第4話 ナンバープレート(1)
来週月曜日、令太は小学校を終えて、いつものように下校していた。今日は塾がない。そのまま家に帰る。家に帰ったら、また勉強をしないと。誰にも言えないけれど、私立中学校を目指すためにも、勉強をしないと。
お化けに変身できるようになってから、令太はまだ気になっている事がある。お化けの力の中には、姿を消した他のお化けが見えるというのがある。本当に見えるんだろうか? この辺りにお化けがいそうな場所って、どこだろう。もし見つけたら、本当に見えるのか、そこに行って、試してみたいな。きっと、新しい世界が見えるかもしれないから。
ふと、令太は立ち止まった。横に葬儀会館が見える。葬儀会館では、葬儀が行われている。それを見て、令太は気になった。葬儀会館には、死んだ人のお化けがいるんじゃないのかな? もしいたら、見てみたいな。
「どないしたん、お葬式屋さん見て」
一緒に帰っている文也の声で、令太は我に返った。文也は思った。どうして葬儀会館を見ているんだろうか? そんなに葬儀会館が気になるのかな? 暗いイメージしかないけれど。
「いや、何もあらへん」
令太は何も思っていないかのように、その横を歩き出した。その様子を、文也は変に思っていた。何か、秘密でもあるんだろうか?
2人はいつものように家に帰ってきた。今日も1階ではへんげ屋が営業している。だが、この時間帯は客がまばらだ。夕方ごろになると、また多くの人々がやってくるだろう。この時間帯は、末子も鶴子も達郎も2階にいるだろう。
「ただいまー」
「おかえりー」
その声とともに、鶴子がやって来た。鶴子はエプロンを付けている。夕食を作っているようだ。いいにおいがする。今日の夕食は何だろう。わからないな。
2人は3階のそれぞれの部屋に向かい、荷物を置いてきた。ちょっとゆっくりしようと思い、すぐに2人は2階のリビングに向かった。
2人はリビングにやって来た。リビングでは、末子と達郎がワイドショーを見ている。どうしたんだろう。2人とも真剣に見ている。
「おばちゃん、どないしたん?」
「ひき逃げ死亡事故が証拠不十分で不起訴になったんやて」
それを聞いて、2人は驚いた。こんな事があるんだな。ひき逃げで死んだ人、かわいそうだな。犯人が見つからないまま、捜査がお蔵入りになるなんて。
「遺族がかわいそうやわ。犯人が捕まらんなんて」
達郎もかわいそうだと思っている。もし自分がやったら、絶対に知らせるだろう。そして、大好きな愛車を失うだろう。交通事故はやってはいけない事だ。達郎は、改めて交通安全の大切さを感じた。
「僕もかわいそうやと思うわ」
令太もかわいそうだと思っていた。自分は物心つく前に両親を交通事故で失った。きっと、自分のせいで人が死んだというのを報告したくない気持ちはわかる。だけど、正直に話さないと。隠し続けていれば、それだけのつけが回ってくるのに。どうしてその人は報告しなかったんだろうか? 罪を受けるのが怖いから逃げているんだろうか? 勇気がないな。
「せやろ」
達郎は拳を握り締めていた。その犯人がとても許せないようだ。
その夜、葬儀会館に1匹のお化けがやって来た。令太だ。宿題や勉強を済ませた令太は、夜に葬儀会館にやって来たのだ。ここに行って、お化けって本当に他のお化けが見えるのか確認したい。
「ほんまに見えるんかいな?」
令太は葬儀会館の前に立ち止まっていた。葬儀会館はすでに閉まっていて、中の照明が暗くなっている。警備員しかいないようだ。普通だったら入れないが、いつものように姿を隠せば大丈夫だろう。姿を消しても、お化けにしか見えないだろう。
「行ってみよか」
令太は入り口をすり抜けて、葬儀会館に入った。葬儀会館は静まり返っていた。非常口の明かりがよく見える。これが夜の葬儀会館なのか。初めて見たな。
「静かやな」
とても静かな葬儀会館だ。開いている時は、多くの人々の声が聞こえただろうな。だけど、夜はまるで嘘のような静けさだ。
しばらく歩いていると、1人の女性がいる。その女性は泣いている。肌が白く、下半身がお化けっぽい。それを見て、やっぱり他のお化けが見えるんだと実感した。こんな世界なのか。また1つ、お化けでいる事が楽しくなったな。
「あれっ、君は?」
その声を聞いて、女性は反応した。まさか、私が見えるとは。この子もお化けなのかな?
