第14話 愛車で集会(2)
夜になって、令太は達郎のヴェルファイアの元に戻ってきた。すると、達郎があわただしくなっている。どうやらソース焼きそばを作るようだ。そろそろお腹が空いてくる頃だから、作ろうと思っているようだ。
「どないしたん?」
「焼きそば作るんや」
これが界隈が楽しみにしているソース焼きそばなのか。時々食べているが、まさかここで食べるとは。すでに、界隈の人がその様子を見ている。ソース焼きそばが楽しみなようだ。
「やっぱり今回も作るんやね」
界隈の人はみんな、知っているようで、集まってきた。令太は見慣れているので、あんまり注目していないが。
「材料、店から持ってきたで」
達郎は材料を取り出した。令太はその様子を見ている。
「さて、作るで」
油を引き、まずは野菜を炒め始めた。その音を聞いて、より一層の人がやって来た。その中には、一般客もいるが、参加者以外は食べられないので、見るだけだ。
「おっ、作り始めたんだ」
「馬場さんの作るソース焼きそば、すごくおいしいで」
令太は横を向いた。そこには栄吉がいる。よく見ると、栄吉の横には子供たちがいる。栄吉の子供たちだろうか? みんなとても楽しそうだ。
「けっこう知られてるんだね」
「うん」
麺を炒めて、ソースをかけると、いい香りが広がる。その匂いにつられて、多くの人がやって来た。みんな、ソース焼きそばを見ている。そろそろできるころだ。楽しみだな。
「さぁ、できた!」
「おいしそう!」
達郎は使い捨ての焼きそば容器を取り出し、盛り付けた。その前には、青のり、紅しょうが、花かつおがある。お好みでかけるようだ。
「青のり、しょうが、花かつおは自由に取ってくださいね」
界隈の人はみんな、食べ始めた。とてもおいしい。やっぱ専門店の次の店主候補の味は本物だ。
「やっぱうまい!」
「ほんまや!」
と、達郎は令太にも盛りつけた。令太にも食べてほしいようだ。
「令ちゃんも食べるか?」
「うん!いただきまーす!」
令太もソース焼きそばを食べ始めた。いつもよりおいしい。どうしてだろうか? みんなと一緒だからだろうか?
「うまい!」
「そっか。今日は余計に力が入っとるで」
達郎は拳を見せた。そして、笑みを浮かべている。おいしいと言われると、とてもやる気が出てくる。
「アハハ・・・」
「馬場さんの焼きそば、うまいやろ?」
界隈のみんなは、その味を堪能していた。その中の1人、石上修二郎も喜んでいる。
「うん」
と、令太は電飾が光っているアルファードを見つけた。これはきれいだな。どうやったらこんな事ができるんだろうか? とても魅力的だな。
「あっ、光っとる!」
「すごいっしょ!」
笑みを浮かべているのは、修二郎だ。どうやらこれは修二郎の車のようだ。これを街中で走らせたら、みんなびっくりするだろうな。
「これもかっこええな!」
「そうだろ?」
と、そこに栄吉がやって来た。どうしたんだろうか?
「令太くん、あんまり興味なかったみたいだけど、どう?」
「なかなか面白いもんやな」
栄吉は喜んだ。どうやら、令太もカスタムカーの魅力がわかったようだ。これでまた1人、界隈が増えそうで嬉しいな。
「そうだろう」
「今日は来てよかったと思うか?」
「うん」
令太は今日1日、楽しい日々を送った。カスタムカーの集会も、カスタムカーもいいもんだな。自分も運転免許を取ったら、こんな風にカスタマイズして、ミーティングに参加してみたいな。
その夜、令太は達郎と一緒に車中泊をしていた。持ってきた寝袋にくるまっている。だが、顔を見せている。達郎が横にいる。もし、顔を隠したら、お化けに変身してしまうかもしれない。気をつけないと。
「はぁ・・・」
令太は達郎の方を向いた。達郎は寝ている。きっと、今日1日楽しんだ夢を見ているんだろうか? とても心地よさそうだ。それを見て、令太は思った。ちょっとこの辺りを飛んでみよう。この辺りにも姿を消した他のお化けがいるかもしれないと思ったからだ。
「ちょっと行ってみるか・・・」
令太は寝袋を完全に締め、お化けに変身した。そして、外に出た。山間の広い駐車場だ。今さっきの騒然とした雰囲気がまるで嘘のようだ。虫の声が聞こえる。大阪とはかけ離れた、自然の営みだ。
「こんな自然いっぱいのもええなー」
令太は辺りを散歩していた。車はみんな、ライトや電飾を消している。みんな、今日はここで車中泊をするようだ。みんな、今日の楽しい夢を見ているんだろうか?
