「冒険の書三百二十七:王都到着!」
ルドヴィクの率いるSクラス生徒たちによるパーティが、カルノフ連邦で大失敗。
国交断絶の危機レベルのやらかしをしたので至急戻ってくれ――それが、ミニコーラスを通したリゼリーナからの伝言だった。
さあ大変だ。
大急ぎで戻らねば……とはいえ、エルフヘイムから王都までは遠い。
馬車二台と高速艇を乗り継いで、普通にいけばひと月半。
どれだけ急いだとしても、ひと月に縮められるかどうかといったところだろう。
なのでワシは空路を選んだ。
ワシ・ルルカ・チェルチの三人でワイ助の鞍に無理やり跨ると(かなりギュウギュウだが、乗れないこともない)、馬車の外に出て見送るルシアンを振り返った。
「ルシアン! デクランの護衛は任せたぞ!」
即時帰還命令には従わなければならないが、外交官であるデクランを単独で帰らせるわけにもいかない。
ワイ助に乗せるには重すぎるということもあり、ルシアンには後から来てもらうことにした。
「任せてくれ師匠! 絶対に無事に王都までお送りして見せる!」
ルシアンは力強く手を振り返すと。
「ハイドラ王国はカルノフ連邦と国境を隣接しているからな! 戦争などという最悪の事態にならないように! 師匠の力でどうか!」
「おう! ワシ如きに出来ることなどたかが知れているだろうが、ともかくやるだけやってみる!」
脇腹を蹴ると、ワイ助が走り出した。
十分な助走をつけた上でバサバサと翼を羽ばたかせると浮力が産まれ、グイグイと凄まじい勢いで上昇していく。
「わわわわ⁉ 高い! これはさすがに高すぎるよディアナちゃあぁぁあ~ん⁉」
空を飛ぶことに慣れているチェルチは平気だが、ルルカは顔を真っ青にして怯えている。
「許せルルカ! これ以外に方法がないのだ! さあ飛べワイ助! 全速力だ!」
「キャー!」
「いやあぁぁぁぁぁ~⁉」
+ + +
ワシらが王都にたどり着いたのは、それから一週間後。
先にミニコーラスで伝言を飛ばしていたおかげでワイ助が飛来しても攻撃はされなかったが、城下町はけっこうな騒ぎになっていた。
皆がこちらを見上げては悲鳴を上げ、中には慌てて逃げ惑う者もいた。
「キャアァァァ~……」
ほとんど休みなく飛んでくれたワイ助はさすがに疲れたのだろう、王城の厩舎にたどり着くなりバッタリと倒れ込んだ。
このまま傍にいて面倒を見てやりたいところだが、あいにくそんな暇はない。
なのでワシは手近にいた厩務員を捕まえると……。
「すまんがこいつの世話を頼む! 水と飼い葉……いや、出来れば果物を用意してやってくれ! 甘くて汁気たっぷりのものが好きなのだ!」
さすがにワイバーンの世話などしたことはないだろうから、最低限の世話の仕方を教え込んだ。
一方、ぐったりしていたのはワイ助だけではない。
「きゅうううぅ~……」
高所恐怖症のルルカもまた顔を真っ青にして倒れそうになったが、そこはワシがきっちり支えた。
片手で拾い上げると、背に負った。
「ルルカ、おまえもがんばった! ここからはワシに任せておけ! ――ワイ助! またすぐ戻るからな! それまでおとなしくしていろよ!」
「キャアァ~……」
元気のないワイ助をひとり残すのは心苦しいが、そうも言っていられない。
ルシアンの危惧する通りの事態になったら大変だ。
せっかく魔王を倒したというのに人類国家同士で戦争など、とんでもないことだ。
「ディアナさん! こちらです!」
走り出すとすぐに、リゼリーナの顔が見えた。
ワシら到着の報を聞きつけたのだろう、ララナとニャーナを従え、息を切らせながら走って来る。
「フィオナ姫……いや、ディアナさんのままでいいのかしら!?」
リゼリーナはワシの腕を掴むと、強い目つきでにらみつけてきた。
「言いたいことはたっっっっっくさんありますけど! あるんですけれども!」
眉をはね上げ、唇を噛み、顔を赤くして怒っている。
何に対してって、そんなものひとつしかない――つまりはワシが、姫であったのを隠していたこと。
「今は後回しです! 一刻を争う事態なので、とにかくこちらへ!」
言うなり、リゼリーナは走り出した。
「ああ~……すまんなリゼリーナ、黙っていて。だが、決して悪気があったわけではなくだな……」
リゼリーナを追う形で走りながら謝るが……。
「謝罪は! あとで! うかがいます!」
ピシャリ、リゼリーナはワシの言葉を遮ると……。
「あと! ご無事でなによりでした! マリアベルさんを助けるために自ら泥竜に呑まれたと聞いた時は! 心臓が止まるかと思いましたわ!」
「お、おう」
「無茶をなされる方だとは思っていましたが! これほどまでとは思いませんでしたわ!」
「なんだかすまんな」
「ああもう! そののんびりとした受け答えが! もう! もう! もう!」
さんざん叫んだことで、ようやく落ち着いたのだろう。
リゼリーナは深い深いため息をつくと。
「なんだってわたくしはこのような方を……ハア~」
「色々と悪かったな。ワシ如き者をSクラス生徒に、ハイドラ王国の勇者候補に選ぶんじゃなかったとならんよう、頑張って埋め合わせはするから……あれ? ワシ、なんか言い方間違った?」
じろぉぉぉ~り、恨みがましい目でワシをにらみつけてくるリゼリーナ。
「その辺も含め、あとでお説教ですわね」
これ以上なにを怒られるというのだろう、ワシが怖くなっていると……。
「とにかく今はお仕事優先。呼び方から決めておきましょうか。これからはなんとお呼びしたら?」
「おう。それなら普段はディアナ、公的な身分が必要となった時はフィオナと呼んでくれ」
「では、今はフィオナ姫で」
「公的な場に出る、ということでいいな? ということはこれから会うのは……」
「はい、わたくしのお父さまですわ」
「アレスの息子アーガスか。二度目の謁見が、まさかこんな状況になるとはな……」
デクランと共にエルフヘイム外交の成功を伝えるつもりだったのだがな……。
「世の中、なんでもうまくはいかぬものだのう」
ため息をつきつき、ワシはリゼリーナの後ろについて走った。
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