第12話 宿題のお手伝い(1)
ある日の午後3時の事だ。帰りの会を終えて、令太は帰ろうとしていた。だが、同級生の杉本悠馬は帰ろうとしない。居残り勉強があるのだ。それに、宿題がとてもある。大変だけど、頑張らないと。令太はそんな悠馬がかわいそうだと思っていた。何とかしたいなと思っていた。だが、手段が見つからない。助けたら、担任の中川先生に怒られる。自分の力で解くように言われているからだ。
「あーあ・・・」
「どないしたん?」
悠馬は顔を上げた。そこには令太がいる。令太は誰もが認める優等生だ。令太はすごいな。こんな優等生になりたいな。その為には、どうすればいいんだろうか?
「宿題大変やわ」
「せやな。どないしよう」
令太は悩んでいた。と、そこに中川先生がやって来た。悠馬に言いたい事があるんだろうか?
「杉本、いくら優等生だからと言って、三浦を頼るんじゃないぞ! 自分の力で解きなさい!」
中川先生は思っていた。いつも令太を頼っている悠馬が腹立たしかった。いくら優等生だからと言って、令太に頼るのはやめなさい。自分の力で解けるようになりなさい。自分の力で解けてこそ、賢くなれるんだぞ。
「はい・・・」
中川先生は去っていった。中川先生は怒っているような表情だ。悠馬の成績がよくないのが気になっているようだ。
「大丈夫?」
「うん・・」
悠馬は元気がなさそうだ。早く居残り勉強を終えて、家に帰りたいな。宿題が残っているから。
「何もできなくて、すまんね」
令太は申し訳ない気持ちでいっぱいだ。助けたいのに、助ける事ができないからだ。もし助けたら、悠馬だけでなく、令太も怒られるだろうから。
「ええよ。自分の力で解いてこそ意味があるもん」
悠馬は素直だ。自分で解けるようになってこそ、人は賢くなれると思っている。令太の力を借りてばかりいると、何にもできない子になってしまうだろう。
廊下では元子が待っている。早く帰らないと。
「せやな。バイバイ」
「バイバイ」
令太は教室を後にした。悠馬は令太の後ろ姿をじっと見ている。令太は何もできなかった。本当に申し訳ない。だけど、中川の命令だから、逆らえない。
帰り道、令太は悠馬の事を気にしていた。どうにかしたいのに、どうにかできない。お化けの力を使って、何とかできないだろうか?
「かわいそうやな・・・」
「杉本くん?」
元子にはわかった。令太は悠馬を気にしている。いつも居残り勉強ばかりで、宿題がちっともできない悠馬がかわいそうだと思っている。何とかしたいと思っている。
「うん・・・。なかなか宿題が解けなくて、困っとるんやて。そんでお母さんに怒られてばっかりなんやて」
令太は悠馬が母に怒られているのを知っている。悠馬の母もまた、へんげ屋の常連だ。土曜日に皿洗いをしている時に、悠馬の母がやって来て、成績の悪い悠馬にあきれている様子だったという。それに、成績の悪さを指摘されて、夕食を抜かれた事もある。その時は平吉がやって来て、何とかしてくれたおかげで、ソース焼きそばを食べさせてもらったという。
「ひどいな。何とかでけへんのかな? でも令ちゃん、何でそれ知っとるん?」
元子は驚いた。令太がこんな事を知っているとは。どこでそんな話を聞いたんだろうか?
