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異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
エルフの里帰り編

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126/142

126_「あーん」の効果はいかほどか?

126話です。

タイトルの通り「あーん」をする回です。OLとエルフ、どちらからなのか?

 85_

 それから待つこと十数分。私はミニベロスを撫でながら、ビョルンさんは魔導書を読みながら穏やかな時間を過ごしていた。


 調理場からパタパタと足音が聞こえて、お盆を二つ持ったタクさんが現れた。そしてお盆を机に置いて、これまた和かに料理の紹介してくれた。


「はい、お待ちどうさま。生のミルク貝の単品と、マグロと白身魚の刺身定食とソルトフィッシュ定食です」


 お盆の上には殻付きの生牡蠣、紅白の刺身、三つの小鉢とお味噌汁、そして山盛りのご飯。日本の定食屋で見るような刺身定食に、私は唾液を飲み下した。ビョルンさんも予想に反して嫌悪感は見られない反応で、少し安心した。


「そうだ、こっちはシロ君・クロ君・ブチ君に。ツナ丼です。うちの犬にもよく作ってやってたんですよ」


 タクさんはシロ・クロ・ブチの頭をそれぞれ撫でて、大きな丼を座布団の前に置いてくれた。ミニベロスはそれぞれ舌なめずりをすると、お行儀よくチビチビと食べ始めた。ここが外だということを理解しているらしい。


 お利口なミニベロスの頭を撫でて、私はタクさんに頭を下げた。 


「お気遣いありがとうございます」


「いえいえ。今日は他にお客さんもいないし、来てくれたのが嬉しくて」  


 タクさんは、青い皿をカウンターから持ってきてくれた。その皿にはまん丸で黄金色の揚げ物が乗っている。私にはそれが、黄金の宝物に見えた。 


「こっちのミルク貝のフライはサービスです。ぜひ食べてください!」


「えっ、サービス!? ダメですよそんな! ちゃんとお代は払います」


 ビョルンさんの奢りだけど、という言葉は飲み込んだ。

 しかしタクさんは首を横に振って、こちらの申し出をやんわりと辞退した。 


「余っていても腐らせちゃうだけだし、食べて貰えるとありがたいんです。それに、これならビョルンさんも食べられるかなと思って」


「ありがとうございます、タクさん」


 まん丸のミルク貝フライには黄色のタルタルソースが掛かっている。タルタルソースの原材料はマヨネーズだったような。


「あっ、気付いちゃった? そう、クックホッパーの卵を浄化魔法で生食できるようにして、ソースにしてみたんですよ」


「浄化魔法……! なるほど、その手があるんですね!」


 私は期待を込めた目でビョルンさんを見上げた。しかし彼はキッパリと拒否の意を示す。なんという無慈悲。


「やらないからな」


「えー、ケチ。ビョルンさんなら出来るでしょ?」


「魔法を便利道具のように使うな。それに浄化魔法は僧侶の専門だ。魔術師の仕事ではない」


「ケチ、ケチんぼエルフ」


 私が頬を膨らませてみせるが、ビョルンさんは無視して味噌汁に口をつけた。ビョルンさんにとって未知の食べ物のはずだけど、タクさんの人柄を信頼して料理に手をつけることにしたのだろう。 


 タクさんはそんな私たちの様子に満足したようで、またパタパタと調理場へと戻って行った。その後ろ姿を見送って、私はようやく箸を持つ。 


「では、いただきます!!」


 夢にまで見た日本食に涙が出そうだ。


 私はミルク貝のフライにたっぷりのタルタルソースをつけて、そして大きな一口で齧った。


 カリッとした食感、ジュワッと広がる油の甘み、そして鼻に抜けるミルク貝の磯臭さ! そしてクリーミーで濃厚な自家製タルタルソース! 日本の牡蠣フライさながらの味に、涙が滲む。


