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第8話 あの家が怪しい(2)

 その夜も廃屋は静かにたたずんでいた。もうここには誰も住んでいない。ただ、朽ち果てる時を待つだけになった。だが、それもいつまでもつんだろう。崩壊の危険があるので、近々取り壊されるとの噂もある。そうなれば、ここに住んでいた老婆の思い出も、消え去ってしまうんだろうか? とても心配だ。


 そんな廃屋に、1匹のお化けがやって来た。令太だ。令太は気になっている事がある。ここにお化けが出るというのだ。まさか、ここに住んでいた人のお化けだろうか? お化けは他のお化けが見える。だから、ここには誰のお化けがいるのか調べられるだろう。自分で調べてみよう。


「ここか・・・」


 令太は夜の廃屋を見ていた。廃屋は何もかもボロボロで、今にも崩れそうだ。崩壊しても、お化けはすり抜ける事ができるんだから、安心だ。だが、気をつけないと。


「入ってみよかな?」


 令太は廃屋に入った。玄関は閉まっていたが、すり抜けて入った。中はすっからかんで、至る所に汚れがある。遺品整理の人は来ていたようだ。それは何年前の事だろうか? 全くわからない。


 令太は玄関にある日めくりカレンダーを見た。平成で止まっている。今は令和だが、もうここだけは平成で時が止まっているように見える。


「もう何年も誰も入ってないんかな?」


 令太は様々な所を探検していた。台所はまるで昭和のキッチンのようだ。古めかしくて、鉄板ではなくコンロであることを除けばへんげ屋のようだ。昔の食卓って、こんな感じだったんだな。どんな日々の温もりがあったんだろうか? そして、どんな人々が住んでいたんだろうか? そう思うと、令太は胸が熱くなってくる。


 令太がリビングにやって来ると、そこには1人の老婆がいる。八重子だろうか? だが、下半身がお化けだ。みんなが言っている、廃屋にいるおばけって、この人かな?


「あれっ、誰かおる!」


 誰かの声に気付き、老婆は振り向いた。その老婆こそ、八重子だ。姿を消しているが、そこには少年のお化けがいる。初めて見る顔だ。死んだ男の子だろうか?


「あら、いらっしゃい」

「えっ、見えるん?」


 その声を聞いて、令太は姿を現した。見えたからには、姿を消しても意味がないと思ったようだ。


「うん。もう死んどるからね」

「そうやったんや・・・」


 やっぱりこの人は死んでいたんだな。何年前に死んだんだろうか?


「あんた、若そやけど、若くして死にはったん?」

「いや、僕はお化けに変身できる普通の子供なんや」


 それを聞いて、八重子は驚いた。こんな子がいるとは。どうしてこんな力を身に付けたんだろうか? まさか、お化けからその力をもらったんだろうか?


「そやったんやね・・・」

「どないしたん?」


 ふと、八重子は子供たちの事を思い出した。子供たちは今、どうしているんだろうか? 死んでもなお、知りたくてしょうがない。もう何年も会っていない。


「子供たち、元気しとぉかな思ぉて」

「気にしとるん?」


 やっぱり気になっているようだ。子供たちは、八重子の事を覚えているんだろうか? もう忘れてしまっていないだろうか?


「うん。名古屋に行っちゃったんや」


 名古屋に行ったのか。名古屋には行った事がある。名古屋城に行って、愛・地球博記念公園のジブリパークにも行った事がある。とても楽しかったな。


 ふと、令太は先日で会ったタエの事を思い出した。タエの子供たちもどこかに行ってしまった。そして、タエ1人になってしまった。


「どないしたん?」

「こないだ会った霊媒師さんの事思い出して」


 八重子はタエの事を知らなかった。一体どんな人なんだろうか?


