「冒険の書三百九:フィオナ探検隊①」
朝食を済ませたワシらは、メイドたちの着替え部屋に通された。
いったい何をさせられるのかと思って身構えていたら、探検ごっこ用の制服を着させられた。
制服といってもそれほど大げさなものではない。
若草色の半袖シャツと短パンと帽子の三つ揃えで、かつてフィオナが旅の行商人から購入し好んで着ていたものが、フィオナ大好きフィオナ信者向けのファングッズ(エルフ族にもルルカやベルトラみたいな奴らがいるようだ……)として製作され定着したものらしい。
「帽子はともかくとして、手足の露出が多いのは純粋に探検に向かない気がするのだが……これでいいのか?」
(旅の行商人が言ってたんだけど、これが遥か東方の島国の文化なんだって。みんなでお揃いの動きやすい制服を着て、隊長の名前のついた探検隊名を名乗るのが流儀なんだって)
「……なるほど? それではさしずめ『フィオナ探検隊』といったところかのう」
旅の行商人という情報源は実に怪しいが、しょせんはごっこ遊びの範疇だ。
それほど問題にするほどのものでもあるまい。
「ま、揃いの制服を着ることで団結感が増す、といった効果もあるだろうしな」
ルルカやチェルチたちも特に文句はないようだ。
むしろルルカにいたっては、短パンから覗くワシの太ももを見て「ハアハア……ディアナちゃんの真っ白太もも……美味しそう……」などと怪しげな発言をしているしな。
「ワシの裸ぐらい見慣れているだろうに、なにを今さら……」
いつも通りのルルカの異常興奮にため息をついているところへ、メアリがやって来た。
「姫さま、お待たせいたしました」
メアリも探検ごっこ用の制服を着ているが、手足がスラリと長いため格好よく見える。
(わ、懐かしいっ。やっぱりメアリ似合ってるっ)
フィオナは嬉しそうに歓声を上げた。
(ね? ね? ガルム。メアリってば大人の女感があってカッコいいでしょ?)
「ああ、まあな」
こういったことには疎いワシですらもわかるほどに、メアリは美しく颯爽として見える。
(ねえガルム、褒めてよ。メアリのこと褒めてやってっ)
「ええ~……?」
(さっき言ったでしょ、わたしの代わりに気持ちを伝えてくれるって)
「たしかに言ったが……」
ものには限度があるというか、ドワーフの男がエルフの女の美醜をどうこう言うのは……。
アレスではあるまいし、ちょっとチャラすぎるというか……。
(約束、約束でしょっ。ねえ、約束ぅ~っ)
「わかった、わかったからそう騒ぐな」
断固として譲らぬとばかりに耳元で騒ぐフィオナに、ワシは全面降伏。
ゴホンと咳払いすると……。
「メアリよ。その……なかなか似合っておるではないか。普段のメイド姿が悪いわけではないが、開放的な感じがあって……実にイイ、と、思う……」
ぼそぼそ、ぼそぼそ。
実に男らしくない口調になってしまったが、約束は果たした。
「どうだ、これでよかろうが?」
(んん~……四十点かな~。もうちょっと可愛らしい言葉で褒めたほうが喜ぶんじゃないかな~……)
フィオナの採点はずいぶんと辛いが……。
「ふん、最低限とはいえ約束は果たしたからな。ワシはこれ以上褒める気はな……んん?」
メアリの様子がおかしい。
そっぽを向いたままこちらを見ようとしないし、長い耳がピコピコと上下に揺れている。
よく見れば、わずかに顔が赤い気も……?
「イイ……ですか。なるほど、そうですか……」
ぼそぼそ、ぼそぼそ。
冷静で強気な普段の様子からは考えられないほどの小声で、何事かをつぶやいている。
(あ、なんか効いてるみたい)
「まあ喜んでもらえているのならよかったが……」
ワシとメアリのやり取りを聞いていたのだろうルルカとチェルチが騒ぎ出した。
「うわあああ~! ディ、ディ、ディアナちゃんが人の容姿を褒めた!」
「ウソだろ……? あの戦いにしか興味のない戦闘狂が……?」
「やっぱり同族のほうがいいのかな⁉ それともスラッとした大人の女性が好きなのかな!? ねえチェルチちゃんどう思う⁉」
「あ、あたいに聞くな! そもそもあたいはディアナのことなんかどうとも思ってないし!」
「え? わたし別に、チェルチちゃんがディアナちゃんをどう思ってるかと聞いてるわけじゃないんだけど? ディアナちゃんの好みがどんな感じかを聞いてるだけだけど?」
「わああああああ~! うるさいうるさいうるさ~! 誤解するような聞き方すんなああああ~っ!」
何やらギャアギャアと騒いでいる。
「……なんだか、あれには巻き添えを喰らわんほうがいい気がするな」
面倒くさそうな雰囲気を感じ取ったワシは、これ以上この問題に口を挟まないことに決めた。
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