「冒険の書三百十:フィオナ探検隊②」
さて、メアリの案内のもと『翠星宮』探検に出かけたワシら『フィオナ探検隊』だが、まず目にしたのは『星見の塔』。
翠星宮の中でも一番高いところにある塔で、物見やぐらであると同時に占星術のために夜空の星を見る役目も兼ねている。
今は昼なので、もちろん星は見えない。
一方で相当な高所にあるため眺めはかなりよい。加えて……。
「ふうむ……ドワーフの建築に比べると劣るが、なかなか悪くはないな」
(ドワーフの意地を見せるのやめなさい。普通にすごい、でいいでしょ?)
風に吹かれながらぶつぶつつぶやくワシに、フィオナがツッコんできた。
「……ふん、まあ認めてやろう。エルフにしてはこれはなかなか、すごい建物だ」
しぶしぶながらも、ワシは認めた。
翠星宮の大きさは大陸最大規模であるハイドラ王国の王城である『蒼鱗城』の優に五倍。
主な建材である世界樹や月光石はどちらも非常に硬く、加工がしづらいことで有名で……。
「いやはや……土人形という体力無限の労役者がいるとはいえ、どれほどの年月がかかったことか……」
(えっと、たしか五百年はかかったって言ってたかな……)
「五百年んんん……っ?」
悠久の時を生きるエルフだから許されることではあるにしても、とんでもない時間のかけ方だ。
長命種のドワーフであっても、ひとりの人生そのものが終わるほどの期間だぞ。
+ + +
探検隊が次に向かったのは、翠星宮の脇にある角ばった建物だ。
建物自体巨大だが、入り口もまた広い。
複数の巨人が同時に出入りできそうなほどの巨大さだなと思っていたら……。
「皆さま、こちらが『ゴーレム操作場』でございます。土木建築に拠点防衛などさまざまな仕事を受け持つゴーレムを格納しておく他、メンテナンスなども同時に行います」
メアリの解説によるならば、非力なエルフの代わりに肉体労働を行うゴーレムたちの格納庫兼調整場であるらしい。
「おお~、おるわおるわ。土だけではなく木や鉄やミスリルのゴーレムもおるのか」
ひょいと覗いてみると、壁際に鉄製の架台があり、そのひとつひとつにゴーレムが納まっている。
一番多いのが土製で、木・鉄・ミスリルの順に少なくなる。
「状況次第で使い分けております。単純労働が土。高所や狭所での作業は軽い木。鉄は戦闘用で、ミスリルには対魔術師用の結界が内臓されています」
「ほおおお~? では、今回の戦闘においてもさぞや役に立ったのだろうな?」
ワシの質問に、メアリは少し苦い顔。
「それがその……ダークエルフの一党に占拠されてしまい……。恥ずかしながら一機も動かすことができず……」
「なるほど、真っ先に叩かれたか。国防の要だから当たり前だが……守備兵はおらんかったのか?」
「前国王のご指示で減らしておりました。『こんなとこ誰も攻めてくるわけないだろ。少しでも人員を減らしてその分を僕のために使えよ』とのことで遊興費に消えまして……」
「あんのバカはあぁぁぁ~……」
ワシは頭を抱えた。
自分の使っている体にそんなバカ親の血が流れていると思うと腹立たしくなってくる。
(ホントに最低だよね。今すぐ死ぬべき)
実の娘もお怒りのようで、ぶちぶちと文句を垂れている。
「まあそのぶん、現在進行形で罰は受けてもらっていますが……」
「……現在進行形で?」
意味ありげなセリフを吐いたメアリの視線を追うと……。
「あ、いた」
翠星宮の修復をする作業員たちの中に、ヘリオンの姿があった。
麻の囚人服のようなものを着せられ、瓦礫を四苦八苦しながら一輪車に乗せている。
周りの作業員たちはヘリオンの元部下であり、これまた重い木材を数人がかりで縄で引いている。
(ねえガルム、石投げて石)
「やめとけやめとけ。気持ちはわかるが、なんならワシも、助走をつけて飛び蹴りかましてやりたい気持ちだが、作業に支障が出るのはまずかろう」
エルフヘイムの権威の象徴たる翠星宮の復旧が急務なのは間違いないしな。
+ + +
憤るフィオナをなだめつつ、次に向かったのはペガサス厩舎だ。
翠星宮の裏側にある大きな厩舎の中に無数の馬房があり、ひとつひとつに美しい羽根を持つ白いペガサスたちが繋がれていた。
「おお、ずいぶん懐いておるな」
ワシが厩舎に入ると、ペガサスたちが一斉に反応した。
それぞれが馬房から首を伸ばし、盛んにワシに鼻を擦りつけてくる。
「姫さまはよく授業をサボり、ここで遊んでおられましたからね。ペガサスたちにとってはひさしぶりの友人との再会、といったところなのでしょう」
「う゛……そ、そうだったかのう。忘れたのう~」
口笛を吹いて誤魔化していると……。
「キャー! キャー!」
聞き覚えのある鳴き声だな、と思ったらワイ助だった。
「なんだおまえ、姿が見えぬと思ったらここに繋がれておったのか」
「キャ~……♡」
ペガサスたちの中に混じるのはさすがに辛かったのだろう、ワイ助は嬉しそうにワシに頭を擦りつけてくる。
「さすがにここにいるのは辛いだろうな。のうメアリ、なんとかならんか?」
「姫さまがおっしゃるのであれば……しかし、本当に野放しにして大丈夫なのですか? ワイバーンですよワイバーン」
「大丈夫だ。ほれこの通り、こいつはワシの友人だから」
もう離れたくないのだろう、ワイ助は尻尾をワシの体に巻きつけてくる。
「さすがに部屋には入れられんが、近くの木の上か軒下にいさせてやってくれ。絶対に人に危害は加えさせんから」
「キャー! キャー!」
そうだそうだ、とばかりに鳴き声を上げるワイ助。
「しかたありませんねえ……」
主人のお願いとあっては逆らうわけにもいかんのだろう。
メアリはしぶしぶうなずいた。
「それでは馬番たちに伝えておきます。そしてこの後の予定ですが……」
メアリの口から出た言葉に、ルルカとチェルチが「う゛っ……」と嫌そうにつぶやいた。
「少し翠星宮からは離れますが、犯罪者を捕らえておく『鳥かご』となります。例のダークエルフの一党を捕らえておりまして、そろそろイールギットさまの尋問が終わる頃かと……」
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