第5話 お化けが見える!?(1)
大阪市の西成区にあいりん地区と言われている場所がある。ここは南海電車と大阪環状線が交差し、阪堺電車や大阪メトロの駅も近くにある新今宮駅の近くにあり、交通の便がいい。ここは日雇い労働者が多く住んでいて、彼らのための格安の宿、通称ドヤがある。ここは治安が悪かったものの、最近は比較的安定しているという。
そこを、1匹のお化けが飛んでいる。お化けに変身した令太だ。明日は休みだ。小学校や勉強の疲れを癒すために、ここを散歩している。夜道は危ないから、塾以外は出歩かない。だが、この姿なら大丈夫だろう。誰も攻撃できないし、姿がわからない。見えたとしても、びっくりするだろう。
あいりん地区の事は、インターネットである程度知っていた。塾の行き帰りで南海電車の車窓から見た事がある。だが、人間の姿で行った事はない。印象があまりよくないからだ。お化けの姿なら、大丈夫だろうと思っている。
この辺りには、自転車が多い。そして、空き缶が入ったごみ袋を持った人をよく見かける。彼らはどこか近寄りがたい風貌だ。いかにも怖そうだ。だが、自分の方が怖いぞ、なんてったって本物のお化けだから。だけど、絶対に姿を見せない。大騒ぎになるだろう。
「気持ちええな・・・」
令太は夜の風を感じていた。こんな深夜に出歩かない。危ないからだ。この年齢では貴重な事だ。危なげなく散歩できるのも、自分がお化けだからだ。
令太は占い屋の前を通り過ぎた。こんな深夜でも、相談に乗る人がいるんだな。よほどつらい問題を抱えているんだな。どんな問題を抱えているんだろうか? ちょっと気になるな。
「あっ、あなた、お化けが近くにいます・・・」
その声を聞いて、令太はハッとなった。まさか、お化けが見えるんだろうか? お化けはお化けにしか見えないと思ったんだが、霊媒師や占い師、霊感の強い人には見えるんだろうか?
「うわっ・・・」
令太は慌てて、建物の陰に隠れた。令太は焦っていた。まさか、お化けが見えるとは。そんな人にあったら、気を付けないと。
「まさか、お化けが見えるって」
令太は冷静になって、再び夜のあいりん地区を飛んでいた。ちょうどその時、阪堺電車が通り過ぎていく。その上には今池駅がある。今、令太がいるこの場所は、南海電車の今池町駅があった場所だ。
「見えへんから言うてお化けしかわからん思うたら、見えるって」
令太は再び戻ってきた。だが、占い屋は閉まっていた。もう夜遅いからだろうか? 今さっきは現れて、申し訳ないと謝りたかったのに。どうしよう。
「あれっ、おらへん・・・」
よく見ると、普通の民家のようだ。ここに住んでいるのかな? 令太はその家に入った。すると、今さっき見かけた占い師がいる。その占い師は中村タエという老婆で、寂しそうな表情だ。もう何年も1人で暮らしているんだろうか?
