「冒険の書三百二十六:王女の旅立ち」
マリアベルとルチルナが泣きながら手を振り、メアリはなぜか大外壁の上で子どものような泣き顔を披露している。
イールギットもまた、なぜか大外壁の上にいる。平気な風を装っているが、ワシにはわかるぞ。目が真っ赤だ。
皆に見守られながら、ワシらはエルフヘイムを旅立った。
エルフヘイムの王族専用馬車に乗り、まずはエルフ族の川の港であるルナリスへ。
乗員はワシ・ルルカ・チェルチ・ルシアン・デクランの五人。
来た時と違ってマリアベルはいないが、あやつ特有の大げさな言い回しの代わりにワイ助が上空で「キャーキャー」鳴きながらついて来るので、やかましさとしてはさほど変わらない。
「ふん、イールギットの奴め。平気なフリをしているが、あの様子だとまた泣いておったな?」
揺れる馬車の中、かつての宿敵の情けない姿を思い出しながらほくそ笑んでいると……。
(素直じゃないね。懐かしい友だちに会えてよかったって言えばいいのに)
「誰が友だちか、誰が」
フィオナの発言にツッコむワシだが、一方でそこには、いくばくかの真実がある。
「……ま、懐かしいというのは事実だがな」
ルベリア以来二人目となる、ドワーフ時代の知り合いだ。
しかも同じく勇者パーティに所属していた関係。
まったくなんの感傷もないといえばウソになる。
「当時のツンケンした振る舞いの理由もわかったし……だが、それとこれとは話が違うからな。次会った時にはもう少しサービスをしてやってもいいが……たとえばフィオナが見たもの聞いたものを積極的に話してやったり……。孫バカの奴にとっては孫娘との会話こそが一番の土産になるだろうし……」
(ふふ~ん、素直じゃない奴)
ここぞとばかりにワシをおちょくってくるフィオナ。
「そうゆーおまえはどうなのだ? メアリとしばらく会えなくなるが、実は寂しくて泣いておるのではないか? ワシに姿が見えないのをいいことに、虚勢を張っているだけなのではないか?」
お返しとばかりに煽ってみると……。
(寂しいよ、もちろん)
虚勢を張るかと思いきや、フィオナは素直に認めた。
(でも、これで終わりお別れってわけじゃないし。ミニコーラスで遠距離通話する約束もしたし)
ちなみに、マリアベルにはミニコーラスを預けてある。
予備としてウルガから預かっていた品なのでひとつしかないが、メアリが使うことももちろん可能だ。
今回のような異変がエルフヘイムに起きた時に最速で駆けつけられるだけでなく、普通に会話することもできる。
(つまり、わたしたちの行動がみんなの楽しみになり! 遠くの空の下でも元気でいることの証明になるってわけでしょ! だったらなおさら、いい旅にしなきゃねっ! 海に潜って海底城に行って! 空を飛んで空中城塞に行って!)
空元気かと思ったが、どうやらそうでもないらしい。
フィオナの声はひたすら明るく、ふんすふんすと鼻息荒い。
ま、もともとが冒険好きな娘だからな。
これからの無限ともいえる旅路を思い、興奮しているのだろう。
いつかはピピと話すことが可能になるかも、という希望もあるしな。
とはいえ……。
「海底城に空中城塞か。『世界樹再生官』としては様々な秘跡を巡って知識を得ることに異論はないが……。さすがにそいつは遠すぎるな……」
七つの海を統べるという『海神』と、かつて星々の世界から飛来したという『星渡り』の本拠地だ。
「行きたいからという気持ちだけで行けるものでもないだろうしな……いや、本物のディアナは行ったのだったか?」
(そうそう、やる気があればなんでもできるっ!)
「仮にも『エルフの英雄ディアナ』を名乗る身としては考えるべきなのかもしれんが……。しかしう~む……」
偉大な先達の踏みしめたであろう道のりの果てしなさを思いつつ、ちょっとげんなりするワシだ。
「そういえば、『闇の軍団』の連中も『魔王アスラ・メギド』を復活させるとかいう大それた野望を持っていたな……。いったいどのように復活させるつもりなのだろうな? ワシの知らぬなんらかの魔術……儀式……? はたまた古代文明の……ものすごい何か? ヴァネッサかギイのどちらかでも捕らえられていればわかったかもだが……」
ぼんやりと考えこむワシに、ルルカが話しかけてきた。
「ディアナちゃん、ディアナちゃん。ミニコーラスちゃんが鳴ってるよ?」
言われて気がついた。
胸につけていたミニコーラスが、何ごとかを喋っている。
「なんだ、どうしたコーラス? ええい、馬車の揺れのせいで上手く聞こえんぞっ」
苛立ったワシがミニコーラスを掴み、耳にペタリとくっ付けると……。
「『ディアナ、大変。ディアナ、大変』」
コーラスにしては珍しく慌てた様子で。
「『ルドヴィク、外交失敗。カルノフ連邦、と、国交断絶、危機――』」
恐ろしいことを告げてきた。
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