「冒険の書三百一:退位と除籍と強制労働と」
「皆の気持ちはよくわかる。ワタシも同じ気持ちだ。つける薬もないバカにはそれ相応の罰があって然るべきだ。と、いうわけで――」
イールギットは冷たい目でヘリオンを見つめると、ズバッと言った。
「おまえには国王を退位してもらう」
「………………え?」
この事態をまったく想定していなかったのだろう、目を丸くして驚くヘリオン。
「王族からも除籍、ただの民間人となってもらう」
「え? え? え? 大祖父さま……ちょっと?」
「今まで密かに蓄財してきた資産を持ち出すことも許さんぞ。身ひとつで王宮を出て、国土復興のための肉体労働に従事してもらう」
「ちょっとちょっとちょっと!? それはないんじゃない大祖父さま!?」
さすがに洒落にならんと思ったのだろう、ヘリオンはイールギットに迫る。
「というか、なんの権限があって退位しろだなんて言うのさ!? 僕は国王だよ!? この国で一番偉いんだよ!?」
「では、皆にこれを聞いてもらおうか」
イールギットは懐から水晶玉を取り出した。
「え、なにそれ? なんなの?」
「これは『記憶の水晶』だ。古代文明の頃より伝わる『魔導工芸品』でな。人の短期間記憶を映し出すことができるものだ。ちなみにこれは、先ほどワタシが見聞きした光景だが――」
記憶の水晶から漏れ出した緑色の光が、空中に映像を映し出した。
『大祖父さま! 助けてくれ! 僕はイヤだ! こんな珠のために命を捨てるなんて、まっぴらごめんだ!』
いきなりアップで映し出されたのは、涙を流し鼻水を垂らし、子どものように泣き叫び命乞いをしてくるヘリオンの顔だった。
『……世界樹を失えば、ワタシたちもまた滅びるのだぞ? 自分だけでなく、国民全員が路頭に迷うのだぞ? わかった上で言っているのか?』
背景からして、翠星珠を巡る攻防の最中らしい。
怒りと呆れをにじませた声で、イールギットがヘリオンを諭しているが……。
『わかってるよ! でも死ぬのはイヤだもん! なあ~、世界樹だったらその辺を歩いてる苗木でも育てて、大きくなるのを待てばいいじゃん! 多少不自由でも、エルフは長生きだから待てるだろ⁉ なあ頼むよ! なんでもするから! 心を入れ替えて! 真面目に勉強して! 立派な王さまになるからさ! お願いだから見捨てないでくれ! 世界樹よりも僕を選んでくれえぇぇ~っ!』
呆れるほどにひどいヘリオンの言葉を最後に、映像はブツリと途絶えた。
「……は? 今の僕? さっきの……え、なんで?」
ヘリオンが硬直し、イールギットが静かにかぶりを振った。
その直後だった。
あまりにも愚かな国王の姿に、観客たちの怒りが頂点に達した。
「おいふざけるな! 我が身かわいさで翠星珠を見捨てようとしたのか⁉」
「多少不自由でもって……わたしたちが路頭に迷ってもいいってこと!?」
「国王だろ⁉ おまえ国王なんだろ⁉」
「もういい! 殺せ! ぶっ殺せ!」
一触即発。
暴動が起きそうになったのに気づいたヘリオンが、慌てて頭を下げた。
「わあああ~!? わかった! わかった! わかった! 国王辞める! 辞めるから許してくれ! 殺さないで!」
それでも足りないと気づいたのだろう、その場に土下座した。
「金もいらない! 女もいらない! 肉体労働もするから! 家もいらないし、なんだったら森に住むから! 戦いで傷ついた木々の再生にも協力するから! だから頼む! 命だけはあぁあぁぁ~っ!」
まだ納得いかない一部の観客がヘリオンに物を投げつけているが、殺すところまではいかなそうだ。
「……なるほどなあ、たいしたものだ」
ワシは思わず感心した。
「国王自らが退位を決めたのだから、権限どうこうなど意味がなくなったというわけだ。というか、ここに至るまでのすべてが仕込みだったのだな? ヘリオンの失言を誘い出したところへあらかじめ用意しておいた証拠映像を叩きつけた。さすがはイールギット、といったところだな」
結果として、ヘリオンはすべてを失い民間人となる。
死ぬまで肉体労働を行い、国のために奉仕することになる。
「落としどころとしても、ちょうどよさそうだしな」
(そ~お? 正直、処刑でも生温いと思うけど……)
裁きに不満なのだろう、フィオナはなおもぶちぶちとつぶやいている。
一方、本来ならば孫を抱いていてもおかしくない年齢の男としてはわからんでもない。
「どんなバカでも孫は孫、殺すまではしたくなかったのだろう」
(ええぇ~?)
ワシらがそんなやり取りをしている間にも、イールギットはテキパキと話しを進めていく。
話の内容は国王を失ったエルフヘイムの今後、そして『闇の軍団』という大敵を退けた皆に対する褒賞についてだ。
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