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第6話 ミケの秘密(1)

 午後4時過ぎ、今日の小学校を終え、令太は帰り道を歩いていた。今日は同級生の木下瞳きのしたひとみと一緒だ。瞳は令太ほどではないが頭がよく、令太同様、私立中学校への入学を考えている。2人は元子同様とてもいい仲だという。


 ここ最近、瞳は何かが気になっているようだ。どこか悩んでいる様子だ。小学校で何か問題があるほどではないのに。どうしたんだろう。


「どないしたん?」

「ミケの様子が最近、おかしいねん」


 ミケとは瞳が家で飼っているメスの三毛猫だ。瞳の家に来て3年が経つ。家族からはとてもかわいがられていて、みんなからもかわいがられている。令太も文也も花子もミケの事を知っていて、よく遊んでいる。そんなミケに、何があったんだろうか? ひょっとして、他の猫とのトラブルだろうか? それとも、また別の理由だろうか?


「なんで?」

「夜になるとどこかに出かけるねん」


 夜になると、どこかに出かけるのか。それは気になるな。僕ならお化けの姿で透明になって、ミケを付け回す事でわかるんだけどな。


「そうなんや・・・」

「夜は家で寝ているはずやのにね」


 瞳は変に思っていた。いつもだったらケージで寝ているはずなのに、毎晩どこかに出かけるのだ。だが、朝になったら帰っている。夜中にどこに出かけているんだろう。瞳は気になってしょうがないようだ。


「ふーん・・・」

「何かあったんかね」


 瞳は首をかしげている。もしかして、恋だろうか? そろそろミケはお年頃だ。いいオスを見つけて、一緒に夜を出歩いているんだろうか?


「気になるん?」

「うん」


 と、令太は何か考え事をしている。どうしたんだろう。瞳は気になった。


「そっか・・・」

「どないしたん?」


 だが、令太は何も考えていないような表情を見せる。お化けの姿になってミケを付け回そうだなんて、誰にも言いたくない。だって、自分がお化けに変身できるというのは、誰にも秘密にしようと思っているから。


「いや、何もあらへん」


 その先のT字路で、令太は瞳と別れた。家はすぐそこだ。あと少し歩こう。


 令太は家に帰ってきた。いつものように2階の玄関から3階に行く。文也はサッカー部の練習があるため、帰りが少し遅い。夜までかかるので、今日は達郎がヴェルファイアで送る事になっている。


 令太は自分の部屋に入り、ランドセルの中の物を出し、ランドセルを片付けた。そして、いつものように布団にくるまり、お化けに変身した。出歩くわけではない。ただこの姿でいるだけだ。徐々に令太は、お化けでいる事が好きになってきた。お化けでいれば、見えなかった世界が見えるからだ。それに、普通ではできない事ができるし、かわいい。令太はお化けの姿のままで椅子に座り、勉強を始めた。だが、誰もそれに気づいていない。カーテンを閉めているからだ。




 その夜、静まり返った松田町停留場の付近を、1匹の三毛猫が歩いている。ミケだ。ミケは毎晩こうして、どこかに出かけていく。だが、誰もそれを見ていない。ミケを飼っている木下家ですらわからない。そして、周りの人は全く気にしていない。


 ミケの後ろを、何かが飛んでいて、付け回している。お化けに変身した令太だ。令太は透明になっているので、誰にも見えない。ミケにも見えない。ただ、以前のように、霊感の強い人には気をつけないと。ばれてしまうかもしれないからだ。令太はミケに会った事があるので、よく覚えている。


「この子か」


 ミケは一体、どこに行くんだろう。わからないな。ひょっとして、生ごみを漁りに行くって事はないだろうな。もしそれで木下家に戻ってきたら、不衛生だろうな。大問題になるだろうな。


「どこに行くんやろ」


 付け回していると、踏切に差し掛かった。北天下茶屋停留場前の踏切だ。この踏切には遮断棒がない。辺りは静まり返っていて、誰も停留場にいない。ミケは踏切を渡った。


「踏切を渡った」


 ミケは暗い中を歩いていく。その先には、段ボールがある。その段ボールは何だろう。令太は気になった。まさか、捨て猫だろうか? だったら、早く保護しないと。


「えっ、これは?」


 ミケは段ボール箱の前に立ち止まった。段ボールの中には、捨て猫がいる。捨て猫は真っ黒で、とてもかわいい。


「箱に入った猫や!」


 令太は驚いた。まさか、ここに捨て猫がいるとは。ミケは捨て猫の世話をしていたんだな。それにしても、どうしてこんなかわいい猫を捨てたんだろうか?


