「冒険の書三百十九:帰路」
生命の泉のほとりで弁当を食い、長めの昼寝を決め込んでからフィオナ探検隊は解散。
ワシらは三々五々と帰路についた。
「うう~む……」
時は夕方。
木々の間をすり抜けてくる夕陽を浴びながら、ワシは呻いた。
――ねえガルム、あんたこのまま、みんなに黙って生きていくつもりなの?
フィオナの放った言葉に対しては、まだ有効な返答ができていない。
打ち明けるべきか、それとも黙するべきか。
どちらがいいのかわからない。
――ルルカも、他のみんなも、もちろんわたしもね。あんたが思うほどに弱くないの。
フィオナの言う通りかもしれない。
ここまでの冒険で身に染みているように、ワシが思っているよりも皆は強い。
戦いに関してはもちろん、心の方も鍛えられている。
ワシが自らの身分を明かしても案外あっさり受け入れてくれるかもしれんし、そのまますんなり旅を続けられるかもしれん。
もちろん、真逆の結果になる可能性もある。
ルルカやチェルチに裏切り者と罵られ、リゼリーナには王族侮辱罪だと糾弾され、イールギットには魂の強制切り離し実験を行われる……というのはさすがに大げさだとしても、ワシに敵意を向けてくる者は少なくないだろう。
エルフの姫の体を奪ったドワーフとして激しい非難を浴びるのは当たり前、最悪の場合パーティの皆に被害が及ぶかも……。
「それはさすがに……嫌だのう~……」
自分だけならいいが、自分のせいで仲間が傷つけられるのは忍びない。
だったらやっぱり、最期の瞬間まで黙っていた方がいいのでは……?
「それに、ワシが秘密を明かすということは同時に……うん?」
サク、と草を踏む音がした。
振り返ってみると、そこにいたのはメアリだ。
いつもだったら空の弁当箱やテーブルの片付けに加わっていただろうメアリも今日ばかりはお役御免ということで、ワシの後ろについて来ている。
どことなく楽しそうな顔で、足取り軽く。
いや、たぶんな?
フィオナはともかくワシとしては会って間もない相手なわけだから確実とは言えんが、いつもより口角が上がり、いつもよりも重心が高く見えるのだ。
「フィオナさま、本日はお楽しみになられましたか?」
「おう、おかげさまでな」
「……おかげさま、ですか? わたくし、何かいたしましたでしょうか?」
ワシの礼を聞いたメアリは、不思議そうに首を傾げる。
「今日行こう今行こうとこちらが無茶ぶりしたのにもかかわらず、よくもまあ場を整えてくれたな。衣装から弁当からテーブルから何から、手際がよくて驚いたぞ。ありがとうな」
「………………それは、どうも」
礼を言われたことで照れているのだろうか、メアリの口角が震えた。
重心がさらに上がり、長い耳の先がピコピコ震え始めた。
(へ~……。あんたってば、ずいぶんメアリの扱い方に慣れてきたじゃない)
面白がるような口調でフィオナ。
(そうなのよ~。メアリってばお礼を言われるのに弱いの。いつもは真面目なメイドでございって顔でビシッと決めてるんだけど、わたしがちょこっと褒めると耳をピコピコピコピコ。ホントにチョロ可愛いんだから~)
「ちょろ……かわ……?」
言い方は謎だが、メアリという女をほどよく定義した言葉ではあるのだろう。
普段は真面目で冷静なメイドだが、可愛いご主人さまには弱いと。
そんな風にワシが理解しているところへ……。
「フィオナさま、ちょっとよろしいですか?」
(ひえっ、聞かれてたあぁぁっ⁉)
別に聞かれていたわけではないだろう。
ちょうどタイミングが一致しただけだ。
などというツッコミはともかくとして、突如話しかけてきたメアリにフィオナは必要以上にビビり、暴走し出した。
(違うの違うのっ、バカにしてるように聞こえたかもだけどっ、わたしとしては褒め言葉で言ってて……っ。だからお願い許してっ、おやつ抜きだけはあぁぁ~っ)
「落ち着け、落ち着けフィオナ」
言わなくてもいい弁明をするフィオナをなだめているワシに……。
「この後、お時間をいただけますでしょうか?」
メアリは真剣な目つきで声をかけてきた。
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