第10話
「それにしても、よく4人でクリア出来たなー」
「何言ってんだ、全部ティンゼルのお陰だろ!」
「そ、そりゃないぜ、俺だって頑張ったんだから誉めてくれよ。なぁ、ローレンス!」
「……そうだな。みんなの力だ」
暗がりを進む道中、彼らは互いを称賛し合っていた。その気持ちは私にも十分に理解できる。なぜなら、たった今クリアしたクエストが1層で一番難しいと言われていたからだ。
あとは街に戻って報告を済ませれば、彼らの目的である強力な武器が手に入る。メンバーが強くなるのは、私としても願ったりかなったりだ。
次第に明かりが見え、出口を抜けた時、最初に目に留まったのは黒髪の剣士と茶髪の魔法使いだった。
浮かれ気分のローレンス達が近づいていくが、昔から人の動きを分析するのが癖になっていた私は、彼らの動きを観察していた。
魔法使いの方は正直大したことはない。ウルフ相手に風魔法を使っているのもナンセンスだし、細かい動作一つ一つがどこか頼りなく感じる。
だが、黒髪の剣士は違った。傍から見ても、経験者が初心者の練習に付き合っているというのはわかる。ただ、動きの速いウルフ相手にも難なくとそれをやってのけていることが重要だ。その手際の良さからも、彼の実力は相当なものだということがわかる。
「ふーん……面白いね」
思わず感心しながら彼を見つめていると、仲間達が余計な事を口にしようとしていたので、慌てて止めに入った。妙な印象を与えたくなかったからだ。
彼らがその場に留まると言った後も、しばらく私は彼の動きを目で追っていた。
「ローレンス、ごめん。私、パーティ抜ける」
「なぜだ?……俺達が頼りなかったからか?」
「そういうんじゃないけど……とにかく、ごめん!」
街へ戻った後、私はパーティを抜ける決断をした。彼らに不満があったわけではないし、実力不足だと思ったわけでもない。むしろ、優秀な司祭が加入してくれればある程度のところまでいくだけのポテンシャルはあっただろう。
それでも……私はどこか物足りなさを感じてしまっていた。実力のあるプレイヤーはある者同士で組んだ方が、より楽しめるというのが私の持論だったからだ。
アルカディアに来てすぐに前線のパーティにも参加したが、統率の取れていないメンバーとやってもまったく面白くなくて抜けてしまった。その後ローレンス達に拾われはしたものの、どこか満たされない感情を常に持っていた。
そんな中、私の中で1つの思いが芽生えた。黒髪の剣士……彼ならば、私の期待に応えてくれるかもしれない。特に根拠はなかったが、私の勘がそう告げていたような気がした。
彼らは黒剣クエストに行くといっていた、探せばまだ間に合うかもしれない。
そして私は、街中を駆け回り、ようやく歩いている二人を見つけて声をかけた。二人はすんなりと私を受け入れてくれ、クエストの洞窟へと向かうことになった。
「ねぇ、ティナはラスタのことどう思ってるの?」
「え?どうって……頼りになるなあって思ってるけど」
「ちがうよ~、そういうんじゃなくて、好きとかそういうの?」
「好きって……わかんないよ。まだ会ったばっかりだもん」
道すがら他愛のない質問をしてみると、彼女は曖昧に返事をしながらも視線はしきりにラスタに向いている。口では否定しているが、明らかに意識しているのは明白だ。
しかし、クエストが終わったときはきっと立場が逆転しているに違いない。ゲームの世界では、上手い人は上手い人に惹かれるものだと私は思っている。
荒野地帯に入ってからは、ウルフを次々と仕留めながら、ラスタに自身の力量をアピールし続けた。きっとこれで、彼も私の凄さに気が付いたに違いない。
あとはボスを倒して街に戻れば、彼は私に釘付けになるはずだ。それは、女性としてではなくメンバーとしてだ。そして、二人が気に留めたプレイヤーを厳選していけば、より良いパーティが作れるはず。
そういう筋書きになる……はずだったのだが。
「はぁ……かっこわるぅ」
ファルカの噴水前で腰をおろし、深いため息をついた。一度やったクエストだから問題ないだろうと思っていたのに、まさかあんなにもあっさりやられてしまうなんて……。
ケイニッヒの行動にヤマを張って引きつけたものの、実際にはたったの3割程度しかゲージを削れず、麻痺攻撃であっさりとやられてしまった。そもそも後衛職の魔法使いがタイマンを張る事じたいがナンセンスなのはわかってはいたが、自分なら出来ると思い込んでしまっていたのかもしれない。
仲間を切ってまで挑んだクエスト戦で、まさかあのような無惨な結果になるとは正直思わなかった。
「うぬぼれてたのかなぁ……」
気付けばゲートの前で俯いていた。これまでの自分の行動を振り返れば振り返るほど、胸の奥にある苦しさが増していくように感じた。
「ティンゼル~!」
いつしかティナの声が響き、彼女は私の元へ駆けよってくるとそっと抱きしめた。反射的に身体を抱き返そうになり、私にそんな資格があるのかと躊躇ったりもした。ただ、ここでそれをしないのはあまりにも不自然に思えたので、そっと身体を抱き返した。
同じ服を着ているはずのティナの身体は、ふわりとやわらかくて……すべてを包み込んでくれるような温かみを感じた。その瞬間、私の中で何かが解けていくような感覚に襲われた。
「……ティンゼル。その……悪かった。……俺の作戦のせいで君に負担をかけてしまって」
いつの間にか近くに来ていたラスタがそっと謝罪の言葉をかけてくる。二人の優しい態度に、上手いだとか下手だとか小さな事を気にしていた自分が馬鹿らしくなってしまった。彼らは、ただ純粋に私の心配をしてくれていただけだというのに。
たった少し一緒にいただけなのに、私はそんな彼らを羨ましく思っていたのだ。
「ううん……私の方こそ、ごめん。私がクリア出来たのはローレンス達のお陰だったのに……自分の実力だと思って調子に乗ってた」
「そんなことは……」
「ほんとに、いいの。……とにかく二人とも、クリアおめでとう!」
そうして私は、二人とクエストクリアのお祝いをして、ローレンス達のところに帰ると告げてその場を離れた。
彼らは私のことを許してくれるだろうか。もう一度会って、ちゃんと謝罪をしよう。そう決めて、彼らが向かったであろう2層へのゲートへと歩み始める。
「はぁ~……それにしても、二人に嫉妬していたなんて……ほんと、かっこわるいなぁ・・・・あれ?」
もう少しでゲートに着くというところで、視線の先に違和感を感じた。ゲートの奥にある巨大な輪の前に、尋常ではないほどの人だかりが出来ているのが目に留まった。私は小走りで近づくと、一番外側にいた男性プレイヤーに問いかけた。
「あの……すみません、何かあったんですか?」
すると、男は目を見開きながら私を見たあと、信じられない言葉を口にしたのだった。
「……うそ?」




