「冒険の書三百五:見覚えのある部屋」
戦勝式典が終わり、論功行賞が行われ、ワシの今後の活動指針が固まった。
自室に戻った時には、すっかり真夜中になっていた。
自室というのはもちろんワシのではなく、フィオナの自室だ。
王宮の奥まったところにある、しだれ柳が風に揺れる音が聞こえる部屋。
どこか、あの庵に似ているなと思った。
ドロガロンとの激闘の末に滝つぼに落ちたワシとマリアベルがやっとのことでたどり着いた、崖の途中にあった『フィオナとピピの部屋』に。
もちろんだが、建築そのものは似ていない。
エルフ族の王宮だから素材は世界樹だし、造りもしっかり。
広さも、人族の家一軒ぐらいはあるだろう。
だが、中身が非常によく似ていた。
大きなチェストには『いい感じの木の枝』や、『金っぽく見えるただの黄鉄鉱』などのガラクタが無数に詰め込まれている。
棚には人族の市場で手に入れたのだろう『怪しげな魔術書』や『怪しげな宝の地図』がはみ出さんばかりに詰め込まれている。
そのいずれにも古エルフ語で『何人たりとも触れるべからず。触れた者には世界樹の怒りが下るであろう』などと幼稚な警句の記された木の板がぶら下げられている。
「……なんというか、実に落ち着くたたずまいだのう」
(でしょでしょ? わたしの自慢の部屋なの。あんたけっこう、話がわかるじゃないっ)
自分の部屋を褒められたと思ったのだろう、急にご機嫌になるフィオナ。
(ちなみにロフトには『竜殺しの魔剣』とか『亜神砕きの戦鎚』とかもあるのっ。あとで見せてあげるねっ)
「本物だったらすごいことだが……」
(絶対本物っ。流れの商人が特別にって言って格安で譲ってくれたんだから間違いないっ)
「……」
流れの商人が小金持ちのエルフの娘を騙くらかしてガラクタを売りつけたのだと気づいたが、さすがにそれは言わないでおいてやろう。
子どもの夢は美しいままにしておいてやるのが大人の役目だ。
(うんうん、一年も留守にしてたわりには綺麗ね。メアリが掃除してくれてたのかな。……あ、メアリっていうのはわたしのお付きのメイドでね。超~~~しごできお姉さんなのっ。いつだったかわたしが凍える雨の夜に冒険から戻ってきたらストーブが焚かれてて、テーブルの上にはストーブで温めてすぐに食べられるようにした紅茶入りのポットとシチュー入りのお鍋が置かれててね……っ)
ひさしぶりに自室に戻れたことで興奮しているのだろう、フィオナはべらべらと喋りまくる。
懐いた犬がそうするみたいに、右から左から話しかけてくる。
「わかったわかった。その話は明日聞いてやるから」
(ええぇ~? なんでよ、これからがいいとこなのに~っ)
まだ喋り足りないのだろう、フィオナは不満そうだが……。
「ワシはもう眠いのだ、寝る」
(はああ~っ⁉)
「あのな、こちとらハイドラ王国を出てからろくに休みもせずに戦い続けてきたのだぞ。おまけに最後はエルフどもの前で話したり、論功行賞に官職にと気疲れすることばかり。さすがにもう限界なのだ、寝る」
(はああああ~っ⁉)
壁際に設置されたベッドに寝っ転がると、フィオナはさらに大きな悲鳴を上げた。
(もう寝るとかあり得ないでしょっ、ちょっとっ!)
ギャアギャアギャアギャア耳元で騒ぎ続けるが、それよりワシの眠気の方が勝った。
ハイドラ王国を旅立ってからひと月半分の疲れがどっと押し寄せてきて、目を閉じて数秒後には深い眠りに落ちていた。
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