「冒険の書二百八十七:VSロック鳥!②」
「では行くぞ、ロック鳥よ――ここからが本番、白兵戦の始まりだ」
ワイ助から飛び降りるなり、三叉矛をロック鳥の背に突き立てた。
引き抜き、突き刺し、引き抜き、突き刺した。
羽根のつけ根に、首筋に連続で、ザクザクと刺し込み続けた。
しかしそれでも、ロック鳥は止まらない。
さすがに邪魔くさく感じたのだろう体を左右に揺すり出したが、動きを止めるまでには至らなかった。
「これでもダメか? ならば……これでどうだっ!」
一歩、二歩、三歩。
大股で助走をつけると、宙を跳んだ。
軽業師がやるように空中で体を捻ると、頭を下にして錐もみ状に回転しながら落下した。
「ドラゴ砕術――『回転竜巻落とし』!」
この世に武器術は数あれど、『真下への攻撃』まで想定したものは少ない。
そんな状況が想定されていないから当たり前だが、『自分より強い敵を何としてでも屠ること』を基本理念としているドラゴ砕術にはあるのだ。
空中で体を捻って錐もみ状に回転し、竜巻の如き勢いで落下する。
自重に回転の勢いを上乗せ、一点突破で敵の急所を割る術だ。
――ギュルウウウウンッ!
はたして、効果はあった。
三叉矛が首筋の肉を抉った。
抉りすぎて穂が見えなくなり、柄の一部まで見えなくなるほどに深々と。
これはさすがに効いたのだろう、ロック鳥が悲鳴を上げた。
首を巡らし、ワシに目を向けると……。
「……キサマハ、ディアナ? ナゼ、ココニ……?」
「おまえ……喋れるのかっ?」
驚いたのは、人の言葉を話したこと。
そして、ワシをディアナだと認識していること……んんん?
というか、こいつ……もしかして?
「その目……光のない黒々とした、闇の塊のような目……。さらにワシをディアナと認識している……。おまえ……ドロガロンだな?」
証拠は薄い、ほぼ勘だ。
だが、当たっているという自信はあった。
なにせ一度は胃の腑にまで入り込んで戦った相手だ。独特の匂いというか、肌感を感じる。
「……ソウダ。カラダヲ、ウバウタメ、コイツニ、クワレタ」
勘は当たっていた。
ロック鳥は、自らがドロガロンであることを認めた。
「腹をすかしてイタ、みたいだかラナ。ちょうド、よかっタ」
喋り慣れてきたのだろうか、言葉がドンドンと明瞭になっていく。
ロック鳥の声帯を使っているのにもかかわらず、もはやほとんど人と変わらない。
「中に入ってしまえば、あとは簡単だった。隙を見計らって『真なる言葉』を発し、おバカなこいつの脳を塗り替えるだけだ」
「またも『竜語魔術』で転生したというのか、なんと器用な真似を……」
状況を想像するなら、こういうことだろう。
ワシに手傷を負わされ逃亡したドロガロンに、魔物どもが襲いかかった。
半死半生となったドロガロンを見つけたのが、『闇の軍団』の命令を受け飛来したロック鳥だった。
長旅を強いられたロック鳥は、極度に腹をすかしていて……。
「見た目は『いい感じに弱ったエルフ』に見えたから、ご馳走だと思ったのだろうな。だが、実際には最悪の寄生生物だったというわけだ」
「前の体は、失敗だった。頭は良かったが、脆弱すぎた」
「今度は違うぞ、とでも言いたげだな?」
「試してみるか?」
「いや、試すまでもなかろう。だって、もう勝負はついとるもん」
「……は?」
「ロック鳥の身体構造的にも、この位置にいるワシへは攻撃できんだろうし、それにそもそも……」
「何を言ってる……?」
ワシの勝利宣言を聞いたドロガロンは、間の抜けた言葉を発し続ける。
「論より証拠だ。おいフィオナ、『水流爆砲』と叫べ」
(え、なに急に? ってか、ロック鳥と知り合いなのどうしてよ? なんか説明とかないの?)
