターだった。


「決まっておろう。『白銀の錨(プラチナ・アンカー)』の資産はすべて没収だ。そして代表の座には我々商人ギルドを置き、本来の自治領の姿を取り戻すために尽力するとしよう」


「待てよ」


 遮ったのは、腕を組んで深く椅子にもたれかかっていたバルデーニさんだった。


「これまで商会にいいように使われてきた連中なんぞ、信用できるか。引っ込んでな」


「なんだと?」


 商人ギルドマスターの額に青筋が立つ。そこへ、エリザベスさんが優雅に、しかし逃げ道を塞ぐように言葉を重ねた。


「最も重要なのは、セレスティウムへの抑止力ですわ。アールという繋がりを失った彼らですが、この港の利権を諦めるとは思えません。ギルドという薄氷の盾だけで、あの魔術師団の再侵攻を防げますの?」


 部屋全体に、重苦しい沈黙が広がった。そしてさらにユフィリアさんが重い発言をする。


「瘴気が浄化されたとはいえ、近年魔物の被害も増加傾向にあります。今はオーク族で食い止めていますが、それもいつまで持つかどうか」


「オークと手を組めってのか?」


「人間族がオークに対して良い印象を持っていないことは理解しています。ですが、今は手を取り合うべきです」


「そんなこと言ったって、無茶なもんは無茶だ」


 自由を重んじるポルタ・サレの市民や釣り人たち。けれど、『白銀の錨(プラチナ・アンカー)』という巨大な経済の柱を失い、さらにセレスティウムという巨大な魔法都市に目を付けられた今、彼らだけで立ち向かうのは不可能に近い。兵力となり得るオークや人魚(セイレーン)たちと協力し合うためには、信頼関係が築けない。


 かといって、ここでエリザベスさんのルーンデール領に頼れば、事実上、この街の自治は終わりを迎える。


 誰もが苦渋の表情を浮かべ、口論し、議論は完全に膠着していた。横に座るタクさんが、不安そうに私を見る。ビョルンさんは黙ったまま、私の出方を待っている。


 このままでは(らち)が明かない。私は深呼吸をして、手を挙げた。


「あの……一つ、提案をしてもよろしいでしょうか」


 静かに手を挙げると、部屋中の視線が私に集まった。商人ギルドマスターが訝しげに眉をひそめ、ユフィリアさんが期待を込めて目を輝かせる。エリザベスさんは楽しげに目を細めた。


「言ってみてくれ。ここにいる全員、お前の話なら聞くだろうよ」


 バルデーニさんの促しに、私は深く息を吸って立ち上がった。


「プラチナ・アンカー商会は解体するべきです。ですが、その流通網と資産の管理は市民だけで抱え込むことは不可能です。そこでまったく新しい()()()()()として再編成するのはいかがでしょうか」


「共同ギルドだと?」


 オブライエンさんが低く呟く。私はテーブルの上に、簡単な街の地図を広げた。


「はい。アールがこの街を支配できたのは、商会派と非商会派で市民を分断したからです。長らくこの街は同じ市民同士でいがみ合っていた。それなら、その逆をすればいい」


「複数人でこの街を治めるということかしら?」


 エリザベスさんの問いに頷く。


「そうです。新しい代表の座は一人にするのではなく、議会制にします。市民代表、各ギルドマスターは投票制で選出するんです」


 私は、凛と前を見据えるユフィリアさん、そして窓の外の海へと視線を向けた。


「山のオーク族、海の人魚(セイレーン)族。彼らにもギルドの席を設け、交易権を等しく分配します。オークの山の資源、人魚の海の恵み、そして市民の商業の力。これが一つになれば、『白銀の錨(プラチナ・アンカー)』以上の経済圏が生まれるでしょう」


「ふざけるな!」 


 次に声を上げたのは、商人ギルドマスターだった。


「人魚やオークと手を組むなど! 何を考えている!」


「人種的な差別は、経済の前には無意味ですわよ。商人ギルドマスター」


 商人ギルドマスターを完封するように、エリザベスさんが美しい声で制した。


「我がフィッツィガルディ公爵家は、その多種族連合ギルドの最初の交易相手として、正式に同盟を結びますわ。ルーンデールは同盟相手として、ポルタ・サレの自治を尊重します。それならよろしいのでは?」


 エリザベスさんの言葉に、部屋中が息を呑んだ。


「問題はあって? クレイモア」


「いいえ、エリザベス様。あなた様のご判断は賢明かと」


 貴族の支配を受け入れず、かつセレスティウムの脅威を退け、多種族の力で平和を目指すプラン。これこそ、この街全員が救われる方法のはずだ。


「……ははっ、とんでもねえ商売人がいたもんだ」


 最初に笑い出したのはバルデーニさんだった。


「俺は乗るぜ。面白そうだ」


「我がオーク族も、ルナの提案に従いましょう。ポルタ・サレとの共存は、私たちの願いでもあります」


 ユフィリアさんが胸を張って宣言して、私にウィンクしてくれる。周囲の視線が、オブライエンさんへと集まった。彼はしばらく苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、やがて大きく息を吐き、ドサリと椅子に背を預けた。


「他領の貴族に頭を下げるよりは、人魚やオークと机を並べる方がマシか」


 オブライエンさんが、鋭い目で私を見る。その目はとても真剣で、そらすことが出来ない。


「その新しいギルドの最高顧問は、当然あんたがやるんだろうな?」


「……へ?」

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