125_望郷の同志
第125話です。
同じ地元出身の人に会うと、ちょっと親近感が湧くこと……ありませんか?
「……」
何か言いたげなビョルンさんは、じっと私を見つめてくる。こういう時は素直に聞いてあげるのが、ビジネスパートナーとしての役目でもあるだろう。
「どうかしました?」
「本気で生魚を食う気か」
「もちろん。グリオンさんも大丈夫って仰ってたでしょ」
「あのハーフリングが信用出来るとはいえ……」
魚の生食はこの世界ではマイナーなのだろう。私も『今から虫を焼肉にして食うぞ』なんて言われたら同じ顔をするかもしれない。それでもこうして付き合ってくれるのは、ビョルンさんの人の良さ故だろう。
「抵抗があるのは理解しています。けど、どうか今だけは見逃してください! もうワガママ言わないから!」
私が駄々をこねる子供のように頭を下げると、ビョルンさんは腕を組んで呆れたように鼻を鳴らした。
「腹を壊して泣いても知らんぞ」
「責任は自分で取ります。生魚食べて死ぬなら本望!」
「そ、そこまで覚悟を決めることか……?」
ドン引きのビョルンさんだったが、こちらの本気を感じてくれたのかそれ以上何も言わなかった。
すると、私たちの会話を聞いたタクさんが顔を上げた。しかしその間も手は止まらず、鮮やかな手捌きで刺身を切っている。職人気質が現れていて、とても頼もしい。
「お客さんたち。グリオンさんの紹介出来てくれたんですか?」
「はい。ルーンデールでお会いした際に、こちらのお話を伺いまして。生魚が食べられるなんて、珍しいお店なんですね」
「ははは。ここらの方々はみんな、食べたがらないんですけれどね」
「美味しいのに」
残念そうに言うと、タクさんは驚いたように私を見た。その目には一瞬の戸惑いと、わずかな期待が滲んでいる。
「もしかしてお姉さん……日本の方?」
「そう仰る店主さんこそ。このラインナップ、どう見ても日本の方ですよね?」
しばしの沈黙。タクさんは調理場からバタバタと駆け寄ってきて、私の手を強く握った。
「わぁあああ!! こっちに来てから初めて会えたよ、日本人!!」
「やっぱり! 私もお会いできて嬉しいです!!」
ハルの時にはできなかった、同郷同士の握手に私は胸が熱くなった。弾んだ声から、タクさんも心から喜んでくれていることが分かる。
「よかったね、タクちゃん」
「ありがとうミャーコちゃん。ここに来て十年でやっと会えた。この店を開いて、初めて日本人のお客さんが……!」
タクさんは目尻に浮かんだ涙を拭いながら、しみじみと言う。しかし私はその『十年』という年月の長さに驚愕した。
「十年!? そんなに長い間この世界にいるんですか?」
「そうなんですよ。そういうあなたは?」
「私はまだ一ヶ月ほどで……あ、私、星宮瑠奈と言います」
「星宮さん! ご丁寧にどうも。僕は佐藤拓、タクでいいですよ」
ジャパニーズお辞儀というのか、二人してペコペコと頭を下げ合う。こちらの世界では味わうことの出来なかった空気感だ。そんな私たちの様子を、ビョルンさんとミャーコさんは不思議そうに見ている。
「じゃあ、私のこともルナとお呼びください。こちらは私のビジネスパートナーのビョルンさんと、従魔のシロ・クロ・ブチです」
「ワン!」
「……どうも」
ミニベロスは私の声に合わせて鳴き声をあげて、ビョルンさんは控えめに会釈をした。
「ビョルンさん、来てくださってありがとうございます。シロ君、クロ君、ブチ君もありがとう。頭、撫でてもいいかな?」
「噛まないから大丈夫ですよ」
ミニベロスはてちてちとタクさんの元に歩み寄ると、ゴロンとお腹を見せた。その犬っころさながらな姿に笑ってしまう。昨日、闘技場で見た獰猛な獣と同じとは思えない。
「うわぁ〜! モフモフだぁ、かわいい! この子達の分のご飯も用意しますね」
「ありがとうございます」
「なにがいいかな。ツナとかだったら食べられるかな?」
お腹を撫でられたミニベロスも、撫でているタクさんも嬉しそうだ。これぞWin-Winな関係と言えるだろう。
「お料理、楽しみですね。ビョルンさん」
タクさんとミニベロスの姿に和みながらビョルンさんを見ると、彼はほんの少しだけ目尻を下げて、小さく頷いた。
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※次回第126話『「あーん」の効果はいかほどか?』更新は4月10日18時です




