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異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
プロローグ編

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13_人間とエルフ、凸凹コンビ誕生

第13話です。

ようやくこのお話のプロローグまできました。これからようやく、2人の行商ライフが始まります。お付き合いいただけると幸いです。

13_人間とエルフ、凸凹コンビ誕生

つんと鼻を刺す消毒液のような薬草の匂いと、全身を包む温かい布団の感触に、ゆっくりと意識を取り戻した。重いまぶたを開けると、視界に入ったのは、温かな商人ギルドの一室の天井だった。体の奥底から感じていた凍えるような恐怖と激しい苦痛は消え去っていた。

「ん……?」

体を起こそうとした瞬間、横で微動だにせず座っている人影に気づいた。ビョルンさんの顔色はひどく悪く、疲労困憊していることが見て取れた。

あぁ、そっか。私、ビョルンさんに助けてもらったんだ。 

「ビョルンさ…けほっ」

乾燥した喉が痒くて小さく咳き込むと、ビョルンさんは反射的に目を開けた。ライムグリーンの瞳がこちらを捉え、その張り詰めた表情が、瞬時に安堵の色を帯びた。

「目が覚めたか」

ビョルンさんの声は、一週間前に話した時とは似ても似つかない、柔らかなものだった。彼はゆっくりと立ち上がり、ベッドサイドに置かれた水差しから水をコップに注ぐ。そしてこちらに近づくと、背中に手を差し込んで身体を起こすのを助けてくれた。

「あ、あの…ビョルンさん」

その優しさに胸が締め付けられるのを感じ、震える唇で彼を呼んだ。

「…本当に、ありがとうございました。あなたがいなければ、私……」

きっと今頃、毒で死んでいただろう。

日本では考えられなかった出来事に、恐怖で手が震える。しかしどれほど怖くても、これだけは言わなければならない。

「迷惑を、かけてしまって…ごめんなさい」

その言葉に、ビョルンさんは一瞬肩を揺らした。 

しかし彼は何も言わず静かに見つめてきた。きっと怒っているのだろう。もしくは失望しているか。叱責の言葉を覚悟して目を瞑ったが、帰ってきたのは今にも消え入りそうな声だった。

「謝罪するのは、こちらの方だ」

「え…?」

驚きで息が漏れる。ビョルンさんは真剣な顔で、しかしどこかバツが悪そうに視線を落としながら続けた。

「俺は、お前を嘘で突き放した」

…あれ?ふと気付いて目を見開く。ビョルンさんが私を『貴様』ではなく『お前』と呼んだ。それはこれまでの冷たい突き放す響きとは違い、近しい間柄で使う、親愛にも似た響きを持っている。なんて思うのは都合がよすぎるだろうか。

「『危険因子』などとくだらん嘘でお前を追い詰め、その結果、命の危険に晒した」 

「ち、違いますよ。ビョルンさんのせいではなくて、私が勝手にエリザベスさんを信じて、それで勝手に裏切られて…」

「あの女に付け入る隙を与えたのは…俺の責任でも、ある」 

あぁ、なんて優しい人なんだろう。どうして私は一瞬でも、この人の優しさを疑ってしまったのだろう。彼の優しさが嬉しくて、そして自分が情けなくて思わず目の前が滲む。

「謝るのは、私の方なんです。本当は、怖くて仕方がなかった。一人でどうにかするなんて、無理だって分かっていたのに」

とうとう溢れてしまった涙を擦りながら、必死に言葉を紡ぐ。命の危機に晒されたせいなのか、涙腺がバカになってしまった。

「あなたは最初からずっと私を守ろうとしてくれていたのに、私は自分勝手で…あなたのことを、怖いだなんて思ってしまって」

まっすぐビョルンさんの目を見る。そのライムグリーンの瞳を見据えて、そして深く頭を下げた。

「本当にごめんなさい」

ビョルンさんはゆっくりと涙を拭ってくれた。その手が温かくて、心地良さに目を閉じる。

「互いに、謝罪は終いにしよう」

私達は目を合わせて、そして小さく笑いあった。 


「話はついたかい、おバカども」

部屋の扉が開くと同時に現れたのは、呆れたように笑うアニタさんだった。 

「アニタさん…!」

ご迷惑をおかけしました。そう言うつもりで口を開くよりも先に、アニタさんはドシドシと大きな足音を立てて近づいてきた。2メートルほどあるアニタさんの大きな体が影を作り、私はただ見上げるしかなくなってしまった。

「まったく、あのねぇ、ルナ!」

「は、はい…ふぐぅッ!?」

むぎゅ!と何かとても暖かくて分厚いものに体が包まれる。香木とインクの香りが肺いっぱいになだれ込む。目の前が真っ暗で何も見えないけれど、暖かくてホワホワとした気持ちになって、その温もりを享受した。

「ほんっとうに心配したんだから!」

「ぁ、あの、アニタさん」

「ビョルンが飛び込んできたと思ったら、あんた血を吐いて死にかけてるって言うじゃないか!こっちは心臓止まるかと思ったよ!」

「ご、ごめんなひゃあ……」

「おいアニタ、ルナが潰れる」 

アニタさんの大きくて柔らかな身体で全力でハグされていたと知ったのは、ビョルンさんによって引き剥がされた後だった。おそらくあのままハグされ続けたら、三途の川を渡っていたかもしれない。毒を盛られた時には会わなかった、死んだはずのじいちゃんの顔が見えたんだもの。