「あら、かわいいお化けちゃんじゃないの」
それを聞いて、令太は姿を見せた。タエにはお化けが見えているから、姿を消しても意味がないと思ったからだ。
「今さっきは現れてごめんなさい。この辺りを散歩しとっただけで」
この辺りを散歩してたのか。こっちこそ驚かせて申し訳なかったね。言う気はなかったんだけど、正直に言わないとと思って言ってしまった。
「そうなのね。びっくりさせちゃってごめんね」
「うん。あのね、僕、実は普通の子供やねん」
それを聞いて、タエは驚いた。お化けに変身できる少年なのか。そんな子供、初めて見たな。どうしてそんな力を得たんだろう。
「えっ、そうなの? どう見てもお化けだけど」
「僕、ある夜、死んでお化けになった両親に会って、お化けに変身する力を持ったねん」
タエは納得した。こんな事があって、お化けに変身する能力を持ったのか。
「そうだったんだ。だからそうだったのね」
令太は元の姿に戻った。そこには、普通の子供がいる。本当に普通の子供の姿なのか。きっと、ここは危ないからお化けの姿で飛んでいたんだろうな。
「これが男の子の姿?」
「うん。布をかぶって怖がると、お化けに変身するんや」
令太は近くにあったベッドを使って、布団にくるまった。心の中で怖がると、令太の顔をしたお化けが出てきた。布団の中には誰もいない。体自体がお化けになったんだな。タエはその様子をじっと見ていた。
「そうなんだ・・・」
ふと、タエは思った。自分の子供たちは、どうなったんだろう。もう何年も会っていない。とても心配だ。会いたいのに、今どうしているのかわからない。気になってしょうがない。会いに来てくれない。どうすればいいんだろう。
「うちの子供たち、どうなっちゃったのかね」
「えっ!?」
それを聞いて、令太は驚いた。そんなに気になるんだろうか? どんな子供なんだろう。令太は気になった。
「店を継がないって言って、東京に行っちゃったのね」
タエの息子は、東京に行ってしまった。店を継ぎたくないと言って、自分の道を進むために、東京に行ったのだ。
タエは最愛の息子、恵一との思い出を語り始めた。
タエには何人も娘や息子がいた。だが、みんな跡を継がずに東京や名古屋、福岡に行ってしまった。あんなに子供たちがいたのに、恵一だけになってしまった。だが、恵一もこの家を継ぐ気はなかった。東京に行きたいと何度も思って知多。もっと豊かな生活を手に入れるためだ。ここで細々と占いをするよりも、東京で頑張ったほうがいいと思っていた。タエは何度も止めようとしたが、後を継ぐ気がないようだ。
タエは必死だった。何としてもここに残ってほしい。そして、自分と一緒に暮らして、後を継いで占いをしてほしい。きっとここの人情は気にいるだろうから。
タエは焦っていた。今日、東京に向かうと言うのだ。恵一はタエの反対を押し切って、東京の大学に内定した。タエは東京の大学に行かず、大阪の大学に進んでほしかった。だが、恵一はタエの願いを受け入れようとしなかった。東京には夢がある、もっと豊かな生活がるに違いない。
「恵一、どうして継がないの!?」
タエは必死だ。ここに残ってほしい。私が残ったら、これからどうすればいいんだろう。このままここで孤独に死んでいくのは嫌だよ。ここに残ってよ。だが、その願いはかないそうにない。
「夢があるんだ! だから東京に行くんだ!」
恵一は真剣だ。東京に行って、もっといい生活を送るんだ。ここよりずっといい生活を送れるだろうから。
「ここを継がないと思わないの?」
「東京がいいんだ!」
タエは説得した。だが、恵一は聞き入れようとしない。タエは泣きそうだ。いつまでも一緒にいてほしかったのに。どうして東京に行っちゃうのか。東京にいい所があるように、大阪にもいい所があるのに。とてもつらいよ。
「そんな・・・」
そろそろ行かなければ。東京での生活が待っている。タエには申し訳ないけれど、自分には夢がある。もっと成長したい、そのためには東京に行かなければならない。わかってくれ。
「もう行く!」
恵一は玄関に向かった。東京に向かおうというのだ。
「やめて! やめて!」
タエは引き留めた。だが、恵一は振り払い、家を出ていった。それ以来、帰ってきていないという。
その話を聞いて、令太は自分は大阪市に住んでいるけれど、実は東京生まれだという事を話そうと思った。
「東京・・・、僕、東京生まれやで。やけど、物心つく前にお父さんとお母さんが交通事故で死んじゃって、それから大阪にあるお母さんの実家で暮らしてんねん」
それを聞いて、タエは驚いた。令太は東京で生まれたのか。まさかこんな過去があったとは。
「そんな過去があったんやね」
令太は物心つく頃に知った真実を語った。




