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異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
07_漁業都市(ポルタ・サレ)編

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127/152

127_異世界恋愛事情

 

 私が座る座敷からは、カウンターでタクさんとミャーコさんが並んで料理いる様子がよく見える。些細な言葉と目線、相槌でお互いの考えを察して動く。


 二人は言葉少ないながらもスムーズに連携が取れていて、その動きはまるで作りこまれた舞台でも見ているみたいだ。そう、まるで長年連れ添った熟年夫婦みたい。


「温かいお茶、どうぞ」


 そうして手際よく淹れられたお茶を、タクさんは静かにテーブルの上に置いてくれる。ほかほかと温かく香ばしい香りのする湯呑みを受け取りながら、私はタクさんに尋ねた。   


「ね、タクさん。ミャーコさんへの()()()()()の言葉はやっぱり『僕にお味噌汁を毎日作ってください』ですか? タクさんなら『僕のお味噌汁を毎日飲んでください』?」


 ブッ!っと音がしたのは、ビョルンさんがお茶を吹き出したからだ。


「なんなんだ、藪から棒に」


「気になってしまって」 


 タクさんはというと、首まで顔を真っ赤にしてワナワナと震えている。そしてお盆を抱えて、大きな声で吠えた。


「ル、ルルルルナさん! 僕、僕らまだ! そういうのじゃなくてっっ!!」


「えぇっ!? てっきり熟年夫婦なのかなって思いました」


「ちちちち違うから!! まだ!! ね、ニャーコちゃん!!」


 タクさんは慌ててミャーコさんの方を振り返ると、弁明しようと手を大きく振る。しかしミャーコさんは面白がるように目を細め、その黒い尻尾をゆらゆらと揺らしていた。 


「ふぅん。まだ、ね?」 


「ニャーコちゃああん!! ちがうの、いや、ちがくないけどぉ!」


 タクさんはミャーコさんの方に駆け寄って、何やら弁明しようともつれた口で話ている。それをミャーコさんは静かに聴き流していた。しかしそのバンダナに隠された耳はパタパタと落ち着かなげに揺れているのを、わた私もビョルンさんも気付いていた。きっと気付いていないのは、タクさん本人だけだろう。


「お腹いっぱいですね」 


 お茶を一口飲み下す。そのお茶は熱すぎずぬるすぎない絶妙な温度で、豆のような香ばしい味がする。ビョルンさんも気に入ったのか、そのお茶をゆっくりと飲んでいた。


「求婚の常套句か」


「はい。お味噌汁は私の故郷では毎日飲まれるものなので、そういう文言になったんでしょうね」


「人間族は婚姻だの契約だのと面倒だ」


 ビョルンさんは少しウンザリしたように言う。


「エルフは違うんですか?」


「番を作ることもあるが、常に連れ添うわけではない。相手が長命種でないのなら、尚更だ」


「あぁ、なるほど……」


 この世界でもエルフは数百年生きる長命の種族だ。伴侶として愛した人をたった数十年で失うのは、きっと辛いだろうな。 


「寿命の長い種は生殖行為も盛んに行われることもない。年々エルフの種が数を減らしているのも、その矜恃の高さや生殖本能の希薄さが根本的な理由だろう」


「そうだったんですね」


 その言葉には事実を淡々と告げるだけでなく、僅かな哀愁を感じた。数百年も生きる感覚は分からないけれど、彼の心の柔らかい部分に触れた気がする。私は少し視線を落として、静かな言葉を紡いだ。 


「いつか、ビョルンさんにも、いい人見つかればいいですね」


 ビョルンさんには幸せになって欲しい。だって彼は大切なビジネスパートナーなんだから。


「……あ」 


 もしかして、ビョルンさんはユフィリアさんと種族違いの恋に苦しんでいるんじゃないか?


 それなら、今、すっごくデリカシーのない発言したかも!?


「あ、あの。ごめんなさい。変なこと言ってしまって」


 気まずくなって、ビョルンさんの顔が見れない。しかしビョルンさんは気を悪くするどころか、声にからかいの音色を乗せた。


「お前の方こそ」


「え?」


「人間族の生は短い」


 見上げると、彼はお茶を飲み干して私を静かに見つめていた。短いけれどこれまで旅を共にしたから、よくわかる。彼はこの会話を楽しんでいることを。


「お前のようなノロマはすぐに置いていかれるぞ」


「の、ノロマって! 失礼ですね、慎重って言ってくださいよ」


「……」


「もう、笑わないでくださいっ!」


 私が頬を膨らますと、ビョルンさんは歯を見せて笑った。その珍しい笑い方に、私も釣られて笑顔になる。

 お茶はもう飲みきってしまったけれど、湯呑みはまだほんのりと熱を持っていた。 

 

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