「まったく、どいつもこいつも弱っちいねぇ」

「あんたが強すぎるだけだ、アニタ」

「これくらいのガッツがないと、あんたら問題児を纏める役なんてやってらんないよ」

問題児、と言われてしまって肩に力が入る。やっぱりアニタさんにも多大な迷惑と心配をかけてしまったんだ。

萎縮した私に気付いたのか、アニタさんは息を吐いて大きな手で頭を撫でてくれた。

「本当によかったよ。よく頑張ったね、ルナ。よくやったよ」

まさか褒められるなんて思っていなくて、目を丸めると、アニタさんはまるで母親が子供にするように優しく言い聞かせてくれた。

「ビョルンがあんたを運んできた時、本当に危ない状態だったんだ。ビョルンが保護魔法を掛けてたけど、それでも毒となると毒消しや治癒士を呼ばなきゃならなかった。それでも間に合ったのは、あんたが毒と戦ったおかげだよ」 

治癒士を呼ばなければならないほどと言うことは、RPG脳で推測するに、盛られた毒はなかなか厄介な状態異常だったのだろう。きっとビョルンさんやアニタさん以外にも、たくさんの人に迷惑をかけてしまったのだろう。それでもアニタさんは責め立てるのではなく、私の傷ついた心まで優しく包み込んでくれたのだ。

「ありがとうございます…」

「ん、素直な子は好きだよ」

頭を深く下げると、いいこ、いいこと優しく頭を撫でてくれた。しかしアニタさんはただ優しいだけではない、彼女は商人だ。彼女は真剣な顔になって、まっすぐと見据える。 

「ただね、ルナ。私らは商人、なにもボランティアだけで生きてるわけじゃない」

「はい、心得ております。このご恩は必ずお返しいたします」

ふっ、とアニタさんが意味深に微笑む。 

「その言葉を待ってたよ! 」

そしてアニタさんは勢いよくビョルンさんと私の肩を掴んだ。

「さぁて、じゃあ本題に入ろうかね。あんたが元気になったところで、このおバカエルフと二人でやって欲しい仕事があるんだ」

「やってほしい仕事?」

アニタさんはビョルンさんを見て、困ったように腰に手を当てた。ビョルンさんは心底居心地悪そうに腕を組んで、アニタさんを睨み返していた。

「あんたも気付いてると思うけど。こいつねぇ、商品は悪くないんだけど商才はからっきしなんだよ」

「…あんたに言われずとも、承知している」

「だからルナには、こいつを助けてやって欲しいんだ」

「私が、ビョルンさんを助ける…?」

「こいつの赤字がこれ以上膨らむのはこっちとしても不本意でね。だけどあんたはたった二時間で銀貨一枚と銅貨十五枚を売り上げたそうじゃないか」

「それは運が良かっただけですよ」

「商人ギルドじゃあね、運もそいつの能力のうちだって言う奴らが多いんだ。そこに運が転がっていたとして、そいつをモノにできるかは本人次第なのさ」

たしかに昔読んだビジネス書にもそう書かれていたけれど、実際に商人たちをまとめあげているリーダーにまで言われると説得力が増す。

「で、こいつはなにかと運が悪いくてね。あんたの運と知恵を分けてやって欲しいってわけさ」

「…アニタ、やはり」

「喧しい!1回決めたことは覆すもんじゃない、男が廃るよ!」

アニタさんに叱責されたビョルンさんの方を見ると、彼は目をそらしたが、わずかに耳が赤くなっている。しかし一切の迷いのない声で話し始めた。 

「王都に行くにしても、他の道を探すにしてもまず必要なのは路銀だ。商人ギルドの一員として資金調達するのが最も効率的だろう」

「ウチのメンバーってことにすりゃ、今回みたいに手出しようって言うバカも減るだろうしね」

その言葉にビョルンさんも小さく頷いた。アニタさんはそこで初めて優しさ以外の感情、炎のように激しい怒りを見せた。

それほどこのギルド、特にアニタさんの社会的信用が高いということに、少し驚いてしまった。予想はしていたけれど、アニタさんはこのルーンデールの街では相当権力を持っているのではあるまいか。

「恥を忍んで言うが、俺にはアニタへ負債がある。負債返済の為にお前の助力を頼みたい」

彼は「負債」という、最も彼らしい論理的な理由を提示することで、こちらに対等な立場の取引を持ちかけているのだ。

「だが対価として、俺はお前への助力を約束する。お前が故郷に帰るまで」

「……!」

それはつまり、私が元の世界に帰るための手助けをしてくれるということ。

「取引、してくれるか」

その言葉と共に差し出された大きな手は、少しだけ震えていた。これまで気づかなかったけれど、彼の手には細かな傷が残っていて、それらは彼が歩んできた並々ならぬ茨の道を物語っていた。私の力で彼の歩みを少しでも支えたいという思いが溢れて、彼の手を強く握った。

「はい、もちろんです!ビジネスパートナーとして、あなたを全力でバックアップしますね、ビョルンさん!」

にこりと笑い、彼を見上げる。

「それで、負債というのはおいくらですか?」

「……、だ……」

「はい?」

「金貨10000枚だ」 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

次回も引き続きよろしくお願いいたします

感想、レビュー、リアクションなどいただけると非常に嬉しいです。

※次回更新は1月14日18時です

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