「休日にへんげ屋で皿洗いをしとって、たまたま聞いたんや」
「そうなんや・・・」
元子は知らなかった。休日や、半ドンの土曜日に家族と来る事はあっても、そんなに厨房をのぞく事がないからだ。
実家の前にやって来た。元子はこの先まっすぐ行って、家に帰る。
「じゃあね、バイバイ」
「バイバイ」
令太は階段を上がり、2階の玄関に向かった。その間も、令太は悠馬の事を考えていた。何とかしてやりたいなという気持ちでいっぱいだ。
令太はインターホンを押した。すぐに、鍵が解除された。鶴子が解除したようだ。
「ただいまー」
令太は玄関に入った。その声を聞いて、リビングから末子がやって来た。
「おかえりー」
令太は洗面所で手を洗い、すぐに3階に向かった。ここ最近、暑い日が続いている。家は冷房が効いていて、まるで天国のようだ。
「はぁ・・・、蒸しあっつ・・・」
令太は自分の部屋に入った。すぐに冷房をつけた。令太はランドセルを置くと、すぐにベッドの毛布にくるまった。そして、お化けに変身した。
「なーに、僕にはこの姿があるんや!」
お化けは体温が低いし、夏でもとても涼しく感じる。これは便利だな。
「さて、勉強するか・・・」
令太は机に座り、宿題を始めた。令太はとても真剣な表情だ。令太はすでに再来年の目標を立てていた。絶対に私立中学校に進むんだ。高校は府内屈指の進学校、そして東京の大学に進学するんだ。
誰かが部屋をノックした。誰だろう。
「はい」
「花子です」
花子だ。花子は僕がお化けに変身できるのを知っている。この姿でも大丈夫だ。
「どうぞ」
花子は令太の部屋に入った。そこには、お化けの姿の令太がいる。机に座って宿題をしているようだ。
「あっ、この姿なんやね」
花子は全く驚いていない。令太がお化けに変身できるのを知っているからだ。
「うん。ひんやりしとるさかい、蒸し暑うても関係ないんや」
そうなのか。じゃあ、暑い時こそ、お化けを抱きしめたいな。
「令太兄ちゃん、ひんやりかわいい!」
「えへへ・・・」
花子に抱きしめられて、令太は笑顔になった。花子はかわいいと言ってくれる。それだけで、お化けに変身できる自分が好きになれる。お化けって、人を怖がらせるだけでなく、人を癒す力があるんじゃないかと思えてくる。だけど、人によっては怖がるから、花子だけの秘密にしよう。
「令太兄ちゃん、頑張っとるん?」
花子は机を見た。机にはたくさんの問題集がある。令太はとても進んでいるようだ。それを見て、花子は感心した。やっぱり令太は優等生だな。
「うん。宿題があるんや」
令太は少し笑っている。笑っている顔も、とてもかわいいな。花子はますますお化けの姿の令太が好きになった。
「頑張ってね」
「うん」
花子は部屋を出ていった。まさか、花子がやってくるとは。だけど、自分は宿題を頑張らないと。そして、勉強も頑張らないと。
数十分後、令太は宿題を終えた。ちょっと休んでから、今度は勉強を頑張らないと。
「さて、終わった・・・」
ふと、令太は悠馬の事を思い出した。悠馬はもう家に帰っている時間だ。今頃、悠馬はどうしているんだろうか? また母親に怒られていないだろうか? おばけの姿で、ちょっと覗いてみるか。
「悠馬くん心配やな・・・。こっそり行ってみよか・・・」
令太は姿を消し、家を出て、悠馬の家に向かった。悠馬の家がどこにあるかは知っている。平吉が注意しに行った時に、たまたま令太も行った事がある。令太は夕方の松田町停留場付近を飛んでいた。ちょうどそこに、我孫子道停留場に向かう電車が松田町停留場に停まり、発車していった。
その頃、悠馬は家にいた。自分の部屋で悠馬は悩んでいた。なかなか宿題が終わらないからだ。居残り勉強に、宿題に、とても大変なのに、なかなかできない。このままでは母や中川先生に怒られる。どうしよう。悠馬は頭を抱えた。でも、解決策が見つからない。
「うーん・・・。なかなかできんな・・・」
と、そこに令太がやって来た。だが、姿を消していて、悠馬は全く気付いていない。
「何もできんくて、ごめんな・・・」
令太は喋ったが、悠馬には全く聞こえない。お化けの声は、姿を消しているとお化けにしか聞こえないのだ。
と、そこに悠馬の母がやって来た。母は厳しい表情だ。宿題がまだできない悠馬に、いら立っているようだ。
「悠馬ー、宿題頑張らなあかんよ」
「はい・・・」
悠馬は泣きそうだ。これは何とかしないと。令太は心配そうに見ていた。