「どんな人なん?」

「東京などに行った息子さんたちを思い出しとったんや」


 それを聞いて、八重子はしみじみ思った。自分と同じ境遇なんだな。帰らない息子の事を考えているんだろうな。


「そうなんや。私も似たような事、考えとるわ」

「あの霊媒師さん、死にはったんや。最後まで息子さんの事、考えとったんや」


 死んでしまったのか。きっと、子供たちの事を忘れられずに、ここをさまよっているのかな? もしそうなら、会ってみたいな。


「ウチもそやったな」


 八重子は寂しくなった。子供たちに会いたいのに、お化けになってしまって、会う事ができない。どうしよう。八重子は泣いてしまった。令太はそんな八重子の様子をじっと見ている。




 それから数日後の事だった。令太は文也と元子と下校していた。今日はサッカー部の練習がないので、文也も一緒だ。今日も授業が大変だったけれど、どれもこれも将来のためだ。一生懸命頑張ろう。


 令太は廃屋の前を通り過ぎた。廃屋を見て、令太は驚いた。灰色のシートで隠されているのだ。どういう事だろうか? まさか、解体されるんだろうか?


「あれっ、どないしたんやろ。ビニールかかっとぉ」


 と、そこにヘルメットをかぶった作業着の男がやって来た。ひょっとして、ここの解体を行っている人だろうか?


「あー、近々解体するんやわ。崩壊するかもしれんからね」


 やはり解体するのか。八重子は寂しいだろうな。思い出の家が解体されるのだから。八重子はどうなるんだろうか? 思い出の場所がなくなり、天国に帰るんだろうか? そして、お化けすらいなくなり、八重子の記憶は遠くに消え去ってしまうんだろうか? 令太は切なくなった。


「どないしたん?」


 文也の声で、令太は我に返った。令太は何を考えていたんだろうか? とても気になるな。


「何でもないて」


 だが、令太は何にもないと返す。本当はとても気になっているのに。




 その週末、へんげ屋にある家族がやって来た。彼らは八重子の家族だ。20年ぶりに実家に帰ってきたのだ。もう帰る事がなくなったけれど、実家が解体されると聞いて、ここにやって来たようだ。


「いらっしゃい!」


 彼らを見て、平吉は驚いた。八重子の家族だ。まさか帰ってくるとは。ひょっとして、実家が解体されると聞いて、ここにやって来たのかな?


「あら、田島さん家の息子さんやないかい!」

「20年ぶりに戻ってきた!」


 八重子の息子、孝則たかのりは笑みを浮かべている。久しぶりに帰ってきた故郷。あの頃と変わっていないな。そして、よく行った近くの鉄板焼き、へんげ屋も。店主の息子の達郎は大人になり、結婚して、今や2児の父だ。ただ、残念なのは店主の娘の直子だ。東京に嫁いだが、交通事故で夫ともども死んでしまった。その間に生まれた令太もここで暮らしているという。


「懐かしいやろ?」

「おう。よくここでお好み焼きを食べたなって」


 孝則は子供の頃を思い出していた。よく八重子と一緒にここに食べに行ったな。あの頃と全く変わっていないな。


「ご注文は?」

「海鮮ミックスお好み焼きで!」


 孝則は海鮮ミックスお好み焼きを注文した。これは、上京する前に食べたお好み焼きだ。もう一度食べてみようと思った。


「かしこまりました!」


 ふと、孝則は考えた。実家が解体されるのを思い出した。今さっき、その前を通り過ぎた。灰色のシートがかかっていて、中が見えない。どうなっているんだろう時になったが、見る事ができない。最後にもう一度実家を見たいと思っていたのに。


「どないしたん?」

「あの家、解体されてるって聞いたんで、やってきました」


 孝則は寂しそうだ。実家が解体されるからだ。少年時代を過ごし、そして上京するまで暮らした思い出の場所だ。思い出の場所がなくなるのは、とても残念だな。そう思うと、どうして自分はここに戻らなかったんだろうと考えてしまう。だけど、自分は東京で頑張っていこうと心に決めたのだから、東京で暮らさなければならない。


「うん。解体されとるで」

「生まれた家が解体されるって、寂しいな」


 孝則は泣きそうになった。その話を、令太はお化けの姿で聞いていた。令太は八重子の事が気になった。八重子は今でも、解体されている家にいるんだろうか? それとも、天国に行ったんだろうか?

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