「冒険の書三百十六:チェルチは気づいてしまった」
~~~チェルチ視点~~~
「魔族って、めちゃめちゃ長生きじゃないっ? 伝説級の悪魔になれたら、それこそエルフよりも長く生きれるんでしょっ? だったらチェルチちゃんがディアナちゃんの傍にいてくれればいいんだよっ。わたしの代わりにディアナちゃんと一緒に生きて、戦って、冒険して、時には相談に乗ってくれればいいんだよっ。わたしの代わりに、ディアナちゃんのことを愛してくれればいいんだよっ。……ってあ、言っちゃったっ」
ルルカが慌てて口元を抑えたのは、たぶん愛がどうちゃらこうちゃらに対してのものだろう。
つまりこのバカは、未だに隠せてると思ってるんだ。
あたいにはもちろん、他の誰にもバレてないと思ってるんだ。
なにをって、自分の気持ちを。
ディアナに対するどうちゃらこうちゃらを。
だけどまあ、そんなことはあり得ないわけで……。
こんだけあからさまな態度をしといて、言葉や表情にも明白に表れてて……。
そんなの、気づくなってほうが無理な話だろ。
「ハア~……」
あたいはため息をついた。
ちょうどいい機会だから、この大バカにこれ以上ないほどわかりやすい言葉で伝えてやることにした。
「……あのさ。おまえのディアナへの気持ちとか、最初から筒抜けだから。筒というよりもはやバケツ……ううん、タライぐらいの大きさでバレバレだから。知らない奴とかいないから」
「ええええぇ~っ⁉ ホントにいぃぃぃ~っ⁉」
両手をパタパタさせて驚くルルカ。
こいつ、本気で気づいてなかったんだなあ~……ハア~……。
「……てかさ、おまえ勘違いしてんだよ」
「え? なにを?」
「おまえが死んでからもディアナと一緒にいるってことに異存はないよ。あたいが伝説級の悪魔になれるかどうかは別として、あたい以外に適任者がいないのもたしかだからな。でもさ、別にあ、あああ愛する必要はないわけじゃんっ? ただの友達としてディアナの傍にいるだけでもいいわけじゃんっ?」
なぜだろう、声が上ずってしまうあたいにルルカは……。
「それはいいけどでも……チェルチちゃんって、ディアナちゃんのこと好きだよね?」
心底不思議そうな顔で、とんでもないことを言いやがった。
「……は?」
「いやいやだって、これ以上ないほどあからさまじゃない。今のリアクションもそうだけどさ。ディアナちゃんがいると嬉しそうにするし、いないと寂しそうにするし。食欲もそれに同調してるし。ねえ、気づいてる? ディアナちゃんが傍にいる時のチェルチちゃん、いつもの倍も食べるんだよ? 体も正直でさっ。大好きな人が傍にいて嬉しいよ~っ、尻尾がピコピコ止まんないよ~っ、ああもう楽しすぎて幸せすぎてお腹減っちゃったあ~っ、そおぉ~れパクパクパクパク~って感じでさ」
……………………。
………………。
…………。
……ハア~?
「ハアアア~? や、その……おまえちょっとなに言って……ちょっとさあ~……?」
あたいは困った。
とにかく困った。
だってこんなの、想定してなかったから。
ルルカ如きにまさか自分の本心を言い当てられるとは……っていやいやいや! 違う違うそうじゃない!
あいつのことなんてなんとも思ってない!
そもそもあんな脳筋女を好きになるわけなんかないだろうが!
「あ、ああああたいは別に、あいつのことなんか好きじゃないし……っ」
だけど、上手く反論はできなかった。
言葉を重ねようとすればするほどに声が上擦る。
冷静でいようとすればするほどに頬が赤くなる。
尻尾の先が、火でもついたみたいに熱くなる。
ああクソ……バカみたいな話だけどさ。
ルルカの奴にパチンとスイッチを押されたせいで、自分の中の『思い出の箱』が開いちまったみたいだ。
箱の中に入ってたのは、あいつとの思い出だ。
共に死線を乗り越えて、時に助けられて、一緒に喰って一緒に寝て一緒に風呂に入って。
大きなものから小さなものまでさまざまな思い出が、ドバッとばかりにあふれてきちまった。
そしてその思い出にはさ、『好き』って言葉がくっついてんだ。
大量のハートマークも一緒にくっついててさ、脳内を埋め尽くしていくんだ。
「ええ~そう? おかしいなあ~。『恋する乙女検定一級』のわたしの見立ては間違ってないはずなんだけどなあ~……? チェルチちゃんの目つきとか頬の紅潮具合とか尻尾の張り具合とか、色々普段と違ってるんだけどなあ~……?」
「なんだその謎検定は! ってかもうやめろ! やめろおまえはあああぁ~っ!」
みんなの目もあるし、そう遠くない距離にディアナ本人もいる。
騒ぎに気づいたんだろう、こっちを不思議そうな目で見てる。
ディアナの目が、あたいを見てる。
「うわあああああ~っ!」
さすがにこれ以上好き放題に喋らせておくわけにはいかなくなったあたいは、拳を振り上げてルルカを追いかけた。
もちろん殴るつもりなんかないぞ?
これ以上おかしな噂を広められないためだ。
この世で最強の恋愛種族たる『誘惑する悪魔』であるあたいがエルフに、しかもよりにもよって女に惚れたなんてデマを、まかり間違っても広められるわけにはいかないからだ。
「待て待てルルカあ~!」
「わあぁぁ~ん、ごめんなさいチェルチちゃあ~ん! たとえホントだとしても言うべきじゃなかったよね! ごめんね空気が読めなくてえ~!」
「バッ……おまえホントに空気読む気あるのかっ⁉」
頭を抱えて逃げまわるルルカはこんな時に限って俊敏で、普段だったらつまずいて転ぶだろう木の根も石も、ひょいひょいと飛び越えていく。
一方あたいは動揺のあまり何度もつまずいて、たまに転んだりもして。
結果的に同レベルにまで落ちた追いかけっこは、いつまでも続いた。
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