第13話 冷たいのがお好き?(2)
令太は部屋に入ると、ランドセルを置いた。いつものようにベッドにくるまり、お化けに変身した。令太はじっとしていた。まさか、花子が熱を出すとは。
「はぁ・・・」
令太は不安だった。風邪に感染していないか不安だ。
「そうだ!」
ふと、令太は思った。このお化けの低い体温を使えば、ある事ができるんじゃないかな?
花子はベッドに仰向けになっていた。今日は大変だった。まさか、熱を出して早退するとは。申し訳ない気持ちだ。それに、同級生に風邪をうつしてないか心配だ。もしうつしていたら大変だ。いろいろ言われるだろうな。
「あれっ、ひんやり・・・」
突然、花子は冷気を感じた。熱さまシートをしているが、それ以上に冷気を感じる。何だろうか? 全くわからない。
「何やろ・・・」
ふと、花子は思った。もしかして、令太だろうか? お化けは体温が通常より冷たい。お化けに変身した令太がここにいて、頭に触れているんだろうか?
「まさか、令太兄ちゃん?」
花子の声に、令太は反応して、姿を現した。令太はマスクを付けている。令太の姿を見て、花子は笑顔になった。何度見ても、お化けの姿の令太はかわいい。まさか、お化けの力で熱を冷ましてくれるとは。
「うん・・・」
花子は目を閉じた。本当に気持ちいい。そして、かわいい。まるで夢心地だ。
「気持ちええ・・・」
「せやろ?」
令太は笑みを浮かべた。かわいいと言ってくれるだけで、とても嬉しいな。もっと頑張っちゃおうかなと思えてくる。
「おおきに令太兄ちゃん、やっぱウチのお化けや」
花子の言葉に、また令太は嬉しくなった。また『ウチのお化け』と言ってくれた。
「早く良くなるんやで」
「うん・・・」
と、階段を歩く音が聞こえる。鶴子がやってくるようだ。戻らないと。お化けの姿を見られたら大変だし、見えないのに冷気を感じたら大騒ぎだ。
「あっ、おばちゃん来そう。ごめん、戻るね」
「うん」
令太は姿を消して、自分の部屋に戻っていった。大成功だ。お化けの体温の低さを使えば、こんな事ができるんだな。また1ついいアイデアを思い付いたな。
それから数日後、花子は元気になった。風邪はすぐに治り、元気に学校に通っていた。まるで風邪で寝込んでいたのがまるで嘘のようだ。熱さまシートを額に付けて、医者からもらった薬を飲んだからだが、他にも理由がある。令太がつきっきりで付き添っていたからだ。もちろんお化けの姿でだ。お化けの体温の冷たさで熱を冷ましていた。だが、それは令太と花子以外知らない。
7月になり、梅雨が明け、毎日暑い日々が続いていた。サッカー部に入っている文也は熱中症対策として大きな水筒を持っている。令太も花子も文也ほどではないが大きな水筒を持ち歩いている。みんな、夏の暑さにタジタジになっていた。早く夏が終わってくれないかと思うぐらいだ。だが、夏休みという大きな休みがあるので、終わらないでくれという思いもある。ここ最近は半ドンで終わる事も多くなっている。夏が近づいている証拠だ。
ある夜の事だ。いつものように3人は自分たちの部屋で過ごしていた。冷房をつけるのはまだ早いと思っていて、つけていないものの、とても暑い。
「今日もあっついわ・・・」
「熱帯夜で大変やよ」
令太の部屋には、文也がいた。文也は宿題を教えてもらっていた。令太は人間の姿をしている。文也にはお化けの姿を見せたくないからだ。文也は熱帯夜で苦しんでいた。毎晩毎晩、冷房を切って寝るのは大変だ。だからと言ってつけまま寝ると寝冷えして風邪を引いてしまう。花子が風邪を引いたばかりだ。また風邪になったら申し訳ない気持ちでいっぱいになるだろう。
「ほんまほんま・・・。令ちゃんも大変やろ?」
「おう」
だが、令太はそんなに大変じゃない。花子といる時以外はお化けの姿でいるからだ。お化けの体温の低さを使えば、熱帯夜なんて全く気にならない。
文也は部屋を出ていった。それを見て、令太は布団にくるまり、お化けに変身した。
「何が大変や・・・。僕にはこの姿があるんや・・・」
令太はお化けの姿で再び勉強を始めた。外を見ると、両親がいる。まさか、両親が勉強しているのを見に来たとは。頑張っている令太を応援しに来たのかな?
