「冒険の書三百二十八:円卓にて」
リゼリーナに連れられワシがたどり着いたのは、王城『蒼鱗城』の中層階にある会議室。
国王と臣下が打ち合わせをする場所だ。
広い部屋の中央にドンとデカい円卓が置かれ、その周りに文武の重臣たちが座っている。
円卓の上には地図や報告書が並べられ、皆がああでもないこうでもないと頭を悩ましている。
上座には国王アーガスが座っている。
アレス譲りの能天気な顔にも、さすがに今回ばかりは疲労の色が濃い。
顔をしかめ、盛んに貧乏ゆすりをしている。
「陛下、フィオナ姫をお連れいたしましたわ!」
『お父さま』ではなく『陛下』呼び。
お仕事モードに切り替わったリゼリーナがワシの背中をぐいと押す。
「む……?」
娘の声に顔を上げたアーガスは、ワシの姿を認めると表情を明るくした。
「おお、おまえか……っ。なんとエルフヘイムの王女殿下であったそうだな、驚いたぞっ」
「申し訳ない。色々ありまして……」
隠していたわけではなく、そもそもワシ自身が知らなかっただけだ。
だがまあ、形式上は謝らなければならんだろう。
ということでワシは、深々と頭を下げた。
「よい。そんなことはどおおおぉ~でもよい。かたっ苦しいその言葉遣いもやめよ。おまえの素で話せ」
アーガスはひらひら手を振ったかと思うと、ワシに気楽に話すよう促した。
「むしろ、遠路はるばるよく来てくれた。エルフヘイムでの活躍を褒めたたえる間もなく次の難題へ対応してもらうことになって悪いが、こちらも余裕がないのでな」
逆に、こちらに頭を下げてよこした。
「改めて、アーガス・ロキ・デア・ハイドラが頭を下げる。フィオナ姫、どうか我が国のために力を貸してくれないか?」
着座のままとはいえ、一国の王が頭を下げた。
エルフヘイムの王女相手とはいえ、王位継承権も低い幼い娘に。
「陛下……?」
「さすがにそれは……っ!」
「いかにエルフヘイムの王女相手とはいえ……っ」
文武の重臣たちがザワつくのを、アーガスが手をひらりと振って黙らせた。
「黙れ。今は一刻を争う事態なのだ。形式など構ってられるか」
皆を黙らせると、アーガスはワシに円卓につくよう促した。
リゼリーナの隣にワシ、ルルカとチェルチは別に椅子を与えられてワシの後ろに座ることになった。
「まずは状況を説明しよう。愚息が外交官と共にカルノフ連邦へ向かったことは知っているな?」
アーガスの説明によると、ルドヴィクは外交官ニックスと勇者学院のSクラス生徒三人を連れてカルノフ連邦へ向かったらしい。
「ルドヴィクも一緒にか? どう考えても邪魔にしかならぬのでは?」
パラサーティアで出会った時はレべル八十五程度の『騎士』だったか。
だがそれも『パワーレベリング(従者に命じて散々弱らせた獲物にとどめを刺す行為)』で無理やり上げたものだというし、とうてい実戦で役に立つものではないだろう。
王族としての仕事に関してもひどいものだったはずだ。
地方周りの調査官をやらせてみれば役人からは非難の嵐。
やれ賄賂を要求しただの、やれうちの娘にちょっかいをかけただの、王族にあるまじき醜聞の数々。
だからこそルベリアは、リゼリーナとの三番勝負を命じたのだ。
もし敗北すれば『王族としての地位を一時剥奪して放逐。然るべき成果を残して帰還した時にのみ地位を回復する』という条件で。
「……ああそうか。だからこそ出しゃばってしまったというわけだ。『窮鼠猫を嚙む』の例えではないが、追い込まれているのを承知しているからこそ前に出てしまったのだな?」
「そうなのだ。母上に尻を蹴飛ばされた結果、無駄に張り切ってしまってな……」
アーガスはいかにもめんどくさそうにため息をついた。
「そもそもがな、難しい任務ではなかったのだ。ネコ・イヌ・サル・ネズミ・トリ・クマ・トカゲの獣人七氏族から成るカルノフ連邦。その首長たる評議会議長のご機嫌を伺い、貿易上の覚書を二、三交わすだけ。外交官のニックスも優秀な男でな。議長や族長陣からの信頼も篤く、問題なく片付く任務だったはずなのだ。がしかし……」
「がしかし……?」
まさかの国交断絶の危機まで引き起こすほどのトラブルとは、いったいどうやって起こったのだろう。
ゴクリと唾を飲んでいるワシに、いかにも忌々しげにアーガスは言った。
「あのバカ者め、ニックスを無視して自ら交渉を始めたのだ」
「ハア~……?」
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