  全てが完璧な日本食で、私は思わず机に突っ伏した。


「る、ルナ!? おい、まさか、やはり寄生虫がいたのか……!?」


「いいえ、ビョルンさん。お腹は無事です。でもこれ……ほんっとうに美味しくて!!」


 あまりにも美味しくて、これは是非ともビョルンさんにも食べてほしい。この素晴らしさを共有したい。


「未知の食材に抵抗があるのは仕方がないと思うんです。でもこの美味しいものを、共有できたら嬉しいなって」


 私は箸で牡蠣フライを摘んで、ビョルンさんに差し出す。そう、所謂『あーん』の状態だが、今は全く気にならない。


「どう、ですか?」


 断られることを前提に、一抹の期待を胸に箸を差し出す。


「……いただき、ます」


 私の予想に反して、ビョルンさんは意を決したように言うと、私が差し出した牡蠣フライを口に含んだ。そして、うっと呻いた。


「やっぱりダメでした?」


「……いや。磯と海水の味がする」


 ビョルンさんは口を抑えたまま静かに横に振る。


「たしかに寄生虫もいない。それに……」


「それに?」


「予想していたよりは……悪く、ない」


 ビョルンさんなりの褒め言葉に、私は破顔した。


「でしょう!」


 美味しいものを共有できたこと、そしてビョルンさんが見せてくれた歩み寄りの姿勢が何よりも嬉しかった。


 私はご機嫌なまま、今度は味噌汁の椀に手を伸ばした。ワカメとネギのシンプルな味噌汁だけど、お出汁の香りがふわっと鼻をくすぐる。一口飲み下すと、味噌の塩味と出汁の風味が合わさって、身体の芯から温まるようだった。ほうっと暖かい息を吐いた私を見て、ビョルンさんはほんの少しだけ目尻を下げた。 


「このお味噌汁、お出汁が効いてすっごく美味しいですね」


「オダシ?」


「私の故郷では、昆布やお魚を煮出して旨み成分を抽出したものをそう呼ぶんですよ。お魚の風味がするでしょ?」


「ポーションみたいなものか」


「あ、それ使えるかも。お出汁ポーション。でもちょぅとネーミングが微妙か……何かいいアイディアありません?」


「お前の得意分野だろう、それは」


 ビョルンさんは、私の商魂逞しい姿に呆れたように肩をすくめたけれど、その声に冷たさは感じない。出会った頃であれば氷のような声が返ってきただろうが、彼の態度も随分と軟化したものだ。私は少し嬉しくなって、今度はお刺身に手をつけた。


「うぅん……! こっちの赤身も、臭みもなくて、でもギュッと旨みが詰まってて……!」


「つまり?」


「最高ですっ!」 


 くふくふ、ふふふ、と笑みが抑えられない。だって久方ぶりの好物。しかも他人の奢り。美味しくないわけがないのだ。


「ビョルンさん、ありがとうございます」


 私のわがままを聞いてくれたビョルンさんに、丁寧に頭を下げる。急に告げられた感謝の言葉に、ビョルンさんは少し驚いたように耳をあげた。しかしすぐに平静を取り戻して、肩を竦めた。


「お前は放っておくと、なにをするかわからん」


「さすがにこっちの世界で、生魚を捌くつもりはありませんよ。どんだけ食いしん坊と思ってるんですか?」


 その問いかけに、ビョルンさんはわざとらしく驚いてみせる。


「違ったのか」


「もう、いじわる!」


 私は意地悪なエルフを見上げて、そして気が抜けたみたいに笑った。なんだかこれまでで一番、ビョルンさんに近づけた気がする。気の所為かもしれないけど、それがどうしようもなく嬉しかった。      

最後まで読んでいただきありがとうございます。

次回も引き続きよろしくお願いいたします

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※次回第127話『異世界恋愛事情』更新は4月11日18時です

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やっと最新話まで追いつくことができました! 日常譚は食事のシーンも豊富で、読んでいてお腹が空きますね。 気になったのですが、以前、巨大ナマズのアクアパッツァを作った際に、ルナが「この世界に醤油はなく…
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