「冒険の書三百二十三:手紙を書いた」
皆に正体を隠すこと。
フィオナではなくディアナと名乗っていくこと。
それがガルムでありディアナでありフィオナでもあるワシという複雑な存在の、ちょうどいい着地点といえるだろう。
そんな風に基本方針を定めたワシらだが、もちろんそのままというわけにはいかない。
皆を騙しきると決めた以上は、不義理を埋めるためにも最大限の努力をすべきだ。
真っ先に行ったのは『手紙を書く』ことだ。
聖樹のたまゆらのルルカとチェルチ
ハイドラ王国外交官組のルシアンとデクラン。
エルフヘイムのメアリとイールギット、マリアベルとルチルナ
王都ハイドリアにいるリゼリーナとルベリア、コーラスとウルガ、勇者学院の子どもたちと……ついでにベルトラ(本当についでにだが)。
今まで世話になった皆に、これからも世話になるだろう皆に手紙を書いた。
内容はなんてことないものだ。
・今まで迷惑をかけた。
・世話になっているな、ありがたい。
・これからも旅を共にできるのが楽しみだぞ。
精いっぱいの感謝をこめた。
紙やインクはフィオナのものを使った。
日記を書く他にも地図を自作したりと様々な手作業を好むフィオナだから、その手のものは部屋にたくさん保管されていた。
文面は、ワシとフィオナで考えた。
実際に書くのはワシなのだが、何せ字が汚いし文字も知らないことから、ずいぶんと苦労した。
ああだこうだとフィオナに指示されながら、指をインクでベタベタにしながら完成させた。
受け取った皆は(ハイドリアの連中へはまだだが)一様に驚き、そしてすぐに、くすぐったいような笑みを浮かべた。
メアリなどはボロボロと涙を流しながら手紙を抱きしめ、イールギットは慌てたようにどこかへと去って行った。
「おそらくは物陰で泣くのだろう。ふん、泣き虫孫バカめ」
冷徹が服を着て歩いているような男の醜態を見ることができたわい、と喜んでいると……。
(んんん~、スッキリしたあ~。これでちょっとは恩が返せたかなあ~)
フィオナが伸びでもしてるかのような気持ち良さげな声を出した。
(もちろん全部を許してもらえるとは思ってないけどさ、半分ぐらいはね)
「半分はさすがに言いすぎだろう。一割にも満たないぐらいではないか?」
(ええ~? そんなに厳しいの~?)
「ワシらがやっていることを考えろ。仲間を騙し、裏切り……」
(うっ……そ、そう言われると良心が痛たたたた……っ?)
「まあでも――」
ワシは肩から力を抜き、口元を緩めた。
「そんな大げさに考えてもしかたあるまい。何せワシらの人生は非常~に長いのだし、その間にいくらでも埋め合わせはできる。そして最期……どんな最期になるかは知らぬが、とうとうあの世へと至った時に、まとめて謝ればいい。今まで騙して悪かったと、ウソをついてすまなかったと。実はワシらはかくかくしかじかで……とな」
(許してくれるかなあ~……。殴られるぐらいはするかもじゃない?)
「その時は甘んじて受け入れるだけだ。二発だろうと三発だろうと、好きなようにさせてやればいい」
(そ~う? わたしだったらササッと避けちゃうけど。頭を振って、左右にササッと)
「おまえ……自分の死因を忘れたのか? その運動神経でパンチが避けられるとでも?」
(あああ~っ⁉ そ、それは言わない約束でしょ~っ⁉)
そんな風にギャアギャアと騒ぎながら、ワシらはエルフヘイムで過ごしていた。
そして――旅立ちの朝が来た。
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