と、令太は修二郎の車にお化けがいるのを見つけた。そのお化けは、少年の姿だ。若くして亡くなった子供のお化けだろうか?
「あれっ!?」
お化けはその声に反応した。だが、寝ている修二郎は全く気付かない。令太の声も聞こえないようだ。
「み、見えるの?」
男の子はちょっと戸惑っている。まさか、お化けに話しかけられるとは。
「うん。君、誰?」
「石上柊太。3年ぐらい前に亡くなったんだ」
修二郎には息子がいたのか。この子は若くして亡くなったんだな。どんな子だったんだろうか?
「そうなんだ・・・」
柊太は気になった。どうして僕が見えるんだろう。修二郎には全く見えないのに。
「お化けの兄ちゃん、どうして僕が見えるの?」
「お化けやから。でも僕、普通の人間で、お化けに変身できる力を持ってるだけやけどな」
それを聞いて、柊太は驚いた。こんな事ができる人間がいるんだな。でも、いいお化けだな。
「そうなんだ・・・」
ふと、令太は思った。この子は修二郎の車が好きなんだろうか? 3年前に亡くなったけれど、今でもここにいるという事は、よほど好きなのかな?
「車、好きなの?」
「うん。大好きだった・・・。だから死んでもずっとここにいるの」
そっか。この車が好きだったのか。だから、死んでもここにいるのか。
「ふーん・・・」
そろそろまた寝ないと。令太はミーティングで会えたら、また会いたいなと思った。
「もう寝やんと。おやすみ」
「おやすみ」
令太は去っていった。柊太はその様子をじっと見ている。
そして、夜が明けた。カスタムカーは続々と帰っている。昨日の騒然とした雰囲気がまるで嘘のように静まり返っている。
「おはよう」
「おはよう」
令太が起きた時、すでに達郎は起きていて、運転席にいる。令太は慌てて席に座り、シートベルトを締めた。
「じゃあ、帰るで」
「おう」
達郎は駐車場を後にした。界隈の人に会えて、とても満足だ。また会いたいな。
「おじちゃん」
「どないしたん?」
令太は思った。修二郎には柊太という子供がいたんだな。達郎はその子の事を知っているんだろうか?
「石上さんには、子供がおったん?」
「ああ、知っとるで。心臓病で6歳で亡くなった柊太くんやろ。この界隈では有名な話や」
それを聞いて、令太は驚いた。心臓病だったのか。テレビ番組で、そういう子が海外で手術を受けるニュースやドキュメンタリーを見た事がある。それがかなわずに、亡くなるニュースやドキュメンタリーを見た事がある。まさか、この界隈の親戚にもそんな子がいたとは。
「そうなんや」
令太は修二郎の家族写真を見た。そこにはベビーカーに乗った赤ん坊がいる。それが柊太だ。写真を見ている令太を見て、達郎は少し暗い表情になった。それぐらい、つらい思い出なんだろう。
「この写真の子が石上柊太くん。柊太くんは生まれつき心臓が悪かったんや。で、アメリカで移植手術を受けなければならなかったんや。この界隈を中心に、募金活動を行ったんや。ようやくお金が集まって、これからさぁ行こうと思った矢先に、柊太くん亡くなってな。葬式の時には、界隈の人がみんな来てな、出棺の時、霊柩車の後ろをカスタムカーがパレードのように走っとったんや。この子、パパのカスタムカーが好きで、大きくなったら乗りたいと思っとったらしいで」
達郎は今でも葬儀の事を覚えている。葬儀にはカスタムカーの界隈の人が多く集まっていた。みんなスーツを着ていたが、多くのカスタムカーが集まって、まるでカスタムカーのミーティングのようだったという。そして出棺の時、クラクションの音に続いて、カスタムカーのエグゾースト音が一斉に鳴り響き、霊柩車の後をパレードのように走っていたという。大好きだったカスタムカーで柊太を送ろうと思った彼らのサプライズだった。
「すごいなぁ・・・」
葬儀でこんなのが見られるとは。好きだったカスタムカーに見送られて、柊太は幸せだっただろうな。でも、カスタムカーを運転できなくて、大人になれなくて、とてもつらかっただろうな。
「今もその思い出話をこの界隈でしとるんやで」
「そうなんや・・・」
令太は思った。今、こうして健康でいられる事が、どんなに幸せなのか、かみしめて生きていかないと。




