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第6話 ミケの秘密(2)

 土曜日の昼下がりの事だ。木下家ではいつも通りののんびりとした日々を送っていた。あの捨て猫は木下家が引き取り、大切に育てられていた。ミケは世話をしていた捨て猫がここにやって来て、嬉しいようだ。夜な夜なそこに行って世話をする手間がなくなった。それに、いつでもこの家で世話ができる。本当に嬉しいな。


 と、そこに1匹のお化けがやって来た。令太だ。だが、姿を消しているので、誰にも見えない。令太は前から気になっていた。誰が子猫を捨てたんだろう。ミケにとりついて、猫の嗅覚を使って捨てた人を見つけようと思った。


「ミケちゃん・・・」


 令太はミケを見ている。本当にとりついていいんだろうか? 面識のある飼い猫だ。こんな事をして、ミケが怖がらないだろうか? とても不安だな。でも、捨てた人を探り出すには、やらなければ。


「ごめん、ミケちゃん!」


 令太は念じながらミケに体当たりした。令太はミケにとりついた。だが、ミケの表情は変わらない。普段と変わらない様子でいなければならない。家族に怪しまれたらまずいから。


 ミケは捨て猫の入っていた段ボールを嗅ぎ始めた。こうすれば、どこからやって来たのか特定する事ができるだろう。


「ねぇ」


 捨てられていた子猫は、ミケの様子が気になった。どうしてミケは匂いを嗅いでいるんだろうか? 今までそんな事はしなかったのに。どうしたんだろう。


「どないしたん?」

「何もあらへん」


 だが、ミケは話そうとしない。子猫は知らなかった。ミケは令太にとりつかれているという事を。


 嗅ぎ終わると、ミケは1階に向かった。これから出かけるようだ。瞳は1階にやって来た。ミケがやって来たが、どこに行くんだろうか? リビングだろうか? それとも、外に出たいと思っているんだろうか?


「あら、ミケちゃん、どないしたん?」


 ミケは玄関に向かった。外に出たいようだ。


「開けるで!」


 瞳は家の鍵を開けた。すると、ミケは北天下茶屋駅に向かって歩き出した。それを見て、瞳はまた家の鍵を閉めた。ミケは匂いをたどっていた。どこにあるんだろう。全くわからないな。


 北天下茶屋駅の踏切を渡ろうとした時、警鐘が鳴った。電車が来るようだ。しばらくすると、単行の電車がやって来た。ミケが電車に引かれて死んだら、とりついた自分にも責任があるだろう。もしかしたら、天国に帰らされて、令太は死んだ事になるかもしれない。気をつけよう。警鐘が鳴り終わると、ミケはまた歩き出した。ミケは狭い路地を歩いていく。こんな場所を捨てた人は歩いていたのか。どこだろう。全くわからないな。


 ミケは歩いて歩いて、あいりん地区にやって来た。まさか昼間に、人通りの多い時にあいりん地区にやってくるとは。そこは本当に近寄りがたい場所だ。


 ミケは匂いで捨てた人を探っていた。だが、なかなかたどり着けない。一体どこだろう。ミケは焦っていた。


「うーん・・・」


 しばらくさまよっていると、1件の古びたアパートに着いた。匂いをたどるとここだった。ここに捨てた人が住んでいるのか。どんな人だろうか?


「ここなのか」


 匂いを探りながら歩いていると、ある部屋の前に着いた。村中悦男むらなかえつおという男だ。この男が猫を捨てたのか。


「この人なんか・・・」


 特定できたので、ミケを木下家に戻さないと。みんな心配しているだろうから。ミケはそのマンションを後にして、木下家に戻っていった。村中はその事を全く知らない。




 ミケを返した後、令太はお化けの姿で村中の部屋にやって来た。村中は独り暮らしの中年の男性だ。結婚はしておらず、日雇い労働で生計を立てている。家計はよくないものの、いい就職先が見つからずに苦労している。癒し目的で猫を買ったけれど、エサ代が高いから大変だと思っていた。


「タマがいなくなって、本当によかったわ。あいつのために、キャットフード買わなきゃいかんし、大変やし」


 それを聞いて、令太は許せないと思った。こんな事が理由で子猫を捨てるなんて、あまりにも無責任だ。どうしよう。


「そんな事・・・。ひどいわ・・・」


 令太は思った。何らかの形でお仕置きをしようかな?




