「冒険の書二百八十五:ディアナ、空を飛ぶ」
マリアベルとルチルナを『大外壁』に残し指揮をとらせることにしたワシは、地面に飛び降りるなりそのまま駆けた。
エルフヘイム特有の地形である樹と樹の間をつなぐ吊り橋を走り、吊り橋から吊り橋へ跳び。
時には木の枝そのもの登り、枝から枝へと跳び。
とにかく全速力で駆け続けた。
フィオナが道案内をしてくれるおかげで、『翠星宮』への最適な道順はわかっていた。
どこなら走りやすいか、どことどこがショートカットできるかも全部。
勢いのままに『翠星珠』の眠る王の間の地下へ――といきたいところだが、そんなに簡単にはいかなかった。
許さなかったのは状況だ。
『闇の軍団』の手の者だろう、飛行戦力が大量に攻め寄せてきたのだ。
ハーピーにインプに死霊、大蝙蝠にコカトリス、ワイバーンに騎乗したダークエルフの飛行騎士。さらにさらには……。
「なんだあの巨体は……竜種っ? いや……ロック鳥かっ?」
その巨体から竜種に比肩する存在されている伝説の魔獣が、空を飛んでいる。
逃げ惑うエルフどもを睥睨するかのように、悠々と。
「……ほう、いいのう」
その悠然たる姿に、ワシはホウとため息をついた。
ちょっと前までのワシなら、まったく手が届かなかった存在だ。
だが、今は違う。
この体には魔力が満ちている。
魔力は気に変換でき、エルフの非力を補える。
レベルも上昇し、今や百四十超え。
全盛期のそれほどではないが、攻撃力はかなりのものだ。
頑健さでは大幅に見劣りするが、小柄なことによる俊敏さでもって補える。
つまり――今なら戦える。
ロック鳥とでもヤレる――殺し合える。
「はっはっはっは……いいのういいのう! 実にいいのう! 戦って! 壊し合って! 互いに死にゆくまで殺し合いたいところだのう!」
(バっっっカじゃないの!? 状況を考えなさい! 戦闘狂モード発動させてる場合じゃないでしょ!?)
「お……おう、そうだな。そうだった。おまえの言う通りだ。ワシの目的はエルフヘイムへ入り込んだ闇の軍団の駆逐……よりも先に、ピピたちが入り込んでいるだろう『翠星珠』を護ることであったわ」
フィオナの声で我に返ったワシは、即座に前言を撤回した。
「なのでまあ~……邪魔なところから片付けるとするか。あ~あっ」
(残念そうにしない!)
ワシはため息をつくと、魔力を気に変換して全身にいき渡らせた。
充実した力でもって跳ぶと、大蝙蝠の羽根を掴んで地面に叩きつけた。
ハーピーの足を掴んで投げてインプの群れを叩き落し、レイスの頭部に気を纏わせた小石をぶつけた。
こちらに向けて石化光線を吐こうとしたコカトリスの懐へ跳び込むと、首を手刀で斬り落とした。
「な……なんだこの化け物は……っ? エルフの娘がしていいことではないぞっ?」
物凄い勢いで魔物を狩りまくるワシに恐怖を覚えたのだろう、ワイバーンに騎乗したダークエルフの飛行騎士が慌てて振り返った。
手綱を引いてワイバーンの首を巡らせると、ランスを構えた――そのぶん速度が落ちて、狙いやすくなった。
「自分より遥かに巨大な魔物を素手で引きずり回すだと……はっ? さっきの声の主が貴様かっ? つまりエルフヘイムの……っ?」
ワシは高く跳ぶと、ワイバーンの首筋に降り立った。
「察しの通りだ。ワシがその、可憐な王女さまというわけだ」
「な……っ!?」
エルフの可憐な王女にまさかこんな距離の詰め方をされるとは思ってもいなかったのだろう、驚きに目を見開いたダークエルフの胸元に、ゴツンと拳を叩き込んだ。
「かっ……っ!?」
ダークエルフは血を吐きながら鞍から落ちると、地面に頭を打ちつけ絶命した。
「おっとっと……こらこら、暴れるでない」
乗り手を失ったワイバーンがギャアギャア騒ぐが……。
「なあ、おまえも元ご主人のようにはなりたくなかろう?」
首筋に拳を当てると、ギョッとした顔になった。
殺されるよりはマシと考えたのだろう、すっかりおとなしくなった。
「よしよし、いい子だ」
鞍に跨ると、首を撫でた。
騎乗用に飼われていたおかげで頭がいいのだろうワイバーンは、ワシの思い通りに動くようになった。
「おう、なかなかいい乗り物を得たな」
(……あんたってば、ホントにめちゃくちゃするわね。普通ワイバーンに乗るとか考える?)
「より速く目的地につければ、手段などどうでもいいだろうが。――と、ゆーわけで飛べワイバーン。名前は……ワイ助とかでいいか?」
(……ネーミングセンスも壊滅的ね)
呆れ声でツッコミを連発するフィオナはともかく、ワシはワイ助の横腹を蹴った。
手綱を操り、翠星宮のある方角へと飛んでいく。
「さあ~行け行けワイ助!」
「キャー!」
さすがはワイバーンというべきか、ワイ助の飛行速度は速かった。
図体がデカいおかげで他の飛行生物を圧倒できるし、尻尾に毒針という強力な武器があるのもデカいし、地形による影響を受けないのもデカいしで、ワシらはあっという間に翠星宮へと迫った。
あと少しで王の間にたどり着くだろうというところでしかし、最大の問題が立ちはだかった――ロック鳥だ。
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