第8話 あの家が怪しい(1)
夕方、令太はいつものように帰っていた。今日は塾がないので、まっすぐ家に帰る。文也はサッカー部の練習があるため、今日は一緒に帰れない。今日は元子と一緒に帰っていた。元子は令太の事が好きだ。だが、令太がお化けに変身できる事を、元子はもちろん知らない。元子はお化けを怖いものだと思っていた。
「じゃあね、バイバーイ」
「バイバーイ!」
元子は松田町停留場の踏切の手前で別れた。と、元子はある家が気になった。その家は草むしていて、もう何年も誰もいないようだ。元子はその家が気になるんだろうか? 令太は全く気にならないが。
「どないしたん?」
「あの家、どう思っとる?」
元子はその家を見ている。あんまり気にならないのに。この家に何か秘密があるんだろうか? もしかして、お化けが出るというんだろうか? もしそうなら、自分がお化けに変身して潜入してみようじゃないか。
「えっ!?」
「わからん?」
令太は全く気にならないようだ。だが、元子が気にしているのなら、調べないとという気持ちになる。
「うん。この家、全く気にならん。調べようと思わんもん」
「そうなんや」
元子は少し震えた。この家には何か、変な噂があるようだ。それは何だろう。全くわからないな。
「でも、なんか気になるわ。夜になると、誰かの声が聞こえるんやて。怖いと思わん?」
それを聞いて、令太は反応した。もしそうなら、お化けに変身して、その中に入ってみようじゃないか? そして、自分の目で確かめようじゃないか。
「うん」
ここで立ち止まってばかりいたら、母が心配する。早く帰ろう。母が待っているだろう。
「じゃあ、バイバーイ」
「バイバーイ」
令太は踏切を渡って、家に向かおうとした。ちょうどその時、警報機が鳴った。そして、我孫子道行きの電車がやって来た。だが、松田町停留場で乗り降りする人が1人もいなかった。電車はすぐに発車していった。電車が踏切を通過すると、遮断機が開いた。それを見て、令太は踏切を渡り、家に向かっていった。
令太は家に戻ってきた。いつものように階段を上がり、2階の玄関に向かう。
「ただいまー」
令太の声を聞いて、鶴子がやって来た。帰ってくる時間に合わせて、ここにやって来ているようだ。
「あら、令ちゃんおかえり」
「おばちゃん」
鶴子は驚いた。何か言いたい事があるんだろうか? 普通、何も聞かないのに。
「どないした?」
「松田町駅近くの草だらけの家って、誰が住んでたかわかる?」
鶴子は考えた。草だらけの家って言われても、どこかわからない。そんな家、見当たらないな。北天下茶屋小学校の近くだろうか?
「わからんわ」
「そっか・・・」
令太は残念そうな表情だ。鶴子なら知っていると思ったのに。ひょっとしたら、平吉なら知っているんじゃないかな? 閉店後に平吉に聞いてみようかな?
「おじいちゃん、知っとるかな?」
「そうかもしれんね」
確かにそうだ。平吉はずっと前からここに住んでいる。だから、ここの事はよくわかるかもしれない。平吉に期待しよう。
令太は部屋に入ると、すぐに布団にくるまり、お化けに変身した。そして、すぐに外を出た。向かった先はあの草だらけの家だ。気になってしょうがない。この中には誰かいるんだろうか?
令太はその家の前にやって来た。その家は静まり返っている。今にも倒壊しそうな雰囲気だ。屋根は朽ち果てている。いつまでこの建物は原型をとどめているんだろうか?崩壊すると、何が建つんだろうか? また別の家族の新居が建つんだろうか? そうなると、ここにいるというお化けはどうなるんだろうか? そこにとどまり続けるんだろうか? それとも、居場所を失ってさまよい続けるんだろうか? 令太はここにいるといわれるお化けの将来が不安になった。
その夜、今日の営業を終えたへんげ屋の厨房で、平吉はいつものように明日の準備をしていた。今日も多くの人々が食べに来てくれた。とても満足している。また明日も多くの人々がやって来て、おいしい粉もんや焼きそば、焼うどんを食べてほしいな。そして、幸せになってほしいな。
「おじいちゃん」
平吉は振り向いた。そこには令太がいる。まさか、令太がやってくるとは。どうしたんだろうか?
「令ちゃん、どないした?」
「松田町駅の近くにある、草だらけの家やけど、誰が住んどったん?」
それを聞かれて、平吉は重い口を開けた。その家の住人とは様々な思い出があるようだ。それは一体何だろう。聞きたいな。
「あああの家なぁ。田島八重子さんという人が住んどったんや」
「へぇ」
八重子さんという人が住んでいたのか。初めて聞く名前だな。八重子はどんな人だったんだろうか? 平吉とは様々な思い出があるんだろうか?
「もう10年ぐらい前に亡くなったんやけどね」
「ふーん・・・」
10年前なのか。自分が生まれた頃だ。おそらくその頃、自分は東京にいただろう。その時両親は、令太が物心つく前に交通事故で死ぬなんて、考えられなかっただろう。
平吉は思った。どうして令太はそんな事が聞きたいと思ったんだろうか? 友達が気にしていたんだろうか?
「なんで調べよと思ったん?」
「友達が田島さんの家の話をしとったから」
「そっか・・・」
やはりそうだったのか。聞きたかったんだな。まさか、今頃になって、田島さん家が話題になるとは。
「おじいちゃん、気になるん?」
「うん。ワテが小学校の頃、八重子さんと親しかったんやて。で、その息子の孝則さんはワテの同級生やったんや」
それを聞いて、令太は驚いた。平吉と八重子は親しかったとは。それに、平吉と孝則の卒業アルバムには一緒の写真があるんだろうか? 見たいとは思わないけれど。
「そうなんだ」
突然、平吉は寂しくなった。どうしたんだろうか? 令太は気になった。
「お葬式にも行ったんやで」
平吉は八重子の葬式にもやって来たという。そこには親族がやって来たものの、親族はみんなここを離れていて、死を知ってここに来たという。
「そんなに親しかったんだ」
「おう」
平吉は八重子との日々を思い出していた。中学校を卒業して、それぞれの道を進み始めても、へんげ屋にやって来て、その時はとても親しく話したな。話している時はとても幸せだったな。
「どないしたん?」
「八重子さんの事、思い出してのぉ」
令太は思った。よほど田島の事が忘れられないんだな。
翌日の小学校の休み時間、令太は元子と話をしていた。話題は、八重子の家の事だ。平吉から聞いた事を元子に話すと、元子は納得した。こんな家だったのか。もう何年も空き家になっているのは、どうしてだろうか? 親族は解体しようとしないんだろうか?
「そういう家やったんやね」
「うん」
元子は寂しくなった。もう何年も誰も住んでいないのか。誰が、この家を引き取って、住もうとしないんだろうか?
「あれから、もう何年もいないんやね」
「ああ」
令太は思った。八重子の家族は今、どこで暮らしているんだろうか? この家で過ごした日々を忘れていないんだろうか? もしいたら、また帰ってきてくれと言いたいな。
「田島さんの家族って、どうなったんやろな」
「心配なん?」
元子も令太の言っている事が気になった。元子も心配になった。そしてあの家は、忘れ去られていくんだろうか?
「うん。この家、忘れ去られていくんかな?」
「わからん」
2人は八重子とその家族の事を考えていた。それほど忘れられないのだ。八重子の子供たちは今頃、どうしているんだろうか? ここに全く帰ってこない。やはり、死んだからもう来なくなったんだろうか?