 その夜、村中は日雇い労働を終えて帰ってきた。村中はとても疲れていた。昔はもっと精力的に仕事ができたのに、この年齢になってだんだんつらくなってきた。だが、生きていくためには仕事を頑張らなければ。


「今日も疲れたわ」


 村中はベッドに横になった。そして、ぐったりしていた。今日もいろいろあったけれど、しっかりと寝て明日の日雇い労働に備えよう。明日も厳しい労働が待っているだろうから。


「明日も頑張ろっか」


 村中はこれまでの人生を振り返っていた。思えば高校までは幸せだった。だが、大学で落第して、いい就職先がなかなか見つからなかった。やっと就職できたアルバイトも、いざこざでやめてしまった。そして、どこもかしこも雇ってくれずに、気が付けば日雇い労働に頼り、このあいりん地区に住むようになった。大学生だった自分が、このありさまだ。あまりにも転落しすぎの人生だ。自分はどこで道を踏み外してしまったんだろう。自分の人生は何だったんだろうと考える日々だ。だが、何度考えても解決策が見つからない。


「寝よう・・・」


 村中は目を閉じて、眠った。村中は知らなかった。そこにお化けの姿の令太がいるのを。


 村中が寝たのを見て、令太は村中に近づいた。悪夢を見せようと思っているようだ。令太は悪夢を想像した。村中が飼っていた子猫、タマが村中に復讐する夢だ。令太は夢を想像すると、全身を光らせた。だが、透明になっているので村中には見えない。令太はそのまま目を閉じて、村中の頭に自分の頭をくっつけた。これによって、寝ている人の夢を操る事ができる。


 その夜、村中は悪夢を見た。目の前には捨てたはずのタマがいる。だがよく見ると、尻尾が2つだ。どうしてだろうか? まさか、化け猫だろうか?


「タマちゃん・・・」


 突然、タマが飛びかかった。そして、タマは引っかいた。


「やめて!」


 村中は抵抗したが、タマの怒りは収まらない。まさか、捨てたから怒っているのかな?


 村中は目を覚ました。どうやら夢だったようだ。でも、なんかリアルっぽい夢だな。どういう事だろうか?


「夢かいな・・・」


 村中は悪夢を見てしまった。ちょっと外に出て、気分転換をしよう。


「ちょっと外に出よっか」


 村中はアパートを出て、1階に降りた。夜のあいりん地区はとても静かだ。昼間の賑わいがまるで嘘のようだ。


「はぁ・・・」


 村中はため息をついた。あの夢が忘れられないようだ。


 令太はその様子を見ていた。今度は何をしようかなと思った。と、近くで野良犬が寝ている。今度は野良犬にとりついて、かみつこうかな? 令太は近くの野良犬にとりついた。野良犬は目を開け、村中に向かっていく。そして野良犬は、村中にかみついた。


「痛い痛い!」


 突然噛みつかれて、村中は痛がった。だが、犬は離れようとしない。


「痛い! な、何や! やめろ!」


 犬は村中から離れた。令太は犬から離れた。そして家に帰っていった。


「な、何やったんやろ・・・」


 村中は呆然としている。今さっきの夢といい、犬にかみつかれたといい、何かおかしい。


「まさか・・・」


 村中は思った。ひょっとして、タマを捨てた怨念じゃないかな? 自分はとんでもない事をした。猫を捨ててしまったため、恐ろしい事が立て続けに起こっているんだ。




 次の夜、村中は聖天坂しょうてんざか停留場から阪堺電車に乗った。今日はここで日雇い労働だった。とてもつらかったけれど、明日も頑張らないと。村中はあの出来事が忘れられない。タマを捨てて、後悔しているようだ。


 隣の席に座った自分と同じ、日雇い労働者に、あの出来事を話した。それを聞いて、彼は驚いた。


「そんな事あったんかいな」

「おう。ペットを捨てちゃあ、いかんって事やな」

「うんうん」


 彼は納得している。ペットを捨てるのは、いけない事だな。誰かに引き取ってもらうのが一番だな。


 ふと、村中はタマの事が心配になった。今頃、タマはどうしているんだろうか? 新しい飼い主の元で元気にしているのかな? もし飼われているのなら、その家に行きたいな。


「タマ、今どこにおるんやろな。新しい飼い主んとこで元気しとんかな?」

「わからんけど、そうやったらええね」

「おう」


 2人は知らなかった。その阪堺電車に、お化けの姿の令太が村中の隣に座っていて、その話を聞いている事を。

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