「説明は後でする。いいから早くしろ」
(わかったわよ……じゃあはい、『水流爆砲』っ)
――ズバァァァァァァァン……ッ!
フィオナが『力ある言葉』を唱えた瞬間、三叉矛の先端から超高圧の水流が噴き出した。
以前にマリアベルに撃たせた時とはまったく違う、三叉矛の元々の魔力にフィオナの魔力をかけ合わせたことによって生じた超々強力な水流が、刃のように荒れ狂った。
ドロガロンの首筋で、生存に不可欠な器官の集中する頚椎の近くで、嵐のように。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……っ!?」
これは効いた、さすがに効いた。
狂乱状態となり嘴から泡を噴いたドロガロンが、飛行制御を乱した。
乱しすぎて物凄い勢いで滑空を始め、翠星宮の屋根を突き破って落ちていく。
「ちょ……おまっ!? 落ち着け落ち着け落ち着け!?」
(ここまでやっておいて落ち着けは無理があるでしょ!)
「それはそうだが……!」
――ガンッ! ゴゴゴゴゴゴゴンッ!
辺り構わず当たり散らすドロガロン。
混乱と痛みのあまりだろう、ともかくあらゆるものにぶつかり続ける。
「このままだと……!」
堪らずワシは身を伏せた。
ドロガロンの体当たりによって生じた瓦礫を避けながら、前を見据えた。
ドロガロンはすでに、翠星宮の内部に侵入していた。
事前に聞いていたフィオナの説明通りだと……。
「このままだと王の間に達してしまうのではないか!? 下手をするとそのまま世界樹へ……翠星珠へと突撃してしまうのではないか!?」
(うん……だけどどうすればいいのっ!? ワイ助みたいに手綱を引いてなんとかならないのっ⁉)
「そんなものあるように見えるか!?」
(見えないけど……愚か者には見えないだけかもしれないでしょ!? 人族に伝わるなんだっけ……裸の王様みたいな!?)
「それけっきょく、実際には存在しないってオチだろうが!」
(冷静にツッコむのやめて!?)
とはいえ、おとぎ話にすがりつきたくなる気持ちもわかる。
せっかくここまで来たのに、ドロガロンの混乱のせいで翠星珠を失うのは、ピピたちの頑張りを無に帰すのはバカらしすぎる。
「ええい……いったいどうすればっ!?」
「ディアナちゃん!」
聞き覚えのある声だな、と思ったらルルカだった。
王の間の奥に、チェルチやルシアンと共にいる。
こちらを見て、嬉しそうに叫んでいる。
「再会を喜んどる場合じゃないぞ! そこをどけ! 今すぐ逃げろ!」
叫びはしたが、かといってどうにかなるものでもない。
それほどにドロガロンの滑空速度は速く、体はデカく、彼我の距離は縮まっていた。
「キャー!」
「ワイ助!? ピンチだと思って駆けつけてくれたのか!?」
ふと横を見ると、さっき別れたはずのワイ助が肩を並べるように飛んでいる。
飛び交う瓦礫を必死に回避しながら、こちらに身を寄せてくる。
くいくい盛んに首を振って、こっちへ飛び乗れというのだろうが……。
「そいつは助かる……助かるが、根本的な解決にはなってない! このままだと皆を轢き殺してしまうのだ!」
切羽詰まったワシは、何かないかと首を巡らせた。
あちこちに目を走らせ、解法を探した。
「他に誰がいる……? ルシアン……光の剣でもこいつは無理だっ。ヴァネッサにギイ? 黒糸や大剣でもどうにもならんっ。このデカさと重さと勢いは止められん……っ。ルルカの結界術でもどうか……っ」
絶望が脳裏をよぎった、瞬間――そいつの顔が見えた。
白髪の、男のエルフ。
白色のローブに身を包み、白木の杖を携えた絶世の美男子。
一方で年齢は五千歳を超え、この世のありとあらゆる魔術を使いこなす。
誰もが認める『世界最強の魔術師』。
そしてワシの、かつての仲間。
そうだ、こいつなら……!
「イィィィィィィィィィルギット!」
ワシは叫んだ、思い切り。
「合わせろ! 『天地返し』だ!」
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