「まさか、捨て猫? 捨て猫の世話をしてんのやな」


 ミケが夜にどこかに出かけるのは、捨て猫の世話をしていたからなんだな。明日、瞳にそれを話そう。




 翌日の帰り道、令太は瞳と一緒に北天下茶屋停留場の近くにやって来た。ここに捨て猫がいたからだ。瞳は思っていた。まさか、ミケがここに来ていたとは。そこには何があるんだろうか?


 例の場所にやって来ると、そこには段ボールに入った捨て猫がいる。それを見て、瞳は驚いた。


「猫?」

「うん。捨て猫や」


 瞳はかわいそうだと思った。こんなかわいい猫、どうして捨てるんだろうか? もしよかったら、私が引き取るのに。


「かわいそうに・・・。ミケちゃん、この子の世話をしとったんやね」


 ミケはとても優しいと聞いたが、捨て猫のためにこんな事もするんだな。改めて、ミケの優しさに改めて気付いた。


「うん。僕もかわいそうやと思っとう」


 令太もかわいそうだと思っていた。この子のために何とかしないとと思った。でも、実家は鉄板焼き屋だ。ペットなんて飼えない。申し訳ないけれど、捨て猫を何とかできない。


「なんでこんな事をするんや。かわええのに」

「どないしよう」


 ふと、瞳は思った。この猫を家で飼おう。もう1匹ぐらい、両親は受け入れてくれるだろう。それに、ミケと一緒にいた方がこの子が幸せだろうと思うから。


「ママに言って、うちで預かるわ」

「ほんま? おおきに」


 瞳は捨て猫を段ボール箱ごと抱え、家に向かった。令太はその後ろ姿をじっと見ている。


「・・・、かわいそやな・・・」


 ふと、令太は思った。猫って、犬同様、嗅覚がいいんだろうか? もしよかったのなら、猫にとりついて、飼い主が誰なのかわかるんだけどな。


「ねぇ瞳ちゃん」


 瞳は振り向いた。何か聞きたい事があるんだろうか?


「どないした?」

「猫って、犬みたいに匂いがよくわかるんかな?」


 瞳は少し考えた。どうして令太がそんな事を聞くんだろうか? テストに出るんだろうか?


「わかると思うで」


 わかるのか。とりつくかどうかわからないけれど、参考にしておこう。




 その夜、令太は末子、文也、花子と共に晩ごはんを食べていた。達郎と鶴子、平吉は働いているので、晩ごはんは末子と一緒だ。


「そう・・・。捨て猫の世話をしとったんや」


 末子は捨て猫の事を知って、かわいそうだと思った。だが、我が家は飲食店をやっているから、ペットは禁止だ。申し訳ないけれど、飼えない。


「猫を捨てるって、かわいそやろ」


 令太はその捨て猫が気になってしょうがない。瞳が飼ってくれてよかったけど、ダメだったらどうしようと思った。


「やよね。でもうち、飲食店やから、ペットダメやねん。令ちゃんもわかるやろ?」

「うん」


 令太はハンバーグをほおばった。だが、おいしくない表情だ。捨て猫の事が気になってしょうがないからだ。誰がこんなかわいい猫を捨てたんだろうか? とても許せないな。


「でも、ほっとけんわ」


 花子も同様だ。でも、ミケが世話をしてくれてよかった。これで幸せになればいいんだけど。


「おばちゃんもその気持ち、わかんの?」

「もちろんやて」


 令太は黙々とハンバーグを食べていた。文也も花子もその捨て猫を気にしているのか、箸があまり進まない。

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