「冒険の書二百八十六:VSロック鳥!」
あと少しで王の間にたどり着くだろうというところでしかし、最大の問題が立ちはだかった。
ロック鳥だ。
下手な竜種よりも遥かにデカい巨鳥が、翠星宮に向けて火の球を吐き出しているのだ。
しかも三流の魔術師が放つような拳大のものではなく、一流の魔術師でも難しいような人間サイズのものを連発しているのだ。
――ドガンドガン……ドガガガガンッ!
火の球が炸裂するたびに凄まじい轟音が上がり、そのつど翠星宮の外壁が崩れていく。
建材に引火した火が、ロック鳥の羽根の起こした風によって燃え広がっていく。
「いかん……これではあっという間に大火事だ!」
(なんとかして! なんとかしなさいガルム! このままじゃわたしのおうちが燃えちゃう!)
「わかっとるわい! 行くぞワイ助!」
「キャー!」
手綱を引いて横腹を蹴飛ばすと、ワイ助は素早く浮上を開始した。
「ロック鳥に突撃するとか頭おかしいのかご主人?」というような顔はしていたが、それよりワシの拳のほうが恐ろしかったのだろう。素直に従い、ロック鳥の背後をとってくれた。
当たり前だが、空中戦においては後ろをとったほうが有利だ。
相手が反撃できないのをいいことに、こっちは好き放題攻撃できる。
さらにワシには飛び道具がある。
こんなこともあろうかと用意しておいた大量の小石をピンピンと、指で弾いて飛ばしまくった。
――ドガガガガガガガッ!
オルグの頭蓋骨でも粉砕できるだろう強烈なのを、まとめて七発。
狙いは首筋と羽根のつけ根など、痛覚の集中していそうなところを徹底的に。
しかしロック鳥は微動だにしない。
構わず火の球を吐き続け、翠星宮を攻撃し続ける。
「むっ……さすがだな。こいつを喰らって小動もせんとは……。うぬぬ、他にどこか弱点はないのか……っ?」
ワイ助にロック鳥の周りを飛ばせて弱点を探るが、なかなか良さそうなところが見つけられない。
「正面に回り込んで顔面を撃てばさすがに効くだろうが……自ら背後をとらせにいくのはさすがにまずいか……」
やきもきしているところへ、フィオナが言ってきた。
(見て、あいつ目の色が変。何かの状態異常にかかってるんじゃない?)
普段は澄んだ青色をしているはずのロック鳥の瞳が、黒々とした闇の塊のようになっている。
「ああ……たしかに」
もしフィオナの読み通りなら、痛覚の薄さもうなずける。
巨体のせいではなく状態異常のせいだったとすれば、納得だ。
「ロック鳥ほどの存在が影響を受ける状態異常など想像もつかんが……いずれにしても、無理やりでも意識を断ち切る必要があるというわけだな。脳から肉体への意志の伝達を断ち切らねばならんと。なるほど、なるほど、そうゆーことならしかたないのう~」
(……あ、なんか変なこと考えてそう)
口の端を歪めてニヤつくワシの腹の内を見抜いたのだろう、フィオナがボソリとつぶやく。
「別に変なことではないぞ。ほら、海賊船退治と同じ要領だ。遠距離武器の撃ち合いをした後には接舷して白兵戦をするものだろう? 弱った相手を実力でもって制圧するものだろう?」
(要はあいつに飛び移ろうってこと? やっぱり変なことじゃない……)
ワシの提案に最初は難色を示していたフィオナだが……。
(……まあでも、結果的におうちが救えればそれでいいか。よし、そうと決まったらやんなさいガルムっ。ゴーゴーよっ。どっちに正義があるかをわからせてやんなさいっ)
我が家のピンチを救いたい気持ちが勝ったのだろう、珍しく背中を押してくれた。
「わかったわかった……しかしそうか、そうなると、おまえとはここでお別れかの」
ワシはワイ助の肩を叩いた。
「ワイ助、ここまでよくやってくれた! よい飛びっぷりであったぞ!」
ここまで運んでくれたことに対して、最大限の感謝を示した。
ワイ助の首に頬ずりし、頭をわしゃわしゃと撫でまくった。
「だが、ここまででいいぞ! あとは好きに生きろ! 翼の赴くままに自由に! 生きたいように生きるのだ! 再びダークエルフの手駒などにされぬよう気をつけろよ!」
乗ってから気づいたことだが、ワイ助の体には無数の傷があった。
ダークエルフどもが暴力でいうことを聞かせていたのだろう、鞭で打たれたり、火で焙ったり、槍で刺したような傷もあった。傷の一部は化膿していた。
人ならぬ魔物とはいえ、あまりに不憫だ。
「のうフィオナ、治癒の術は使えんか?」
(あんま得意じゃないけど……水の精霊術で多少は? え……もしかしてワイ助の傷を治せっていうの? ウソでしょ?)
そんなことしてる暇じゃないだろうと不満そうな声を出すフィオナだが。
「一宿一飯の恩、ならぬ一乗の恩だ。危険を承知でワシらをここまで運んでくれたことに対する、ささやかな礼だ」
(ふうん……まあいいけど。はい『水の乙女の口づけ』)
フィオナが術を唱えると体の透き通った水の乙女が現れ、ワイ助の傷口に口づけをした。
古い傷はさすがに治らなかったが、化膿した傷口がシュワシュワ白い泡に包まれた。
泡が消えた時には傷口は綺麗に洗われ、うっすらと薄皮が張っていた。
傷が治ったことが嬉しいのだろう、ワイ助はキャアキャアと楽し気に鳴いた。
「うむ、いい声だ! あとはせいぜい、養生するがいい! それではな、ワイ助!」
最後にワイ助の頭をひと撫ですると、ワシは手もとに『海神の怒り』を呼び寄せた。
そのままひらりと飛び降りた。
強い風を体いっぱいに浴びながら、ニヤリ口元を歪ませた。
「では行くぞ、ロック鳥よ――ここからが本番、白兵戦の始まりだ」
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