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第15話 正平のお父さん(1)

 明日から夏休みだ。そう思いつつ、令太と文也、花子は嬉しそうに小学校に向かっていった。今日も朝から暑い日が続いているが、明日から夏休みだと思うと、とても嬉しくなる。そして、暑さなんてどうでもよくなる。だけど、朝から汗をかいていて、暑そうだ。


「おはよう」

「おはよう」


 3人は通学団の集合場所にやって来た。今日学校に行けば長い夏休みだ。今年の予定は全く考えていない。宿題を終えてから、夏の終わりにどこかに行こうと考えている。だが、店があるので家族はあまり行こうとしない。だけど、だからこそ家で楽しみたいな。


「明日から夏休みやね」

「おう」


 元子も優も上機嫌だ。元子は長野に、優は名古屋に行こうと思っているそうだ。2人とも楽しんできてほしいな。


「夏休みはどうする?」

「あんまり予定ない」


 聞いた元子は残念がった。あまり予定がないのか。まぁ、実家が飲食店で、休みがあまりとれないんだろうな。仕方がないな。


「そっか・・・」

「僕は東京に行くんや!」


 大きな声で喜んでいるのは、河合正平かわいしょうへいだ。正平は東京に行くというのを、以前から言っている。みんな羨ましがっている。


「ふーん・・・」


 だが、正平はすぐに落ち込んだ。何かあるんだろうか? 令太は正平の表情が気になった。


「成績がよかったらなぁ・・・」


 正平は成績を気にしていた。成績次第では、旅行に行けない事がよくあるからだ。もし、令太のように成績がよければそんな事にはならないのに。


 小学校に出発する時間になった。優は先頭に立った。


「みんな行くよー!」


 通学団は小学校に向かって出発した。




 そして、通信簿を渡す時が来た。みんな緊張している。だが、令太は普通だ。成績優秀な令太には、あまり気にならない。成績が悪くて、怒られた事がないからだ。


 中川先生が教室に入ってきた。みんな緊張している。中川先生は通信簿が入った箱を持っている。学級会長も務めている優が号令をかけた。


「じゃあ、通信簿渡すぞ!」


 次々と通信簿が渡されていく。みんな、緊張している。そして、通信簿の中身を見て、喜怒哀楽の表情を見せている。


「河合正平」

「はい・・・」


 正平は立ち上がった。正平は緊張している。もし成績がよくなければ、東京行きがキャンセルになるからだ。どうか、成績が良くあってくれ。正平は中川先生の前に立った。


「もっと頑張れよ!」


 中川先生は正平に通信簿を渡した。令太は表情を見て、成績が悪かったのかなと思った。


「はい・・・」


 正平は下を向いている。これはまた母、由紀奈ゆきなに怒られるだろうな。だが、令太は全く笑っていない。無表情だ。それで平吉が何度も注意しに来るからだ。その様子を、令太は厨房の奥からこっそり聞いていた。だが、正平はそれを知らない。


 その後も次々と渡していく。そして、令太の番になった。


「三浦令太」

「はい!」


 令太は立ち上がった。令太は真剣な表情だ。令太は中川先生の前に立った。


「三浦はよぉ頑張っとるな! 5ばっかやぞ!」


 それを聞いて、令太は笑みを浮かべた。今回も優秀だった。また家族に褒められるだろうな。


「ありがとうございます」

「すごいなー」


 みんな、成績優秀な令太に驚いていた。だが、令太は普通だと思っているようで、無表情だ。いつもこんな反応をしているから、全く気にならないようだ。


「ほんとほんと!」

「おおきに」


 令太は少し笑みを浮かべた。また褒められた。それだけで嬉しい。また頑張っちゃおうかなという気持ちになる。




 帰り道、令太は花子の他に、正平と一緒に歩いていた。文也はサッカー部の練習があって、帰るのが少し遅くなるという。


「あー夏休みか・・・」


 正平は夏休みを気にしていた。東京に行くらしいが、本当にこの成績で行けるんだろうか? 由紀奈は厳しい。旅行に行けない事が多いと聞いている。今回は旅行に行けるか不安なようだ。


「どないしたん?」

「いや、何もないて・・・」


 だが、正平は言おうとしない。どうして悩んでいるのか、令太にはわかっているのに。


「そう・・・」


 正平はへんげ屋の隣にある自宅に向かっていった。2人はその様子をじっと見ている。正平は大丈夫だろうか? 不安でしょうがない。


 2人は階段を上がって2階の玄関に向かった。


「ただいまー」


 その声を聞いて、鶴子がやって来た。おそらく、通信簿が見たいんだろうな。


「おかえりー。通信簿、見して!」

「はい」


 2人は通信簿を見せた。令太は自信満々だが、花子は少し不安そうな表情だ。


「令ちゃんは本当にすごいわ! 5ばっかりや! 花ちゃんはもうちょっと頑張ろうね」

「はい・・・」


 花子は下を向いた。いつもの事だ。令太は全く気にしていない。2人は靴を脱いで、手を洗い、3階に向かった。


「令太兄ちゃんにはかないまへんな・・・」


 花子は苦笑いをしている。令太は優秀で、成績はかなわないと思っている。


「おう、帰ってきたんかいな」


 鶴子は振り向いた。そこには平吉がいる。平吉も2人の通信簿が気になるようだ。




 昼下がりの事だ。隣の河合さん家が騒がしい、何かあったんだろうか? ランチタイムがまだまだ続いていて、騒がしい時間帯だが、それでも聞こえる。何事だろう。家族も店員も気にしている。


「ん? なんか騒がしないか?」


 最初に気になったのは、平吉だ。その声を聞いて、平吉は由紀奈だと思った。また正平を叱っているんだろうか? もうやめなさいと言っているのに。


「ほんまやね」


 末子も不安になった。また正平が怒られているんだろうか?