「ひんやり・・・ 気持ちええ・・・」
と、誰かがノックした。誰だろう。花子だったらいいけど。このままでいられるから。
「ん?」
「花子です」
花子のようだ。このままの姿でも大丈夫だ。
「ああ。入って」
花子は令太の部屋に入った。そこにはお化けの姿の令太がいる。だが、花子は令太のお化けの姿を知っているので、全く驚かない。というより、笑みを浮かべた。花子はお化けの姿の令太がかわいいと思っているからだ。
「あっ、この姿なんやね」
令太は少し笑みを浮かべた。やっぱりこの姿が好きだ。花子から可愛がられるから。
「おう。ひんやりしてるもん」
「せやね」
花子は令太に抱きついた。プニプニしていて、ひんやりしている。
「やっぱりかわいい!」
「おおきに」
花子はノートを持っている。教えてほしい所があるようだ。ならば、助けないと。
「ここ教えて!」
「ええよ」
花子はわからない部分を見せた。それを見て、令太はすいすいと説いていく。これが優等生である令太の実力だ。花子は驚いていた。これが令太の実力なんだな。まるで化け物のような頭の良さだ。本物の化け物に変身できるんだけどな。
「やっぱ令太兄ちゃんすごい! ありがとう!」
だが、令太は厳しい表情だ。これを自分で解けるようにならないといけないと思っているようだ。
「自分で解けるようにならんといかんよ」
花子は少し下を出した。照れているようだ。また令太に手伝ってもらった。自分の力で解けないといけないのにな。
「うん! 大好き令太兄ちゃん。ひんやり!」
花子はまた令太を抱きしめた。やっぱりひんやりしてる。
「もう時間だから、寝るわ。おやすみ」
「おやすみ」
花子は自分の部屋に戻っていった。令太は時計を見た。そろそろ寝る時間だ。電気を消して、寝ないと。明日も学校だ。
「僕も寝ないとな・・・」
令太は机の電気スタンドを消して、部屋の電気も消して、寝入った。
その頃、文也は眠っていた。だが、文也は熱帯夜にうなされいていた。今日も暑い。この暑さ、何とかならないのかな?
「うーん・・・。うーん・・・」
結局、文也は起きてしまった。明日も学校があって、サッカー部の練習もあるから、ぐっすり寝ないといけないのに。
「あっつ・・・。熱帯夜ヤバい・・・」
文也は再び寝入った。それから程なくして、冷気を感じた。何だろう。こんなにひんやりとするなんて、この近くに何かいるのかな?
「あれっ、ひんやり・・・」
と、文也はお化けを思い浮かべた。まさか、お化けが寄り添っているから、冷気を感じるのかな?
「えっ・・・、お化け? いや、そんなわけあらへん・・・。お化けなんておらへんからな」
文也は震えていた。まさか、この近くにお化けがいるのかな? だったら、この部屋から逃げたいな。だけど、寝ないと。
文也は知らなかった。お化けの姿の令太がいるのを。
熱帯夜で苦しんでいるのは、花子だけではなかった。花子も苦しんでいた。花子は思っていた。もし、令太が添い寝してくれたら、ひんやりして気持ちいいのにな。
突然、冷気を感じた。まさか、令太が添い寝しているのかな? だったら嬉しいな。だって、かわいいから。
「あっ、ひんやり・・・。令太兄ちゃんかな?」
その声を聞いて、令太は姿を現した。やっぱり令太だった。花子は笑みを浮かべながら、再び寝入った。
翌朝、文也は震えていた。明らかにいつもの文也の表情ではない。何かにおびえているようだ。鶴子はその表情が気になった。どうしてそんなにおびえているんだろうか? まさか、悪い夢を見たんだろうか?
「おはよう」
「おはよう」
令太と花子は何事もなかったかのような表情で、朝食を食べている。令太と花子はいつもの朝だ。
「文ちゃん、どないしたん?」
「なんか、昨日の夜、冷気感じて」
それを聞いて、令太と花子は驚いた。お化けなんて何も知らないかのような表情だ。2人とも、お化けの存在を知っているのに。そのおばけの正体は、令太だと知っているのに。
「えっ!?」
「お化けかなって思ぉて」
それを聞いても、令太は全く反応しない。お化けに変身できることを知られたくないからだ。
「そんなの、おるわけないやん!」
令太は大笑いしている。お化けなんて、この世界にいないだろうというような表情をしていた。自分自身、お化けに変身できるというのに。
「そうそう!」
「じゃあ、なんで花ちゃん気にしとらへんの?」
鶴子は気になった。どうして花子はお化けを怖がらないんだろうか? まさか、お化けが全く怖くないんだろうか?
「お化けが大好きだから。かわいいから」
「花ちゃんはほんま、かわええのが好きやな」
鶴子は少し笑った。やっぱり花子はかわいいのが好きだな。だって、部屋にはたくさんのぬいぐるみがあって、その中にはお化けのぬいぐるみがあるんだから。