「うちが見えるん?」
「うん。僕、普通の小学生やけど、お化けに変身できるんや」
普通の小学生がお化けに変身できるとは。すごいな。こんな子、見た事がないな。どうしてそんな能力を身につけたんだろうか? 誰かから授かったんだろうか?
「そうなんや・・・。私、村田洋子。こないだ、ひき逃げで死んだんや」
それを聞いて、令太はびっくりした。ひょっとして、夕方のニュースでやってたあのひき逃げで死んだ女性なのかな?
「あの、夕方のワイドショーでやってたやつ?」
「そう・・・」
洋子はそのワイドショーを見ていた。まさか、これを見ていた小学生がお化けに変身してここにやってくるとは。不起訴になった時は悔しかったな。引いた車のナンバープレートを知っているのに。
「私、その車のナンバープレート知っとるねん」
洋子はその車のナンバープレートを令太に教えた。令太は持っていたメモ帳にそのナンバープレートをメモした。
「ふむふむ・・・。覚えとくわ」
「おおきに」
そろそろ寝る時間だ。帰らないと。令太は葬儀会館を去っていった。今夜はいい体験だったな。お化けが見えるって、こんな感覚なのか。本当に面白いな。今度、墓地にも行ってみようかな? ここにもお化けがいるかもしれないから。
翌朝、令太は何事もなかったかのように目を覚ました。すでに文也と花子は目を覚ましていて、朝食を食べている。今日の朝食は、ごはんとみそ汁と目玉焼きだ。
「おはよう」
「おはよう」
花子は令太の挨拶に反応した。と、令太は達郎が朝から何かを見ているのが気になった。
「おじちゃん、何見とるん?」
達郎は振り向いた。チラッと見ると、達郎の愛車のヴェルファイアをはじめとするいろんな車種のカスタムカーの写真をスマホで見ている。どれもかっこいいな。
「おう。令ちゃん、この車、かっこええと思わん?」
達郎は写真を見せた。その中には、アルファードやヴェルファイアのカスタムカーと、そのオーナーの2ショットもある。どのオーナーも嬉しそうだ。車のカスタマイズを楽しんでいるようだ。それを見ているうちに、令太は思った。自分もこんな車を運転してみたいな。
「うん。いつか運転してみたいわ」
「やろう。かっこええやろ?」
達郎は笑みを浮かべた。カスタムカーの魅力をわかってくれたようだ。それはそれで嬉しいな。達郎は喜んで、次々と写真を見せていく。
「これもかっこええやろ」
と、1枚の2ショットを見て、令太はびっくりした。その写真のアルファードのナンバープレートの番号が、ひき逃げをした車の番号と一緒だ。この人がひき逃げをしたんだな。許せないな。
「えっ!?」
突然、令太の表情が変わった。達郎はそれが気になった。この写真がどうして気になったんだろうか?
「ど、どないしたん?」
「こ、これ、誰の車なんやろ思うて」
達郎はその車の事を知っていた。度々カスタムカー関連のイベントに姿を見せている人だ。その人の事は、名前を知っている。というより、その界隈ではない人も知ってる人が多い。
「ああこれ? 大阪市の市議会議員の、桜沢悠斗さんのアルファード」
大阪市の市議会議員だと!? こんなすごい人がこんな事をやってしまったのか。もしばれたら、とんでもない事になるな。これは大スクープだろうな。でも、どうしてそれが不起訴になったんだろうか? 証拠を全く残してなかったからだろうか?
「へぇ・・・」
達郎は思った。そんなに気になるのは、どうしてだろう。何か、令太は知っているんだろうか?
「それがどないしたん?」
「あんなすごい人がこんな車乗っとるさかい」
確かにそうだ。この人は大阪の市議会議員だ。こんなすごい人が、カスタムカーに乗っていて、カスタムカー関連のイベントに姿を見せているのだ。言われてみれば納得だな。