「なんやろ。達郎、見てきて!」

「おう」


 達郎は店を飛び出し、河合さん家に向かった。終業式で通信簿を渡されると、だいたいこんな事が起こっている。そのたびに、家族が注意をしている。また通信簿で叱っているんだろうな。


「ここか・・・」


 達郎は河合さん家の前にやって来た。その声を外まで響いている。そして、その周りには何人かの主婦が来ている。その声が外まで響いて、みんな気になっているようだ。


 気にしているのは、平吉や達郎だけではなかった。花子も気にしていた。また正平が怒られているんだろう。これは平吉や達郎に注意されるだろうな。


「令太兄ちゃん、隣の河合さん家、騒がしない?」

「騒がしい」


 令太も気にしていた。気になってしょうがない。勉強に集中できない。


「令太兄ちゃん、姿を消して見てきて」


 花子は考えた。お化けは姿を消す事ができる。だから、姿を消して様子を見てきてほしい。どうせ、また怒られていると予想しているが。


「わかった!」


 令太は姿を消して、壁をすり抜けて、河合さん家に向かった。


 河合さん家の座敷には、由紀奈と正平がいる。2人とも正座をしている。正平はしびれていたそうだが、由紀奈は厳しい表情をしていて、正座をやめさせないような表情だ。


 2人は知らなかった。その座敷の中には、2人以外にもう1人いるという事を。そう、姿を消した令太だ。令太は騒がしい河合さん家が気になって、姿を消してここにやって来たようだ。


「正平、何やねんこの成績!」

「ごめんなさい・・・」


 正平は謝ったが、由紀奈はそれでも怒っている。


「いっつもこんな成績で恥ずかしくないの? 東京の旅行はなしよ!」


 結局、東京旅行はなしになってしまった。いつもの事だ。正平は泣きそうだ。多くの子供たちが旅行に行っているのに、自分は行けない。すごくつらいよ。できる事なら、家出でもして東京に行きたいよ。


「そんな・・・」

「お昼ごはんも晩ごはんも抜きよ!」

「はい・・・」


 結局、昼食も夕食も抜きになってしまった。正平は涙を流した。だが、由紀奈は全く気にせず、厳しい表情だ。


「ひどいなぁ・・・」


 やはり怒られていたのか。達郎はへんげ屋に戻っていった。平吉に報告しないと。そして、注意しないと。


 その頃、平吉はお好み焼きを作っていた。そんな中、平吉は気にしていた。河合さん家の騒ぎは何だろう。達郎の報告が気になるな。


 そこに、達郎が入ってきた。それを見て、家族や従業員は達郎の方を向いた。


「父ちゃん」

「どやった?」

「河合さん家の正平くんが怒られとったわ。成績が悪くて、東京旅行がなしになったし、昼めし、晩めし抜きやて」


 それを聞いて、平吉は驚き、拳を握り締めた。またそんな事をやったのか。懲りないな。また叱ってやらないと。これは教育じゃないと、しっかりと言っておかないと。


「ひどいなぁ・・・。わしも何度も注意しとんやけどなぁ・・・」


 平吉は気にしていた。この教育はちょっと行き過ぎているんじゃないかな?


「ちょっと言ってくるわ」

「おう」


 平吉は店を飛び出し、河合さん家に向かった。




 花子は勉強をしていた。夏休みの宿題がたくさんある。遊んでばかりではいられない。大変な時には令太の力を借りて頑張ろうと思っている。


「花ちゃん、戻ってきたで」


 花子は顔を上げた。令太は花子の部屋にやって来た。今さっき、河合さん家に入り、様子を見てきた。やはり正平が怒られていたようだ。花子の部屋に戻る途中、家の前にいる達郎を見かけたので、程なくして平吉がやって来て、由紀奈を注意するだろうな。


「どうやった?」


 令太は心配そうな表情だ。正平が怒られていたんだろうか? 花子には見当がついていた。度々達郎や平吉に怒られているからだ。


「やっぱり怒られとったわ」


 花子はため息をついた。全く反省しないな。どうしたら反省するんだろうか? もう絶対反省しない気でいるんだろうか?


 反省しない由紀奈を見て、令太は考えた。こんなにも反省しないのなら、悪夢を見せようかな? そうすれば、少しは反省するんじゃないかな?


「うーん・・・」

「どないしたん?」


 花子は令太の表情が気になった。何を考えているんだろうか?


「悪夢、見せたろか思うて」


 悪夢か。そういえばお化けの能力には寝ている人の夢を操る力があって、悪夢を見せる事もできるという。これはいい考えだな。


「ええね! かっこいい令太兄ちゃん、ウチのお化け!」


 花子はお化けの姿の令太に抱きついた。誰かのために頑張る令太が好きだ。自分も憧れる。


「誰かのためなら、頑張らんと」


 令太は自分の部屋に戻っていった。夏休みはもう始まっている。宿題を進めていかないと。

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